脳血管障害とは
脳血管障害は、脳の血管に異常が生じて発症する疾患の総称で、「脳卒中」として知られています。代表的な疾患には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が含まれます。
これらの疾患の主な原因は、高血圧、動脈硬化、糖尿病、心房細動などであり、血管の狭窄や閉塞、破裂を引き起こします。
その結果、脳への血流が障害され、多様な症状が現れます。脳血管障害は早期診断と迅速な治療が極めて重要です。
脳梗塞とは
脳梗塞は脳血管障害の一種で、脳の血管が詰まり、血液が脳の一部に届かなくなることで発生します。
この状態が続くと、詰まった先の脳細胞が壊死し、後遺症を残すことがあります。
主な症状としては、片側の手足の麻痺、言語障害、意識障害、感覚障害、ふらつきなどが挙げられます。
壊死した脳細胞は再生できないため、早期発見・早期治療が重要です。
脳梗塞の種類
脳梗塞は原因によって以下のように分類されます。
1. 脳血栓症
脳の血管が動脈硬化などで詰まることで発症します。さらに以下の2つに分類されます。
ラクナ梗塞
高血圧が原因で、脳内の細い血管が詰まることにより発症します。
軽度の症状(めまいや手足のしびれ)が特徴ですが、再発を繰り返すと認知症やパーキンソン症候群などのリスクが高まります。
アテローム血栓性梗塞
太い血管に蓄積したアテローム(脂質などの塊)が原因で発症します。
糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が主な原因で、片麻痺や言語障害がみられます。
2. 脳塞栓症(心原性脳塞栓症)
心房細動などの不整脈が原因で心臓内にできた血栓が脳に運ばれ、血管を詰まらせることで発症します。
広範囲の脳梗塞を引き起こしやすく、重症化する傾向があります。
突然の片側麻痺や構音障害、失語が典型的な症状です。
脳梗塞の診断
脳梗塞が疑われる場合、以下の検査が行われます。
- 画像検査
- 頭部MRIやCTで脳の状態を確認します。
- 頸動脈超音波検査
- 動脈硬化による狭窄の有無を調べます。
- 心電図・心エコー
- 心房細動や心臓内血栓の確認を行います。
脳梗塞の治療
脳梗塞は迅速な治療が必要です。治療の目的は詰まった血管を再開通させ、脳細胞の壊死を最小限に抑えることです。
薬物療法
- 血栓溶解療法(rt-PA):発症から4.5時間以内であれば使用可能で、血栓を溶かして血流を回復します。
- 抗凝固薬や抗脳浮腫薬:血栓形成を防ぎ、脳の腫れを軽減します。
リハビリテーション
残存する脳機能を活用して失われた機能を補います。早期からのリハビリが予後を大きく左右します。
手術療法
- 血栓回収療法:カテーテルを使用して血栓を直接除去します(特に大血管閉塞が原因の場合)。
- バイパス手術:血流を改善するために別の血管をつなぎます。
一過性脳虚血発作(TIA)
一過性脳虚血発作(TIA)は脳梗塞に似た症状が一時的に現れますが、血流が自然に再開することで症状が消失します。
しかし、TIAは脳梗塞の前兆であり、3か月以内に脳梗塞を発症するリスクが高いとされています。
- 症状
- 片側の手足のしびれ、言語障害、視界が一時的に欠ける(黒内障)など。
- 重要性
- TIAの発症は脳血管疾患の警告サインです。自然に治まった場合でも、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
脳出血
脳出血は、脳内の血管が破れて血液が頭蓋内に漏れる疾患です。
発症原因として高血圧が最も多く、他にも動脈瘤や外傷が挙げられます。
主な症状
- 突然の激しい頭痛
- 吐き気・嘔吐
- 片側の手足の麻痺、構音障害
- 意識障害(重症の場合)
治療法
手術療法
血腫を除去し、脳圧を下げる手術を行います。
薬物療法
降圧薬や止血薬、抗浮腫薬を使用します。
リハビリテーション
機能回復を目指したリハビリを併用します。
くも膜下出血
くも膜下出血は脳動脈瘤が破裂し、脳と脊髄液の間に出血が広がる状態です。突然発症し、迅速な治療が求められます。
主な症状
- 突然の激しい頭痛
- 吐き気・嘔吐
- 障害、神経症状(麻痺や言語障害)
治療法
- クリッピング術:動脈瘤の根元をクリップで挟み血流を遮断。
- コイル塞栓術:カテーテルで動脈瘤内にコイルを詰める治療。
当院での対応
当院では、以下のような包括的な対応を行っています。
- 問診、神経学的診察と迅速な画像診断(MRI、CT、頸動脈超音波検査など)
- t-PA投与や血栓回収療法が必要な場合などは,緊急で基幹病院と連携
- 予防医療として生活習慣指導や適切な薬物治療を実施
患者さま一人ひとりの症状や背景に応じた個別対応を行い、最善の医療を提供いたします。
内頚動脈狭窄症
内頚動脈狭窄症は、首の両側に位置する内頚動脈が動脈硬化などの影響で狭くなり、脳への血流が低下する状態を指します。
内頚動脈は脳に酸素や栄養を供給する重要な血管であり、この血管が狭窄することで、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)などの脳血管障害を引き起こすリスクが高まります。
特に、狭窄が高度(70%以上)になると、脳卒中のリスクが大幅に増加するため、適切な診断と早期治療が非常に重要です。
内頚動脈狭窄症の症状
内頚動脈狭窄症の初期段階では、目立った症状が現れないことが多く、無症候性のまま進行することがあります。
しかし、狭窄が進むと以下のような症状が現れることがあります。
- 片側の手足のしびれや脱力。
- 視力障害:片目が一時的に見えなくなる(一過性黒内障)。
- 言語障害:言葉が出にくい、話しにくい。
これらの症状は一時的に現れて消えることもありますが、これは脳梗塞の前兆である可能性があります。
そのため、早期に医療機関を受診し、適切な検査を受けることが推奨されます。
内頚動脈狭窄症の治療
治療方法は、狭窄の程度や患者さまの全身状態に応じて異なります。以下に主な治療法を示します
1. 生活習慣の改善
- 禁煙:喫煙は動脈硬化を進行させるため、禁煙が必須です。
- 適度な運動:循環器の健康を促進します。
- バランスの取れた食事:脂質異常症や高血圧の改善に役立つ食生活を推奨します。
2. 薬物療法
軽度(狭窄率30~49%)から中等度の狭窄(狭窄率50~69%)では、薬物療法が基本となります。
- 抗血小板薬:血液の凝固を防ぎ、血流を改善(例:アスピリン、クロピドグレルなど)。
- スタチン:LDLコレステロールを低下させ、動脈硬化の進行を抑制。
3. 外科手術(内膜剥離術)
頚動脈内膜剥離術(CEA):外科的に頸部の内頚動脈を露出し、狭窄の原因である動脈硬化性プラークを除去します。
4. カテーテル治療(ステント留置術)
足の付け根や手首の血管からカテーテルを挿入し、狭窄部位にステント(金属製の網状チューブ)を留置して血管を広げます。
当院での対応
内頚動脈狭窄症は、早期の診断と治療によって脳卒中のリスクを大幅に軽減できる疾患です。
特に、定期的な健康診断で動脈硬化や血圧管理を行うことで、リスクの低減が期待されます。
症状に心当たりがある場合は、ご相談ください。
慢性虚血性変化
慢性虚血性変化とは、長期間にわたり脳への血流が不足することで、脳組織が少しずつダメージを受ける状態を指します。
この血流不足は、主に以下のような要因によって引き起こされます
- 動脈硬化:血管が狭くなることで血流が低下
- 加齢:血管の柔軟性が失われ、血流が減少
- 生活習慣病:高血圧や糖尿病などが関与
慢性虚血性変化は、脳血管障害の一つとして認識されており、早期発見と治療が重要です。
主な症状
慢性虚血性変化が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 歩行障害:歩きにくさやふらつき。
- 尿失禁:排尿コントロールの低下。
- 認知機能の低下:物忘れや判断力の低下など、認知症に似た症状が見られる場合もあります。
これらの症状が複数重なる場合、その他の認知症との鑑別が必要となるため、専門医の診察を受けることが推奨されます。
診断
慢性虚血性変化の診断には、脳の血流や構造を評価するための以下の検査が行われます。
- 頭部MRI
- 脳内の虚血性変化や構造的異常を確認。
- 脳血流検査
- 脳への血流量を測定。
「少し歩くのが億劫になってきた」「最近物忘れが増えた」といった小さな変化を見逃さないことが、脳の健康を保つ第一歩です。
こうした変化を感じた場合は、ご相談ください。
慢性虚血性変化の治療
慢性虚血性変化の進行を抑えるには、生活習慣の改善や薬物療法が重要です。具体的な治療方法は以下の通りです
1. 薬物療法
- 降圧薬:血圧を適切にコントロールし、血流を改善
- スタチン:動脈硬化の進行を抑制
2. 生活習慣の改善
- 健康的な食生活:野菜や果物を中心としたバランスの良い食事
- 適度な運動:ウォーキングや軽い運動を習慣化
- 禁煙:血管の健康を維持するために不可欠
当院での対応
慢性虚血性変化は、生活習慣や治療を通じて進行を遅らせることが可能です。
特に、高血圧や糖尿病などのリスク因子を適切に管理することで、脳の健康を長期間保つことができます。
小さな変化を見逃さず、必要に応じて専門医を受診することが、重大な脳血管障害を予防する鍵となりますとなりますので、当院にご相談ください。