当院では、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめとする神経変性疾患の診療を行っています。
これらの疾患は進行性の病気であり、早期の診断と適切な治療が患者さまの生活の質(QOL)を維持するために重要です。

パーキンソン病

パーキンソン病は、脳内で神経伝達物質「ドパミン」の分泌が低下することで発症する進行性の病気です。
ドパミンは脳から筋肉への指令を伝える役割を持ち、スムーズな体の動きを可能にします。
この物質が減少すると、運動のぎこちなさや震えなどの症状が現れます。

主な症状

パーキンソン病の症状は、運動症状と非運動症状に分けられます。

1. 運動症状

  • 静止時振戦:安静時に手足が規則的に震える。
  • 筋強剛(固縮):筋肉が硬直して動きがぎこちなくなる。
  • 無動(動作緩慢):動きが遅くなる、歩行困難、小さな字を書くなど。
  • 姿勢反射障害:バランスを保つのが難しく転倒しやすい。

2. 非運動症状

  • 自律神経症状(便秘、頻尿、発汗異常など)
  • 睡眠障害(REM睡眠行動異常など)
  • 嗅覚障害
  • 軽度の認知障害やうつ症状

診断方法

診断は臨床症状を基に行いますが、他疾患との鑑別や病態評価のため、以下の検査を補助的に実施します。

  • 丁寧な問診と神経学的診察
  • MRIやCT
  • MIBG心筋シンチグラフィー
  • ドパミントランスポーター(DAT)シンチグラフィー

治療法

パーキンソン病の治療は主に薬物療法が中心です。

  • レボドパ:ドパミンの前駆物質で、最も効果的。
  • ドパミンアゴニスト:ドパミン受容体を刺激して症状を緩和。
  • MAO-B阻害薬:ドパミンの分解を抑える。
  • COMT阻害薬:レボドパの効果を延長。

空腸投与用レボドパ・カルビドパ水和物配合剤(LCIG)

レボドパを腸管に直接持続投与する製剤。
経口薬で効果が安定しない患者さまに適応され、症状の変動を軽減します。
胃ろうを通して腸管に薬剤を投与する仕組みです。

ホスレボドパ・ホスカルビドパ持続皮下注

経口薬が難しい場合に用いられる持続注入型の治療。
LCIGと同様に腸管で薬剤を持続的に吸収する形をとることで、薬効の安定化を図ります。

DBS(脳深部刺激療法)

脳内の特定部位(視床下核や淡蒼球内節)に微弱な電気刺激を与え、症状を抑える治療法です。
手術が可能な患者さまに限定されますが、進行期の症状を緩和し、生活の質を大きく向上させる可能性があります。

また、運動療法や作業療法などのリハビリも、運動機能を維持するために重要です。

当院での対応

当院では、丁寧な問診、神経学的診察を行った上で、基幹病院と連携し、MRIや核医学検査を含む包括的な診断を行っています。
患者さま一人ひとりに合わせた治療プランを策定し、最新のガイドラインに基づいた医療を提供します。
DBS(脳深部刺激療法)などの治療が検討される患者さまには専門病院へ紹介しています。

脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症は、小脳や脊髄の神経細胞が徐々に変性し、運動失調や歩行障害を引き起こす進行性の神経変性疾患の総称です。
この疾患は、遺伝性と孤発性に分類され、遺伝性の場合、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性遺伝など多様な遺伝形式があります。

主な症状

  • 運動失調:手足の動きが不安定になり、歩行がぎこちなくなる。
  • 言語障害:話し方が不明瞭になる。
  • 嚥下障害:飲み込みが困難。
  • 眼球運動障害:眼球の動きが制限される。

診断と治療

診断には臨床症状の評価、家族歴の確認、MRIや遺伝子検査を行います。
治療は主に対症療法で、薬物療法やリハビリテーションが中心です。
また、遺伝性脊髄小脳変性症の場合、遺伝カウンセリングも重要です。

当院での対応

適切に診断を行い、患者さまの症状や進行度に応じたリハビリや生活指導を提供します。
必要に応じて専門病院と連携しています。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

ALSは、運動神経細胞が変性・消失することで筋力低下を引き起こす難病です。
指定難病であり、50~60代以降に多く発症します。
ALSの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与していると考えられています。
遺伝性のALSは全体の約5~10%で、残りの大部分は孤発性です。

主な症状

  • 筋力低下と筋萎縮:手足やのど、舌の筋肉が徐々に弱くなる。
  • 嚥下障害:食べ物が飲み込みにくくなる。
  • 呼吸筋の障害:呼吸が難しくなる。

治療法

薬物療法
リルゾール、エダラボン、メコバラミン
リハビリテーション
筋力維持や関節拘縮防止の運動療法
栄養管理
嚥下困難が進んだ場合、胃ろうを設置
呼吸ケア
在宅人工呼吸器や非侵襲的換気療法(NIPPV)の導入

当院での対応

ALSの患者さまには、基幹病院と連携して専門的な診断と治療を行っています。
生活支援や栄養管理、呼吸ケアに関する指導も提供しています。