パーキンソン病について―原因・症状・レム睡眠行動障害・治療をわかりやすく解説(最新エビデンス付き)

パーキンソン病は、動作が遅くなる(寡動/動作緩慢)振戦(ふるえ)筋強剛姿勢反射障害などの運動症状を主体とし、嗅覚低下・便秘・レム睡眠行動障害(RBD)などの非運動症状も目立つ疾患です。
診断は寡動+静止時振戦または筋強剛を確認し、除外項目・レッドフラグ・支持所見を総合して行います[1]

有病率は加齢とともに増加し、70代以降で急に多くなります[2][3]。治療はレボドパを中心に、ドパミン作動薬MAO‑B阻害薬、COMT阻害薬などを状況に応じて使い分けます[4]

当院では神経内科専門医が診断から薬物療法・リハビリ・生活指導まで丁寧にサポートします。レム睡眠行動障害(RBD)など睡眠の症状も併せて評価し、安全な療養環境づくりをご提案します[5]

目次

パーキンソン病とは(基本情報と年齢別有病率)

パーキンソン病は、脳の黒質という場所の神経細胞が少しずつ減り、ドパミンという神経伝達物質が不足して起こります。年齢とともに患者さんは増え、70代以降で急に多くなります

世界の大規模調査では、有病率は年齢とともに上昇し、60歳以上で約1%80歳以上で約2%です(図は10万人あたりで表示)[2][3]

年齢別有病率の棒グラフ(世界メタ解析より)

年齢別のパーキンソン病有病率(10万人あたりの患者数) 縦軸:10万人あたりの患者数(人)/横軸:年齢層(歳)。40-49:7、50-59:158、60-69:603、70-79:1251、80歳以上:2181 10万人あたりの患者数(人) 年齢層(歳) 0 440 880 1320 1760 2200 40–49 50–59 60–69 70–79 80以上 7 158 603 1251 2181

※図の値は10万人あたりです。例えば2181/10万人 ≈ 2.18%(80歳以上)。地域差・診断基準・調査手法により推定値は変動します[2][3]

まとめると:パーキンソン病は年齢とともに増える疾患で、70代以降で急増し、80歳以上は約2%程度です。

パーキンソン病の症状(運動症状・非運動症状)

代表的な運動の症状は、①動作の遅さ、②静止時のふるえ、③筋肉のこわばり、④バランスのとりにくさです。
一方で、非運動の症状としてにおいがわかりにくい便秘レム睡眠行動障害気分の落ち込みや不安自律神経の症状(立ちくらみ・排尿の困りごと など)がみられることがあります[3].

まとめると:運動症状だけでなく嗅覚・便通・睡眠の変化もチェックすると、早期発見のヒントになります。

パーキンソン病の原因(神経変性のしくみ)

脳の黒質でドパミン神経が減ること、そしてαシヌクレインというタンパク質がたまりやすくなることが特徴です(これをαシヌクレイノパチーと総称します)。
αシヌクレイノパチーとは、αシヌクレインがたまるタイプの病気のグループの呼び名で、パーキンソン病レビー小体型認知症多系統萎縮症などが含まれます[6]

発症には、加齢環境(農薬など)遺伝が組み合わさって関わると考えられています[3]

まとめると:単一の原因ではなく、加齢×環境×遺伝が重なって発症リスクが高まります。

パーキンソン病の初期に出やすいサイン

症状がはっきり出る前の「前駆期」から、いくつかの手がかりが集まると将来の発症リスクを見積もることができます。専門的には「尤度比(ゆうどひ)」という指標を使いますが、ここでは分かりやすく強さで示します[7]

パーキンソン病の前駆期の主な手がかり(強さ表示)

手がかり(代表的な定義) パーキンソン病の可能性を
どれくらい強める?
解説・備考
レム睡眠行動障害(夜間の寝言、手足をバタバタさせる) とても強い 将来、PD/LBD/MSAへ進む強い手がかりと評価[7]
においの低下 強い においがわかりにくくなるのは初期サインの一つ。
便秘 中くらい 非特異的。単独では決め手になりません。
DAT‑SPECTで線条体取り込み低下 強い ドパミン神経機能を反映する画像検査。
鑑別の限界があり、パーキンソン症候群と明確に弁別できない、早期陰性のことがある等の制約があります[28][29]

※DAT‑SPECT:Ioflupane(123I)SPECT(DaTSCAN)。保険適用・適応や読影は医師へご相談ください。

パーキンソン病の初期症状の詳しい解説はこちら

まとめると:RBD・嗅覚低下・DAT‑SPECT異常など強い手がかりが重なるほど、将来の発症リスクが高まります。

パーキンソン病の遺伝(代表的遺伝子)

パーキンソン病の多くは家族歴のない散発例ですが、単一の遺伝子が主な原因となる遺伝性のタイプもあります。

遺伝性パーキンソン病は概ね5〜10%程度ですが、集団差が大きく、年齢、地域、背景により変動します。

ここでは代表的な遺伝子を紹介します。

遺伝子 遺伝形式 発症しやすさの目安 臨床の特徴の傾向 治療開発の動向
LRRK2 常染色体優性 変異と人種で幅広い(例:G2019Sで中〜高) 進行がゆっくり、嗅覚低下・RBDが少なめという報告も キナーゼ阻害薬・アンチセンスなど
GBA1 危険因子(不完全浸透) 保因者の一部が発症(全体で10%前後の報告あり) やや若年発症・認知や自律神経症状が目立つ傾向 薬物・遺伝子治療の研究中
SNCA 常染色体優性 高浸透(重複・三重複などで若年発症) 家族歴あり、認知機能低下に関与 抗αシヌクレイン療法など
VPS35 常染色体優性 家系内で高いが稀 比較的典型的な症状像 病態解明段階
PRKNPARK2 常染色体劣性 両方の遺伝子に変化があると発症 若年発症・レボドパ反応良好、認知は保たれやすい 遺伝子治療の研究段階
まとめると:大半は散発ですが、遺伝性は約5–10%(集団差あり)

レム睡眠行動障害(RBD)とは

夢を見ている睡眠(レム睡眠)では本来、体の筋肉はゆるんでいます。
レム睡眠行動障害ではそのブレーキが外れ、夢の内容を「演じる」ように叫ぶ・手足をふる・起き上がるなどが起こります。
本人や同室者がけがをすることがあり注意が必要です。治療は寝室の安全対策+薬物療法です[5]

RBDに対する薬の効果

  • クロナゼパム症状が軽減する例が多いとする観察研究のまとめがあります。眠気・ふらつき・転倒などの副作用に注意。[11][5]

レム睡眠行動障害の詳しい解説はこちら

まとめると:まずは寝室の安全対策を徹底し、必要に応じて薬物療法を加えてコントロールします。

パーキンソン病の治療(薬・進行期治療・生活)

治療全体の位置づけ

  • 「薬物治療の比較」は、初期から用いる内服の設計図。目的は主症状の緩和とオン時間の最適化副作用の最小化
  • 「主に進行期の治療」は、内服だけでは制御困難な日内変動・運動合併症に対する持続投与・デバイス補助療法の選択肢。
  • 「生活・リハビリ」全病期の土台。転倒予防・睡眠の安全・栄養・住環境整備で、内服や機器治療の効果を最大化。

薬物治療の比較(はたらき・効果の目安・注意点)

薬剤 はたらき/期待できる効果 主な副作用・注意 使い分けの目安(具体例)
レボドパ
(カルビドパ/ベンセラジド合剤)
運動症状の改善が最大。初期治療の第一選択 悪心、低血圧、ジスキネジア(長期)、幻覚 日中の主症状が強い初期からの中心薬。高齢でも使いやすい。食事(たんぱく質)とのタイミング調整[4]
ドパミン作動薬
(プラミペキソール等)
運動改善は中等度 眠気・浮腫・幻覚衝動制御障害 若年で日中活動性が高い症例に検討。高齢・精神症状がある場合は慎重に[4]
MAO‑B阻害薬
(ラサギリン/セレギリン/サフィナミド)
軽症の症状緩和、併用でオン時間延長 不眠、悪心、相互作用(SSRI等とセロトニン症候群注意) 軽症でまずは穏やかに始めたい場合、またはレボドパの効きむらに併用[4]
COMT阻害薬
(エンタカポン/オピカポン
レボドパの効きを長持ちさせ、オフ時間を短縮オピカポンは約1時間のオフ短縮を示した試験あり[16][17] 下痢、尿の色変化、ジスキネジア増悪 ウェアリングオフが顕著な症例でレボドパに追加
アデノシンA2A拮抗薬
イストラデフィリン
レボドパ併用でオフ時間を短縮(約0.7〜1.2時間[18][19] ジスキネジア不眠幻覚、悪心 等 日中のオフが目立つ時に追加検討。精神症状の既往では慎重に。
ゾニサミド レボドパ併用でオフ時間を短縮(国内試験で有効性)[20][21] 食欲低下、眠気、腎結石 など 振戦の強い場合や、オフ時間の短縮を狙う場面で検討。

主に進行期の治療

治療 しくみ 対象の目安 効果の目安/注意点
空腸投与用レボドパ・カルビドパ腸用液(LCIG:デュオドーパ) 腹部の管(PEG‑J)から持続的にレボドパを送る 内服で調整しにくいオフが多い オフ時間を追加で約2時間短縮(12週試験で−1.9時間の差)。機器・手技に伴う合併症に注意[22]
レボドパ持続皮下投与(ホスレボドパ/ホスカルビドパ:ヴィアレブ 皮下から24時間持続投与(可溶化前駆体) 進行期で日内変動が大きい オン時間延長・オフ短縮。注入部の皮下結節・発赤など局所反応に注意。[23][24][25]
脳深部刺激療法(DBS) 脳の特定部位(STN/GPiなど)を電気刺激して回路を整える 薬で十分に調整できない運動合併症がある方 運動症状・日内変動の改善が期待。適応の要点はL‑dopa反応性が保たれ、重度の認知機能低下や制御不能な精神症状がないこと。専門施設で評価・フォロー[26][27]

生活・リハビリの工夫

  • 運動:有酸素運動・筋力・バランス訓練は歩行・転倒予防に役立ちます。
  • 睡眠・RBD対策:ベッド周囲の安全化(角保護・床マット)+薬剤調整[5]
  • 栄養・便秘:水分・食物繊維の確保、下剤の調整。
  • 住環境:段差の解消・手すりの設置・照明で明るく。
まとめると:内服で症状とオン時間を最適化→難治な変動には進行期治療(LCIG・持続皮下注・DBS)を追加→運動・睡眠・栄養・住環境の整備は全期間の土台です。

この記事の監修者

大崎 雅央(Masao Osaki)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
日本神経学会 神経内科専門医・指導医/日本内科学会 総合内科専門医

最終更新:

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よくある質問(FAQ)

Q1. パーキンソン病は治りますか?

現在、原因そのものを止める「治す」治療は確立していませんが、症状を和らげて生活の質を保つ治療は大きく進歩しています。お薬の調整やリハビリ、必要に応じて進行期治療を組み合わせます。

Q2. どの科を受診すればよいですか?

脳神経内科(神経内科)が専門です。当院でも診断から治療、生活支援まで丁寧に対応します。

Q3. RBDがあると、必ずパーキンソン病になりますか?

必ずではありませんが、長期的に移行する人が多いことがわかっています(定義:PSGで診断されたiRBD→転帰はPD/LBD/MSA[14][15]。定期的なフォローと安全対策が大切です。

Q4. 遺伝の心配があります。検査は受けた方がよいですか?

遺伝性は全体の5〜10%前後ですが、集団差があります。若年発症・家族歴がある方などは検査を検討します。結果の解釈には専門的なカウンセリングが有用です[8][9][10]

Q5. レボドパはいつから始めるべきですか?

症状で生活に支障が出てきたら時期を選ばず開始できます。初期の第一選択とされます[4]

Q6. 車の運転はできますか?

個人差があります。眠気・注意力への影響や薬の副作用がないかを主治医と確認し、安全を最優先で判断します。

参考文献

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  • [1] Postuma RB, et al. MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease. Mov Disord. 2015. PubMed
  • [2] Pereira GM, et al. Global prevalence of Parkinson’s disease: meta‑analysis. npj Parkinson’s Disease. 2024. Publisher
  • [3] Bloem BR, Okun MS, Klein C. Parkinson’s disease. The Lancet. 2021;397:2284–2303. PubMed
  • [4] AAN guideline: Early PD pharmacologic treatment. Neurology. 2021. PubMed
  • [5] AASM guideline for RBD management. J Clin Sleep Med. 2023. PubMed
  • [6] Calabresi P, et al. Alpha‑synuclein in PD. 2023 review. PubMed
  • [7] Berg D, et al. MDS research criteria for prodromal PD (2015/2019 update). Mov Disord. PubMed
  • [8] Girija MS, et al. Monogenic Parkinson’s disease overview. 2025. PubMed
  • [9] Trevisan L, et al. Genetics of PD review. 2024. PubMed
  • [10] Large cohort reporting ≈13% genetic findings in PD (Brain 2024). PubMed
  • [11] Systematic review on clonazepam for RBD (observational). 2022. PubMed
  • [12] Miyamoto T, et al. The REM sleep behavior disorder screening questionnaire: validation study of the Japanese version (RBDSQ‑J). Sleep Med. 2009;10(10):1151–1154. Europe PMC
  • [13] Nomura T, et al. Validity of the Japanese version of the RBDSQ in the general population. Psychiatry Clin Neurosci. 2015;69(8):480–486. PubMed
  • [14] Postuma RB, et al. Prognosis of PSG‑confirmed idiopathic RBD. Brain. 2019;142(3):744–759. PubMed
  • [15] Iranzo A, et al. Multicenter cohort of iRBD conversion. Lancet Neurol. 2013;12(5):443–453. PubMed
  • [16] Lees AJ, et al. Opicapone RCT (OFF time ≈ −1h). JAMA Neurol. 2017. PubMed
  • [17] Review of opicapone efficacy. 2023. PubMed
  • [18] Cummins L, et al. Istradefylline: clinical updates. 2022. PubMed
  • [19] Hauser RA, et al. Istradefylline RCT (OFF −1.2h). 2003. PubMed
  • [20] Murata M, et al. Zonisamide add‑on RCT (Japan). 2015. PubMed
  • [21] Essam M, et al. Zonisamide in Parkinson’s: review. 2024. PubMed
  • [22] Olanow CW, et al. LCIG 12‑week RCT(差 −1.9h). Lancet Neurol. 2014. PubMed
  • [23] KEGG DRUG: Foslevodopa/Foscarbidopa (VYALEV) – Japan label. KEGG
  • [24] AbbVie Inc. VYALEV(foslevodopa/foscarbidopa)製品情報(日本). AbbVie Japan
  • [25] FDA Multi‑Discipline Review of ABBV‑951(includes note on Japan marketing start). FDA
  • [26] AAN practice guideline on DBS for PD. 2018. PubMed
  • [27] Hartmann CJ, et al. DBS in Parkinson’s: review. 2019. PubMed
  • [28] PMDA: DaTSCAN(123I‑ioflupane)医薬品インタビューフォーム. PMDA
  • [29] 国立精神・神経医療研究センター:パーキンソン病診療におけるDATスキャンの解説(保険適用等). NCNP