もの忘れとは
もの忘れは、年齢とともに誰もが経験する一般的な現象で、これは「良性健忘」と呼ばれます。
例えば、「どこに鍵を置いたのか思い出せない」「名前がすぐに出てこない」といった現象がこれに該当します。
このようなもの忘れは加齢による脳の正常な変化である場合が多いですが、認知症や軽度認知障害(MCI)の兆候である可能性もあります。
そのため、もの忘れが日常生活に影響を与えるほど頻繁になる場合には注意が必要です。
認知症とは?
認知症は、脳の神経細胞が徐々に減少することで、脳の機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす疾患です。
認知症は症状や進行度によって個々の患者さまで異なりますが、主に以下の原因によって発症します。
- 神経変性疾患:アルツハイマー病のように神経細胞がゆっくりと失われる疾患。
- 脳血管障害:脳梗塞や脳出血が原因で脳の機能が低下。
認知症の初期段階では、記憶力の低下や判断力の低下が見られますが、病状が進行すると、日常生活のさまざまな場面で支障をきたします。
認知症の中核症状
- 記憶障害:過去に体験した出来事そのものを忘れる。
- 見当識障害:時間、場所、人物がわからなくなる。
- 判断力や理解力の低下:計画を立てたり、物事を順序よく行うことが難しくなる。
認知症の周辺症状(BPSD)
- 幻覚や妄想:存在しないものが見えたり、盗難の被害妄想を抱く。
- うつ状態や興奮:気分の落ち込みや怒りっぽさが増す。
- 徘徊:目的がないまま歩き回る。
軽度認知障害(MCI)とは
軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)は、認知症と診断されるには至らないものの、記憶力や注意力が低下している状態を指します。
この状態では、日常生活には大きな支障はないものの、放置しておくと認知症に進行する可能性が高いとされています。早期発見と適切な介入が重要です。
MCIの主な特徴
- 記憶力や注意力の低下が見られるが、日常生活は自立して行える。
- 約5年以内に50%の患者さまが認知症に進行するとされています。
MCIの症状例
- 予定を忘れることが増えた。
- 大切な物を失くすことが多くなった。
- 最近の会話内容を思い出せない。
- 趣味や日常の活動に興味が湧かない。
認知症の種類
認知症には70種類以上の疾患が含まれますが、以下の三大認知症がその約8割を占めます。
1. アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、最も一般的な認知症で、全体の約50~60%を占めます。
この疾患は、脳内に「アミロイドβ」と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積し、神経細胞が徐々に失われることで発症します。
主な症状
- 初期:最近の出来事を忘れる(記憶障害)。
- 中期:時間や場所がわからなくなる(見当識障害)。
- 進行:判断力や理解力の低下、感情のコントロールが困難になる。
治療
- 抗アミロイドβ薬(例:レカネマブ):脳内のアミロイドβの蓄積を減少させ、進行を遅らせる効果。
- コリンエステラーゼ阻害薬:神経伝達を補助する薬剤。
- NMDA受容体拮抗薬:過剰な神経興奮を抑える。
2. 血管性認知症
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で発症します。
特徴として、症状が階段状に悪化することが挙げられます。
主な症状
- 記憶障害に加え、注意力や計画性の低下。
- 手足の麻痺や運動障害を伴う場合もある。
治療
- 原因となる生活習慣病(高血圧、糖尿病など)の管理。
- リハビリテーションによる運動機能や認知機能の維持。
3. レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳内にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積することで発症します。
主な症状
- 認知機能の変動:良い時と悪い時が交互に現れる。
- 幻視:実際には存在しないものが見える。
- パーキンソン症状:筋固縮、動作緩慢、姿勢不安定など。
治療
- レボドパ製剤:パーキンソン症状を緩和。
- NMDA受容体拮抗薬:神経細胞のダメージを軽減。
その他の認知症
- 特発性正常圧水頭症:脳脊髄液の過剰蓄積が原因で、歩行障害、認知機能の低下、尿失禁が見られる。
- 前頭側頭型認知症:初期には行動や人格の変化が目立ち、後期には言語機能が低下。
- アルコール性認知症:長期的な過度の飲酒により脳が損傷を受ける。
当院での対応
当院では、もの忘れや早期の認知症が疑われる患者さまに以下の対応を行っています。
- 神経学的診察:詳細な問診と認知機能テスト。
- 画像検査:MRIや脳血流検査を用いて原因を特定。
- 治療プランの提供:薬物療法やリハビリテーションを組み合わせた個別対応。
認知症の早期発見と適切な治療は、患者さまとそのご家族の生活の質を向上させるために重要です。
気になる症状がある場合は、ぜひ当院にご相談ください。