パーキンソン病の初期に気づくサイン

パーキンソン病は、手のふるえ・動作の遅さなどの運動症状より前から、匂いがしない(嗅覚低下)便秘、夜間に寝言や叫び声、手足をバタバタさせる動きが出る(レム睡眠行動障害:RBD)などの非運動症状が現れることがあります。
このページでは、ご家庭で気づきやすい変化受診の目安を、解説いたします。

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科(吉祥寺駅徒歩1分)では、神経内科専門医が丁寧な問診、神経学的診察、核医学検査などで診断を行い、治療につなげます。

パーキンソン病の詳しい解説・治療はこちら

目次

要点サマリー

  • 嗅覚低下・便秘・レム睡眠行動障害(RBD)は、運動症状より早い時期から出ることが多いサインです。
  • RBDのある方は、長期的にパーキンソン病/レビー小体型認知症/多系統萎縮症へ移行するリスクが高いと報告があります。
  • チェック表で「複数の項目に当てはまる」「けがを伴う睡眠中の行動がある」場合は受診をおすすめします。
  • 嗅覚低下は鼻の病気やウイルス感染でも起こります。耳鼻科の評価+必要に応じて脳神経内科へ。
初期サインから診断までのイメージ 初期サインから診断までのイメージ 嗅覚低下 便秘 レム睡眠行動障害 腕振り低下 軽いふるえ 診断
まとめると:非運動症状+軽い運動変化の組み合わせが「初期のサイン」です。

日常の変化チェック表、受診の目安

以下は自己評価の目安です。複数当てはまる・日常生活に影響・睡眠中にけががある場合は受診をご検討ください。

項目 こんなとき注意 目安の強さ チェック
匂いがしない/弱い 数年以上続く・両鼻・風邪や鼻づまりがない 強い
便秘が続く 週3回未満・硬く出にくい・いきむ/腹部不快
睡眠中の大きな声や激しい動き(寝言・叫び声・手足をバタバタさせる・ベッドから落ちる 等) 睡眠中の受傷や同室者の被害がある とても強い
手のふるえが軽く出る じっとしている時/道具を使う時のどちらかに出る
片方の腕の振りが減る・歩幅が小さい 動画で以前と比べて変化がある
字が小さくなる/声が小さい 家族からの指摘が増えた
立ちくらみ・尿の悩み ふらつく・失神しそう・夜間頻尿
まとめると:複数のチェックが重なるほど初期のサインの可能性が高まります。

家族ができる観察のコツ

  • 歩行の様子を動画で記録(腕の振り・歩幅・左右差)。
  • 寝室の安全対策(角の保護・床マット)と、睡眠中の行動をメモ(日時・内容・けが)。
  • 便通をカレンダーで見える化(回数・硬さ・薬の有無)。
  • 嗅覚は同じ物で月1回チェック(コーヒー豆・石けん・オレンジ皮など)。
まとめると:「動画・記録・同じ条件」で変化を追うと、診察に役立ちます。

パーキンソン病の初期に出やすいサイン

症状がはっきり出る前の「前駆期」から、いくつかの手がかりが集まると将来の発症リスクを見積もることができます。専門的には「尤度比(ゆうどひ)」という指標を使いますが、ここでは分かりやすく強さで示します[7]

パーキンソン病の前駆期の主な手がかり(強さ表示)

手がかり(代表的な定義) パーキンソン病の可能性を
どれくらい強める?
解説・備考
レム睡眠行動障害(夜間の寝言・手足のバタバタ) とても強い 将来、PD/LBD/MSAへ進む強い手がかりと評価[7]
においの低下 強い においがわかりにくくなるのは初期サインの一つ。
便秘 中くらい 非特異的。単独では決め手になりません。
DAT‑SPECTで線条体取り込み低下 強い ドパミン神経機能を反映する画像検査。
鑑別の限界があり、パーキンソン症候群と明確に弁別できない、早期陰性のことがある等の制約があります[28][29]

※DAT‑SPECT:Ioflupane(123I)SPECT(DaTSCAN)。保険適用・適応や読影は医師へご相談ください。

まとめると:RBD・嗅覚低下・DAT‑SPECT異常など強い手がかりが重なるほど、将来の発症リスクが高まります。

Braak仮説とBody‑first/Brain‑firstの考え方(どこから病気が始まるの?)

パーキンソン病では、神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質がたまり(レビー病理)、神経の回路に沿って広がっていくと考えられています。
その出発点についての考え方は、次のように進化してきました。

① 以前の主流:Braak(ブラーク)仮説

2003年、Braakらはにおいの回路(嗅球)や迷走神経の核(延髄)から変化が始まり、下から上へ脳の広い範囲へ進むという「段階説」を提案しました[15][16]。ただし、その後の研究ですべての人がこの順番に当てはまるわけではないことも示されています[17]

② 最近の考え:Body‑first と Brain‑first(2つのスタート地点)

近年、2つのタイプが提案されています。
Brain‑first(脳から下行)では、嗅球や扁桃体(鼻から入るにおいの経路など)で先に変化が始まり、そこから体の自律神経へ広がります。
Body‑first(腸管・自律神経から上行)では、腸・自律神経(迷走神経など)から始まり、のちに脳へ登っていくと考えられます[18][19][20]

Body‑first と Brain‑first の概念図 Body‑firstは腸・自律神経から上行、Brain‑firstは嗅球・扁桃体から下行。早期症状の違い(レム睡眠行動障害/便秘 vs 嗅覚低下)を示す。 Body‑first(腸管・自律神経から始まり上行) 出発:腸・自律神経 経路:迷走神経 → 脳幹 → 中脳 早期: レム睡眠行動障害、便秘、立ちくらみ 心臓自律神経: MIBG取り込み低下が出やすい。 脳へ“のぼる” Brain‑first(脳から始まり下行) 出発:嗅球・扁桃体(鼻の経路) 経路:大脳辺縁系 → 中脳 早期:嗅覚低下、片側の動かしにくさ 心臓自律神経:初期は保たれる例も 体へ“おりる”

症状の出方(よくあるパターン)

項目 Body‑first(腸管・自律神経から始まり上行) Brain‑first(脳から始まり下行)
初期に出やすい レム睡眠行動障害(寝言・叫び声・手足の激しい動き)便秘、立ちくらみなど自律神経症状 嗅覚低下、片側の動きにくさ(左右差が目立つこと)
運動症状の出方 診断時点では左右差が小さい・進行がやや速いとする報告も[20] 片側優位に始まりやすいとする報告(個人差あり)[20]
注意 どちらのタイプも最終的には似た症状がそろう傾向があり、あくまで研究上の分類です。個人差が大きく、診断や治療は総合判断で行います[18][19]
まとめると:出発点が「体」か「脳」かで、早期の症状(レム睡眠行動障害/便秘や嗅覚低下など)の出方に違いが見られるという最新の見方です(最終的な診断は総合評価で行います)。

匂いがしない(嗅覚低下)の見方とよくある原因

匂いがしないと感じたら、まずは鼻の病気やウイルス感染(副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、感冒、COVID‑19 など)がないか確認します。
一方で、パーキンソン病の初期サインとして嗅覚低下が目立つことがあるため、鼻の原因が乏しいときは脳神経内科での相談をおすすめします。

原因 特徴 まずの受診先 備考
副鼻腔炎・鼻ポリープ/アレルギー 鼻づまり・鼻水・においの通りが悪い 耳鼻科 治療で改善することが多い
ウイルス感染(感冒・COVID‑19など) 急に匂いがしない/味が薄い 内科・耳鼻科 嗅覚訓練が役立つことも
パーキンソン病の初期 鼻症状が少ないのに匂いが弱い/長く続く 脳神経内科 嗅覚検査+神経診察で評価
頭部外傷後 事故や転倒の後から匂い低下 耳鼻科・脳神経内科 回復に時間がかかることも
まとめると:鼻の病気が主因かをまず確認し、鼻症状が乏しい持続する嗅覚低下は脳神経内科へ。

手のふるえ(振戦)の原因と見分け方

振戦(しんせん)は「リズミカルなふるえ」の総称で、原因はさまざまです。
じっとしている時に目立つ静止時(安静時)振戦」はパーキンソン病で多く、手を伸ばす・コップを持つなどの姿勢・動作時に目立つ場合は本態性振戦などが考えられます。甲状腺機能亢進、薬剤(気管支拡張薬・一部の抗うつ薬・リチウム・バルプロ酸など)、アルコール離脱などでも起こります。

タイプ 特徴 家庭でのヒント 相談先
本態性振戦 両手の姿勢・動作時に左右対称のふるえ。家族歴あり コップ・箸・字を書くときに増える/アルコールで一時軽減 脳神経内科
パーキンソン病 安静時優位。片側から始まりやすい。動作の遅さ・腕振り低下を伴う 座って膝に手を置いた時にピルロール様のふるえ 脳神経内科
生理的振戦の増強 緊張・カフェイン・睡眠不足で一時的に増える 休息・カフェイン量の調整 かかりつけ
薬剤性・内分泌 β刺激薬・一部向精神薬・甲状腺機能亢進など お薬手帳を確認・採血で評価 内科・脳神経内科
まとめると:安静時か動作時か/左右差/随伴症状が見分けの手がかりです。

レム睡眠行動障害(RBD)— 特徴・受診の目安・対策睡眠の異常行動

レム睡眠行動障害(RBD)は、夢の内容に合わせた大きな寝言・叫び声・手足の激しい動きなどが現れ、ベッドから落下・同室者への打撲などのけがにつながることがある睡眠障害です。
パーキンソン病やレビー小体型認知症などのαシヌクレイノパチーの前駆サインとして注目されており、長期的な神経変性疾患への移行リスクが高いことが知られています。

家庭で気づけるポイント

  • 寝言・叫び声、殴る/蹴る/手足を振り回すなどの動きが反復する。
  • 本人は夢見の生々しさを覚えていることがある。
  • 受傷(打撲/裂創/落下)や同室者の被害がある。
  • アルコール・睡眠不足・一部薬剤で悪化することがある。

まずの対策(安全確保)

  • ベッド周囲の角の保護、床にマットを敷く、割れ物/障害物の撤去。
  • 同室者と合図の取り決め(危険を感じたら声掛け/距離を取る等)。
  • 就寝前の飲酒を控える、睡眠不足の解消。

受診の目安・医療での評価

  • 受傷を伴う/同室者の被害がある、もしくは頻度が増えている場合は受診を。
  • 問診・睡眠中の動画/メモ、合併症薬の確認、必要に応じて睡眠ポリグラフ検査
  • 治療:状況に応じて睡眠衛生指導+薬物療法(例:クロナゼパム)が検討されます。高齢者ではふらつき/日中の眠気に注意し、総合判断で調整します。

レム睡眠行動障害(RBD)の詳しい解説・FAQはこちら

まとめると:RBDはけがを伴いやすい重要サイン。安全対策+専門医受診で、合併症や将来リスクを見据えた対応が大切です。

パーキンソン病と便秘 — 特徴と治療の考え方

便秘はパーキンソン病で非常に多い自律神経症状で、運動症状より早い段階から始まることもあります。
胃腸の動きの低下・排便協調の乱れ・一部薬剤(抗コリン薬など)の影響が絡み合い、硬く出にくい・強くいきむ・回数が少ないなどとして現れます。

パーキンソン病で見られる便秘の特徴

  • 長期に持続しやすい/生活の質の低下(腹部不快、食欲低下)。
  • 便が硬い/出し切れない感覚、トイレ時間が長くなる。
  • 夜間頻尿や立ちくらみなど他の自律神経症状を伴うことがある。
  • 抗コリン薬・鉄剤・オピオイドなどで悪化することがある。

家庭でできる対策(基本)

  • 十分な水分と、合う範囲での食物繊維(慢性の強い便秘では繊維が合わない場合も。症状に応じて調整)。
  • 毎日同じ時間の排便習慣づくり、姿勢(足台で前傾)の工夫、軽い運動。
  • 整腸薬・浸透圧性下剤(例:ラクツロース、マクロゴール製剤)などの活用は医師/薬剤師に相談。

医療での主な治療選択肢

カテゴリ ポイント
浸透圧性/便を柔らかく 酸化マグネシウム、マクロゴールなど 水分を腸へ引き込み排便を促進。腎機能や電解質に注意。
分泌促進(上皮機能) ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバット 等 腸液分泌や胆汁酸経路を利用。慢性便秘で有効例多数。
刺激性/頓用 センノシド、ピコスルファート 等 連用で効きにくくなる/腹痛の副作用。頓用で使い分け。
薬剤見直し 抗コリン薬・鉄剤などの調整 悪化因子を減らす。自己判断での中止は避ける。

※急な強い腹痛・嘔吐・発熱・血便・体重減少などを伴う場合は、早めの医療機関受診をおすすめします。

まとめると:便秘はよくある前駆/併存症状。生活習慣+薬物療法の段階的な組み合わせで、無理なく改善を目指します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 嗅覚低下だけでパーキンソン病と決まりますか?

決まりません。嗅覚低下は鼻の病気やウイルス感染でもよく起こります。鼻の原因を除外した上で、便秘やレム睡眠行動障害など他のサインが重なる場合は脳神経内科でご相談ください。

Q2. レム睡眠行動障害(RBD)の治療はありますか?

まずは寝室の安全対策が基本です。薬物療法としてクロナゼパムなどが推奨されることがあります。年齢や合併症により副作用(眠気・ふらつき等)に注意します。

Q3. DAT‑SPECTは受けるべきですか?

DAT‑SPECTは診断を補助する検査で、典型例では不要なこともあります。早期の一部では正常に見えることもあり、結果と診察の総合判断が大切です。

Q4. 便秘はどれくらい続けば相談した方がよいですか?

数週間以上続く、生活の質に影響する、腹痛・体重減少・血便を伴う場合は受診ください。パーキンソン病の前から長く続く例もあります。

Q5. 家でできる嗅覚チェックは?

同じ香り(例:コーヒー豆・石けん・オレンジ皮)で月1回、左右の鼻を別々に確認します。

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この記事の監修者

院長 大﨑 雅央(Masao Osaki)

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科
日本神経学会 神経内科専門医/日本内科学会 総合内科専門医

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参考文献(代表)

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  • [1] Bloem BR, Okun MS, Klein C. Parkinson’s disease. Lancet. 2021;397:2284–2303. PubMed
  • [2] Heinzel S, et al. Update of the MDS research criteria for prodromal Parkinson’s disease. Mov Disord. 2019. Publisher
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