吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
大﨑 雅央
東京大学医学部卒神経内科専門医総合内科専門医
プロフィール
60秒でわかる筋肉の病気
- 筋肉の病気は、筋ジストロフィーとミオパチーに分けて考えます。筋ジストロフィーは遺伝子の変化、ミオパチーは炎症性・先天性・ミトコンドリアなど原因が異なります。1234
- よくある症状は、階段・立ち上がり・つまずき・腕の上げにくさです。顔の筋力低下、まぶたの下がり、飲み込みにくさ、息切れ、動悸、CK高値も手がかりになります。
- 息苦しさ、むせ、濃い褐色尿、急な悪化は早めの確認が必要です。呼吸・飲み込みの筋肉、筋肉の強い壊れ、炎症性筋疾患などを考えます。156
- 検査は血液検査、筋MRI、筋電図、筋生検、遺伝学的検査を組み合わせます。CK、自己抗体、薬の服用歴、症状の分布を合わせて確認します。17834
- 治療は病型で大きく変わります。筋ジストロフィーはリハビリ・呼吸・心臓・栄養の支援、炎症性筋疾患はステロイドや免疫療法を中心に考えます。9101112
- 生活では、転倒・むせ・呼吸を守ることが大切です。無理のない運動、ストレッチ、飲み込みの確認、呼吸の確認を組み合わせて生活を支えます。
レッドフラッグ(早めに確認したいサイン)
結論息苦しさ、むせ、濃い褐色尿、急な悪化は早めに確認します。呼吸・飲み込みの筋肉の障害、筋肉の強い壊れ、炎症性筋疾患、心臓の合併などを考えます。156
早い治療ほど回復しやすい病型があります。迷う場合は、現在の症状、検査値、内服薬、家族歴をまとめて早めにご相談ください。1
- 息苦しさ・会話がつらい・むせが増えた
- 濃い褐色尿がある
- 数日〜数週で急に筋力低下が悪化している
- とても高いCKを指摘された
- 心電図異常、動悸、息切れがある
- 強い飲み込みの障害や、発熱を伴う息苦しさがある
まとめ急な悪化や呼吸・飲み込みの問題があるときは、通常の外来予約だけで待たず、早めの受診や救急相談を優先します。
筋ジストロフィーとは
結論筋ジストロフィーは、筋肉の細胞がこわれやすくなる遺伝性の病気の総称です。代表的な病型にデュシェンヌ型、ベッカー型、肢体型、顔面肩甲上腕型、眼咽頭筋型、筋強直性ジストロフィーなどがあります。2101113814
デュシェンヌ型・ベッカー型はいずれもDMD遺伝子の変化で、ジストロフィンというたんぱく質が不足します。
病型によって症状の出方や進み方、心臓・呼吸・飲み込みなどの合併症が異なります。
まとめ筋ジストロフィーは遺伝子の変化が原因です。病型ごとの違いを確認しながら、合併症も含めて見ていきます。
筋ジストロフィー:原因・遺伝・種類と症状
結論病名・年齢・症状の分布と遺伝情報を合わせて全体像をつかみます。階段や立ち上がりの困難、つまずきやすさ、腕の上げにくさ、肩甲骨の翼状、ふくらはぎの仮性肥大、飲み込みにくさ、動悸や息切れが手がかりになります。213814
- よくある症状:階段や立ち上がりの困難、つまずきやすい、腕を上げ続けにくい、肩甲骨の翼状、ふくらはぎが固い/太い、表情が乏しい、口笛が難しい、飲み込みにくい、動悸や息切れ。
- 原因・遺伝:遺伝子の変化により筋肉の構造や修復がうまくいかず、ゆっくり進みます。常染色体優性/劣性やX連鎖で遺伝しますが、家族にいなくても新しく起こる変化で発症することがあります。28
| 疾患 | 好発年齢 | 代表的症状・手がかり | 自然歴 | 原因遺伝子/遺伝形式 |
|---|---|---|---|---|
| デュシェンヌ型筋ジストロフィー | 幼児期(2〜5歳) | 太もも・骨盤周りの筋力低下、転びやすい、ふくらはぎの仮性肥大、CKが高い、心筋の障害・呼吸筋の低下21011 | ゆっくり進行。思春期ごろに歩行を失うことが多いが、ステロイドと総合的ケアで歩行期間がのびます1011 | DMD(ジストロフィン)/X連鎖 |
| ベッカー型筋ジストロフィー | 思春期〜成人 | 近位筋の弱さ、運動で疲れやすい、ふくらはぎが太い、CK高値。ときに心筋症が先に目立つ2 | ゆっくり進行。成人期まで歩ける方が多いが、心筋症が経過に影響します2 | DMD(ジストロフィンが一部残る変化)/X連鎖 |
| 肢体型筋ジストロフィー | 学童〜成人 | 肩・骨盤帯の筋力低下、階段がつらい。筋MRIの分布と遺伝子検査が手がかり8 | 幅がある(タイプにより重さや心肺の合併の頻度が異なる)8 | CAPN3、DYSF、サルコグリカン遺伝子群ほか/常染色体(優性/劣性)8 |
| 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー | 思春期〜成人 | 口笛が吹きにくい・目を強く閉じにくいなど顔の筋力低下、肩甲骨の翼状化、左右差が目立つ13 | ゆっくり進行。命に関わることは少ないが、腕を上げ続ける・歩くなどに支障が残り得る13 | 4q35のD4Z4反復短小化→DUX4発現/常染色体優性13 |
| 眼咽頭筋型筋ジストロフィー | 40〜60代 | 眼瞼下垂と飲み込みにくさが中心。構音障害。近位筋は軽いことが多い | ゆっくり進行。飲み込みの問題は少しずつ強くなり、むせ・体重減少に注意 | PABPN1 GCN反復延長/常染色体優性(まれに劣性) |
| 筋強直性ジストロフィー1型 | 出生〜成人(表現型は多様) | 筋強直(力を抜きにくい)、遠位筋の弱さ、白内障、心臓の伝導異常、内分泌の合併など14 | ゆっくり進行。いろいろな臓器に症状がたまっていく。心臓のリズム異常を見ていくことが大切。世代が下がるほど重くなりやすい14 | DMPK(CTG反復拡大)/常染色体優性14 |
| 筋強直性ジストロフィー2型 | 成人(30〜60歳) | 近位筋の筋痛・こわばり、筋強直は軽め、白内障、内分泌異常14 | ゆっくり進行。1型より心臓・呼吸の問題は軽い傾向だが個人差あり14 | CNBP(CCTG反復拡大)/常染色体優性14 |
まとめ病名、発症年齢、症状の分布、遺伝形式を合わせて、どの病型を考えるかを見ていきます。
ミオパチー顔貌とは
結論顔の筋力低下は、筋肉の病気を考える重要な手がかりです。顔面肩甲上腕型、眼咽頭筋型、筋強直性ジストロフィーなどで目立つことがあります。1314
ミオパチー顔貌は、顔の筋肉が弱いことで表情が乏しく見えたり、口が少し開きがち、口笛が吹きにくい、といった所見を指します。
顔面肩甲上腕型では目を強く閉じにくい・口笛が難しい、眼咽頭筋型ではまぶたが下がる・飲み込みにくい、筋強直性ジストロフィーではこわばって力が抜けにくい(筋強直)や特徴的な表情がみられます。1314
まとめ顔の筋力低下、まぶた、口笛、飲み込みは、病型を考えるときの重要な観察ポイントです。
大人になってからの筋ジストロフィー
結論成人になってから気づかれる筋ジストロフィーもあります。顔面肩甲上腕型、眼咽頭筋型、筋強直性ジストロフィー2型、一部の肢体型やベッカー型などです。13814
「最近、肩が上がらない」「飲み込みづらい」「階段がつらい」「ふくらはぎが太い」「動悸や息切れが気になる」などの変化がヒントになります。
ゆっくり進むため、年齢や運動不足だけで説明されやすいことがあります。日常の小さな変化を手がかりに、早めに確認することが大切です。
まとめ大人でも起こるタイプがあります。小さな変化でも、経過と症状の分布を確認します。
ミオパチー:定義と主な種類(炎症性/先天性/ミトコンドリア)
結論本ページでは、筋ジストロフィーを除いた筋肉の病気をミオパチーとして見ていきます。主に炎症性筋疾患、先天性ミオパチー、ミトコンドリアミオパチーに分けます。134
地域や文脈によって言葉の使い方に差がありますが、患者さんが理解しやすいよう、原因ごとに分けて考えます。
| カテゴリー | 主な病型・自己抗体/遺伝子(例) | 代表的な症状・合併症 |
|---|---|---|
| 炎症性筋疾患(自己免疫が関わるタイプ) | 皮膚筋炎(抗MDA5、抗Mi-2など)/抗合成酵素症候群(抗ARS)/免疫介在性壊死性ミオパチー(抗SRP、抗HMGCR)/封入体筋炎など11516 | 太もも・肩など体幹に近い筋肉の弱さ、皮疹、咳や息切れが続く肺の病気、関節の痛み。封入体筋炎は手の指を曲げる筋・太ももの前側の左右差のある弱さや飲み込みづらさが目立ちます。116 |
| 先天性ミオパチー | 中核(central core:RYR1)/ネマリン(NEB、ACTA1)/中心核(MTM1、DNM2、BIN1)など4 | 乳児〜小児期からの筋力・筋緊張の弱さ、顔や眼の筋の関与、背骨や関節の変形。タイプにより進み方や合併が異なります。4 |
| ミトコンドリアミオパチー | MELAS(mtDNA m.3243A>Gなど)/MERRF/CPEO(mtDNA欠失、POLGなど)3 | 運動すると強い疲れや痛み、まぶたが下がる・目が動きにくい、頭痛やけいれん、聴こえにくさ、糖尿病など全身の症状が組み合わさります。3 |
まとめ炎症性は体の免疫が筋肉を攻撃、先天性は生まれつきの筋の設計図の違い、ミトコンドリアは細胞の発電所の不調が中心です。
炎症性筋疾患の種類(詳細)
結論炎症性筋疾患は、早めに見つけて治療につなげることが大切です。2017年のACR/EULAR分類基準に沿って、主な病型のポイントを確認します。17
| 病型 | 特徴 | 治療の考え方 |
|---|---|---|
| 皮膚筋炎 | 太もも・肩の筋力低下に、手や顔の特徴的な皮疹が加わります。一部で肺に炎症が広がりやすいタイプがあり、咳や息切れに注意します。15 | 最初は飲み薬のステロイドが基本です。十分な効果が得られない場合、静脈注射の免疫グロブリンを検討します。海外試験で有効性が示され、日本の保険でも原則ステロイドで効果不十分な場合に使える選択肢です。912 |
| 抗合成酵素症候群 | 筋炎に、せき・息切れが続く肺の病気、関節の痛み、手のひらのひどいひび割れ(機械工の手のような所見)が合わさります。1 | ステロイドを中心に、必要に応じて免疫の薬を追加して体全体(肺・関節・皮膚)を同時に治療します。1 |
| 免疫介在性壊死性ミオパチー | 比較的急に筋力が落ち、CKがとても高くなります。コレステロールの薬(スタチン)に関連するタイプが知られています。56 | 高用量のステロイドを早めに開始し、必要に応じて免疫の薬や免疫グロブリンの静脈注射を組み合わせます。スタチンが関わる場合は中止が原則です。56 |
| 封入体筋炎 | 手の指を曲げる筋・太ももの前側が片側優位に弱くなることが多く、飲み込みづらさも出やすい病型です。薬による改善が乏しいのが特徴です。16 | むせ・転倒を防ぐ工夫、歩行補助具、嚥下リハ、家の環境整備など、生活を守る治療が中心です。16 |
まとめ炎症性筋疾患はまずステロイド、効きが不十分なら点滴などの免疫療法を追加します。肺・関節・皮膚の症状にも同時に対応します。
診断の流れ(検査)
結論血液、画像、電気生理、筋生検、遺伝学的検査を組み合わせて診断します。症状の出方と検査結果を合わせ、無理のない範囲で確定診断に近づきます。16834
- 血液検査:CK・AST/ALT・LDH、ミオグロビン、甲状腺・電解質、自己抗体(血液の目印)などを確認します。薬の服用歴(スタチンなど)も大切です。16
- 筋MRI:炎症や脂肪の置き換わりの分布が分かり、生検部位の選択にも役立ちます。1
- 筋電図(EMG):筋原性の変化や炎症のサインを確認します。
- 筋生検:筋肉の一部を手術で採取し、顕微鏡で観察することで診断します。
- 遺伝学的検査:筋ジストロフィーや先天性・ミトコンドリアミオパチーの確定に有用です。遺伝カウンセリングも重要です。2834
まとめ血液検査だけで決まらない場合もあります。症状の分布、経過、画像、電気生理、病理、遺伝情報を順番に見ていきます。
治療(筋ジストロフィー/炎症性筋疾患)
結論治療の目標は、筋力・日常生活機能を保ち、合併症を予防することです。筋ジストロフィーは長期のサポート、炎症性筋疾患はステロイド開始から必要に応じた追加治療を考えます。92101112
薬の種類・量・保険適用は個別に確認します。免疫グロブリン静注は血栓や腎機能などに配慮が必要で、点滴速度・補液・既往歴を確認します。9
| 領域 | 主な治療 | 根拠・補足 |
|---|---|---|
| 筋ジストロフィー | リハビリ(柔軟性・転倒予防)/呼吸リハ・咳の補助/心臓・呼吸の確認/栄養支援。病型により、ステロイド(デュシェンヌ型)、遺伝子治療、装具・手術(肩甲骨固定など)を考えます。 | 国際指針に基づく包括的な支援(呼吸・心臓・栄養・リハ)とステロイドが基本です。新しい治療は適応と安全性を個別に検討されます。21011 |
| 炎症性筋疾患 | 最初はステロイド内服が基本です。状況に応じて免疫の薬(内服や点滴)を追加します。静脈注射の免疫グロブリンは、ステロイドで不十分な場合の選択肢です。 | 筋炎では免疫グロブリン静注の有効性を国際試験が示しています。国内ではステロイド効果不十分が保険の前提です。912 |
| 壊死性のタイプ(スタチン関連を含む)=免疫介在性壊死性ミオパチー | 高用量のステロイドを早めに開始し、必要に応じて免疫の薬や免疫グロブリン静注を併用します。スタチンが関わる場合は中止します。 | 自己抗体や筋生検所見を手掛かりに、早期の集中的治療で機能回復を目指します。56 |
| 封入体筋炎 | 安全な範囲の運動療法/嚥下・栄養・歩行補助/住宅の段差解消・転倒対策を行います。 | 薬の効果は限定的で、支持療法(生活を守る治療)が中心です。16 |
まとめ筋ジストロフィーは長期のサポートと合併症の確認、炎症性筋疾患はステロイド開始から必要に応じた追加の免疫療法が基本です。
日常生活とリハビリのコツ
結論転倒・むせ・呼吸を守る工夫と、無理のない運動が基本です。症状に合わせた多職種連携で生活を支えます。
- 安全第一:転倒予防(段差・手すり・滑り止め)、浴室や玄関の環境調整を行います。
- 呼吸を守る:夜間の息苦しさやいびき・無呼吸が疑われたら、睡眠検査や呼吸リハを検討します。
- 筋力維持:痛みが強くならない範囲で、低〜中等度の反復運動とストレッチを行います。過度の無理は避けます。
- 嚥下・栄養:むせ・体重減少があれば飲み込みの状態を確認します。食形態の工夫や栄養補助を早めに検討します。
まとめ生活を守るためには、筋力だけでなく、呼吸、飲み込み、転倒予防、栄養を一緒に確認します。
よくある質問(筋肉の病気)
筋ジストロフィーは遺伝ですか? 家族にいなくても発症しますか?
どんなときにすぐ受診・救急が必要ですか?
息切れ・会話がつらい・むせが増えた、濃い褐色尿、数日〜数週で急に悪化、強い飲み込みの障害や発熱を伴う息苦しさは早めの確認が必要です。1
参考文献
参考文献を表示
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医療用医薬品「献血ヴェノグロブリン(静注用人免疫グロブリン)」添付文書(多発性筋炎・皮膚筋炎:ステロイド剤で効果不十分な場合に限る適応を記載)。JAPIC/KEGG医薬品データベース。
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