吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
大﨑 雅央
東京大学医学部卒神経内科専門医総合内科専門医
プロフィール
60秒でわかる もの忘れ・記憶障害
- もの忘れ・記憶障害の原因は大きく4つ。「年相応の変化」「MCI・認知症」「治療で改善しうる原因(甲状腺機能の異常・ビタミンB12不足・うつ・薬剤・睡眠時無呼吸など)」「一過性(一過性全健忘)」に分かれます。
- 突然の記憶障害に麻痺・ろれつ・意識の異常を伴うときは、救急要請を優先してください。
- どれに当たるかは、症状だけでは決められません。画像・認知機能・採血をそろえて切り分けます。
- 当院ではこの切り分けを、認知症・脳卒中ドック(自費)で行います。治療が必要な所見が見つかった場合は、そのまま保険診療へ切り替えて継続します。(採血では甲状腺機能・ビタミンB12などを確認します)
「もの忘れが増えた」「さっき聞いたことを思い出せない」——その原因は、年齢によるもの、こころの疲れ、薬の影響、甲状腺などの体の病気、そして認知症の前段階まで、実にさまざまです。症状の聞き取りだけで、どれかを断定することはできません。当院では、画像・認知機能・採血をそろえて一度に確認できる認知症・脳卒中ドックをご用意しており、治療が必要な原因が見つかった場合は、そのまま保険診療に切り替えて私が継続して診ていきます。まず「今の状態を知る」ことから始めましょう。
院長・神経内科専門医 大﨑 雅央
緊急性の高い『記憶障害・意識の変化』
結論急に始まった混乱や見当識障害は緊急対応が必要です。一過性全健忘(TGA)のように自然に治る病態もありますが、まずは危険な原因を除外します。312
緊急性の目安を詳しく見る
「急に様子がおかしい」「時間や場所が全く分からない」「呼びかけに反応が薄い」などは、脳卒中・感染症・代謝異常などが原因の可能性があり、早急な評価が必要です。3
| 緊急度 | 病態 | 症状の特徴 | 対応のポイント |
|---|---|---|---|
| 超緊急 | 脳卒中・けいれん後状態 | 言葉が出ない/麻痺・けいれん後のもうろう・頭痛などを伴う。 | 救急要請。けいれんは二次予防も考慮。 |
| 緊急 | 代謝・内科的異常 | 低血糖・低ナトリウム血症・低酸素血症・肝腎不全など。 | 採血・血糖・SpO2などを迅速に評価・是正。 |
| 緊急 | 中枢神経感染症(髄膜炎・脳炎) | 発熱・頭痛・項部硬直・意識障害。進行が速い。 | 救急での抗菌薬/抗ウイルス薬の早期投与が鍵。 |
| 超緊急 | せん妄(Delirium) | 数時間〜数日の急性発症。注意散漫・見当識障害(日時/場所)・睡眠覚醒の乱れ・意識レベルの揺れが特徴。 | 原因検索(感染・薬剤・脱水・低酸素・電解質異常など)を優先。3 |
| 準緊急 | 一過性全健忘(TGA) | 数時間、新しいことを覚えられず同じ質問を繰り返す。意識は清明で神経脱落症状は乏しい。多くは自然回復。12 | 脳卒中などとの鑑別を行い、必要に応じてMRIを検討。 |
まとめ迷ったら、急に進行する混乱・発熱・強い頭痛・けいれん・麻痺などを伴う場合は#7119(救急相談)や救急受診をご検討ください。
もの忘れと認知症の違い
結論「思い出すヒントがあれば大丈夫」は加齢の変化、「生活に支障が出る」は認知症、その中間が軽度認知障害(MCI)です。12
年相応の変化とMCI/認知症の違いを詳しく見る
「もの忘れ」は年齢とともに誰にでも起こり得ます。一方、認知症は、複数の認知領域(記憶・注意・言語・視空間・遂行機能など)の障害により、日常生活に支障(服薬・買い物・金銭管理・運転等)が出ている状態を指します。中間に位置するのが軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)で、客観的な認知低下はあるものの、基本的な日常生活は自立している状態です。1
| 特徴 | 正常加齢の物忘れ | 軽度認知障害(MCI)/認知症 |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れるが、手がかりで思い出せることが多い。 | 体験全体を忘れる/手がかりでも思い出せないことが増える。 |
| 日常生活 | 生活の自立は保たれる。 | MCI:自立は概ね保たれる/認知症:支障が目立つ(金銭・服薬・運転等)。 |
| ご本人の自覚 | 自覚あり・相談可能。 | MCIでは自覚があることが多い/認知症では自覚が乏しい場合がある。 |
| 経過の目安 | ゆるやか。日常に工夫で対応可能。 | MCIは2年で約15%が認知症へ進行する報告。2 |
記憶の仕組みとタイプ
結論「記憶」は注意→記銘→保持→想起の連携です。病気だけでなく気分・睡眠・薬も影響します。
記憶障害の主な原因と代表疾患
結論原因は変性・血管性・可逆性・その他に分けて考え、採血・画像・薬剤見直しで方針が見えてきます。
主な原因と代表疾患を詳しく見る
| カテゴリー | 代表疾患 | ポイント |
|---|---|---|
| 変性疾患 | アルツハイマー病(AD)/レビー小体型認知症(DLB)/前頭側頭型認知症(FTD) | ADは記憶障害が中心、DLBは幻視・動作緩慢・寝言で暴れるなど、FTDは性格変化・脱抑制が目立つことがあります。1 |
| 血管性 | 血管性認知症 | 脳梗塞の多発/歩行障害・注意障害が目立つことがあります。1 |
| 可逆性 | 甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏、うつ病、睡眠時無呼吸、薬剤性(抗コリン薬・ベンゾジアゼピン等) | 採血・薬剤見直し・睡眠評価が有用です。111 |
| その他 | 正常圧水頭症(NPH)、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、アルコール関連障害など | 歩行障害+尿失禁+認知低下(NPHの三徴)などは画像で評価します。1 |
次の一歩治療で改善しうる原因かどうかは、採血(甲状腺機能・ビタミンB12など)・画像・認知機能を一度に確認するとわかります。
認知症・脳卒中ドックの検査内容
一過性全健忘(TGA)
結論TGAは数時間で自然回復することが多い良性の健忘ですが、初回は他疾患との見極めが大切です。12
一過性全健忘(TGA)を詳しく見る
突然、数時間だけ新しい記憶が作れず、同じ質問を繰り返す一方、意識は清明で複雑な作業は保たれることが多い病態です。多くは自然に回復し、後遺症も少ないとされますが、当初は脳卒中やてんかんとの鑑別が必要です。12
記憶障害の検査方法(問診・検査)
結論問診+簡易認知検査が土台で、必要に応じて採血・MRI・聴力・睡眠、さらにバイオマーカーを検討します。
問診・認知機能・採血・画像検査を詳しく見る
| 検査 | 目的・分かること | 実施の目安 |
|---|---|---|
| 問診(本人+ご家族) | 発症時期・経過・日常生活の支障(IADL/ADL)・服薬歴・睡眠/気分。 | 初診の基本。ご家族の情報が非常に有用です。1 |
| 簡易認知検査(Mini-Cog/MoCA/MMSE/長谷川式(HDS-R)) | スクリーニング・重症度の目安。MoCAは軽い障害に敏感。1314 | 健忘の種類や注意・遂行機能の偏りを把握します。 |
| 採血 | 甲状腺機能・ビタミンB12・電解質・炎症反応など。 | 可逆性原因の見落とし防止に。1 |
| 頭部MRI | 血管性変化・萎縮パターン・腫瘍・慢性硬膜下血腫・水頭症などの評価。 | 症状・年齢・経過に応じて選択。1 |
| 聴力・睡眠評価 | 聴力低下・睡眠時無呼吸は記憶に影響。補聴器介入で高リスク群の低下を抑制した報告も。6 | 聞き取りにくい/いびき・日中眠気などがある場合。 |
| バイオマーカー(髄液/PET等・血液p-tau217など) | アルツハイマー病の病理学的裏付けに有用。近年は血液バイオマーカー(p-tau217等)も登場し精度が高い報告がありますが、現時点では保険適用外であり、検査体制・偽陰性/偽陽性の課題もあります。10 | 専門施設と連携し、適応・リスク・費用をご説明の上で検討します。 |
まとめこれらをまとめて確認できるのが、当院の認知症・脳卒中ドックです。
認知症の予防・生活(リスク低減)
原因が確定した後の治療
結論治療が必要な所見が見つかった場合は、原因に応じて保険診療へ切り替えて継続します。
もの忘れ・記憶障害のよくある質問
どんな採血をしますか?
甲状腺機能・ビタミンB12・電解質など、治療で改善しうる原因を確認します。状況に応じて炎症反応なども組み合わせます。1
血液でアルツハイマー病が分かる?
p-tau217などの血液バイオマーカーは高い診断精度を示す報告があります。ただし検査体制や偽陰性・偽陽性の課題があり、現時点でp-tau217は日常臨床では利用できません。10
認知症のリスクを低減する方法は?
高血圧の管理、禁煙、適度な運動、良質な睡眠、社会交流、難聴対策、糖尿病やうつ病の治療、飲酒の見直しなどが役立ちます。5
もの忘れは何科を受診すればよいですか?
一般的には、もの忘れは脳神経内科(神経内科)や物忘れの相談ができる医療機関が候補になります。当院では、原因を思い込みで決めず、まず認知症・脳卒中ドックで画像・認知機能・採血を客観的に確認します。その結果、治療が必要な所見が見つかった場合は、そのまま保険診療に切り替えて継続します。
参考文献
参考文献を表示
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1
Arvanitakis Z, Shah RC, Bennett DA. Diagnosis and Management of Dementia. JAMA. 2019;322:1589-1599.
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2
Petersen RC, et al. Practice guideline update summary: Mild cognitive impairment. Neurology. 2018.(MCIの定義・進行率の報告)
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3
Marcantonio ER. Delirium in Hospitalized Older Adults. N Engl J Med. 2017;377:1456-1466.
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4
Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report. Lancet. 2020;396:413-446.
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5
Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024.
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6
Lin FR, et al. Hearing intervention vs health education to slow cognitive decline (ACHIEVE). Lancet. 2023;402:786-797.
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7
Williamson JD, et al. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Mild Cognitive Impairment. JAMA. 2019;321:553-561.
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van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer's Disease. N Engl J Med. 2023;388:9-21.
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Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease. JAMA. 2023;330(12):1005-1015.
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Palmqvist S, et al. Blood Biomarkers to Detect Alzheimer Disease in Primary and Secondary Care. JAMA. 2024.
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11
Coupland CAC, et al. Anticholinergic Drug Exposure and Risk of Dementia. JAMA Intern Med. 2019;179:1084-1093.
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12
Ropper AH. Transient Global Amnesia. N Engl J Med. 2023;388:1227-1232.
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Nasreddine ZS, et al. The Montreal Cognitive Assessment (MoCA). J Am Geriatr Soc. 2005;53:695-699.
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Borson S, et al. Improving identification of cognitive impairment in primary care (Mini-Cog). J Am Geriatr Soc. 2000;48: S166-S170.