神経内科専門医・総合内科専門医が診療

もの忘れ・記憶障害の原因と対処法

「もの忘れが増えた」——その原因は、年相応の変化から、治療で改善しうる病気、認知症の前段階までさまざまです。まず今の状態を、画像・認知機能・採血で確かめましょう。

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  • CAUSE 年相応・MCI・可逆性
  • CHECK 画像・認知機能・採血
  • URGENT 突然の異常は救急

最終更新 2026年7月2日

This Article's Reviewer 院長 大﨑雅央 吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長 大﨑 雅央 東京大学医学部卒神経内科専門医総合内科専門医 プロフィール

60秒でわかる もの忘れ・記憶障害

  • もの忘れ・記憶障害の原因は大きく4つ。「年相応の変化」「MCI・認知症」「治療で改善しうる原因(甲状腺機能の異常・ビタミンB12不足・うつ・薬剤・睡眠時無呼吸など)」「一過性(一過性全健忘)」に分かれます。
  • 突然の記憶障害に麻痺・ろれつ・意識の異常を伴うときは、救急要請を優先してください。
  • どれに当たるかは、症状だけでは決められません。画像・認知機能・採血をそろえて切り分けます。
  • 当院ではこの切り分けを、認知症・脳卒中ドック(自費)で行います。治療が必要な所見が見つかった場合は、そのまま保険診療へ切り替えて継続します。(採血では甲状腺機能・ビタミンB12などを確認します)

「もの忘れが増えた」「さっき聞いたことを思い出せない」——その原因は、年齢によるもの、こころの疲れ、薬の影響、甲状腺などの体の病気、そして認知症の前段階まで、実にさまざまです。症状の聞き取りだけで、どれかを断定することはできません。当院では、画像・認知機能・採血をそろえて一度に確認できる認知症・脳卒中ドックをご用意しており、治療が必要な原因が見つかった場合は、そのまま保険診療に切り替えて私が継続して診ていきます。まず「今の状態を知る」ことから始めましょう。

院長・神経内科専門医 大﨑 雅央
URGENT

緊急性の高い『記憶障害・意識の変化』

結論急に始まった混乱や見当識障害は緊急対応が必要です。一過性全健忘(TGA)のように自然に治る病態もありますが、まずは危険な原因を除外します。312

緊急性の目安を詳しく見る

「急に様子がおかしい」「時間や場所が全く分からない」「呼びかけに反応が薄い」などは、脳卒中・感染症・代謝異常などが原因の可能性があり、早急な評価が必要です。3

緊急度病態症状の特徴対応のポイント
超緊急脳卒中・けいれん後状態言葉が出ない/麻痺・けいれん後のもうろう・頭痛などを伴う。救急要請。けいれんは二次予防も考慮。
緊急代謝・内科的異常低血糖・低ナトリウム血症・低酸素血症・肝腎不全など。採血・血糖・SpO2などを迅速に評価・是正。
緊急中枢神経感染症(髄膜炎・脳炎)発熱・頭痛・項部硬直・意識障害。進行が速い。救急での抗菌薬/抗ウイルス薬の早期投与が鍵。
超緊急せん妄(Delirium)数時間〜数日の急性発症。注意散漫・見当識障害(日時/場所)・睡眠覚醒の乱れ・意識レベルの揺れが特徴。原因検索(感染・薬剤・脱水・低酸素・電解質異常など)を優先。3
準緊急一過性全健忘(TGA)数時間、新しいことを覚えられず同じ質問を繰り返す。意識は清明で神経脱落症状は乏しい。多くは自然回復。12脳卒中などとの鑑別を行い、必要に応じてMRIを検討。

まとめ迷ったら、急に進行する混乱・発熱・強い頭痛・けいれん・麻痺などを伴う場合は#7119(救急相談)や救急受診をご検討ください。

DIFFERENCE

もの忘れと認知症の違い

結論「思い出すヒントがあれば大丈夫」は加齢の変化、「生活に支障が出る」は認知症、その中間が軽度認知障害(MCI)です。12

年相応の変化とMCI/認知症の違いを詳しく見る

「もの忘れ」は年齢とともに誰にでも起こり得ます。一方、認知症は、複数の認知領域(記憶・注意・言語・視空間・遂行機能など)の障害により、日常生活に支障(服薬・買い物・金銭管理・運転等)が出ている状態を指します。中間に位置するのが軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)で、客観的な認知低下はあるものの、基本的な日常生活は自立している状態です。1

特徴正常加齢の物忘れ軽度認知障害(MCI)/認知症
忘れ方体験の一部を忘れるが、手がかりで思い出せることが多い。体験全体を忘れる/手がかりでも思い出せないことが増える。
日常生活生活の自立は保たれる。MCI:自立は概ね保たれる/認知症:支障が目立つ(金銭・服薬・運転等)。
ご本人の自覚自覚あり・相談可能。MCIでは自覚があることが多い/認知症では自覚が乏しい場合がある。
経過の目安ゆるやか。日常に工夫で対応可能。MCIは2年で約15%が認知症へ進行する報告。2
MEMORY TYPES

記憶の仕組みとタイプ

結論「記憶」は注意→記銘→保持→想起の連携です。病気だけでなく気分・睡眠・薬も影響します。

記憶の仕組みとタイプを詳しく見る
  • 記銘・保持・想起の3段階のどこでつまずくかで、忘れ方が変わります(注意散漫=記銘低下/アルツハイマー病=保持障害など)。1
  • 健忘型(新しいことを覚えにくい)/注意・遂行機能型(段取り・二つのことを同時に行うのが苦手)/言語・視空間型などがあります。
  • うつ病や不眠・不安、薬の副作用(抗コリン薬など)でも記憶が落ちることがあります。11
CAUSES

記憶障害の主な原因と代表疾患

結論原因は変性・血管性・可逆性・その他に分けて考え、採血・画像・薬剤見直しで方針が見えてきます。

主な原因と代表疾患を詳しく見る
カテゴリー代表疾患ポイント
変性疾患アルツハイマー病(AD)/レビー小体型認知症(DLB)/前頭側頭型認知症(FTD)ADは記憶障害が中心、DLBは幻視・動作緩慢・寝言で暴れるなど、FTDは性格変化・脱抑制が目立つことがあります。1
血管性血管性認知症脳梗塞の多発/歩行障害・注意障害が目立つことがあります。1
可逆性甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏、うつ病、睡眠時無呼吸、薬剤性(抗コリン薬・ベンゾジアゼピン等)採血・薬剤見直し・睡眠評価が有用です。111
その他正常圧水頭症(NPH)、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、アルコール関連障害など歩行障害+尿失禁+認知低下(NPHの三徴)などは画像で評価します。1

次の一歩治療で改善しうる原因かどうかは、採血(甲状腺機能・ビタミンB12など)・画像・認知機能を一度に確認するとわかります。
認知症・脳卒中ドックの検査内容

TGA

一過性全健忘(TGA)

結論TGAは数時間で自然回復することが多い良性の健忘ですが、初回は他疾患との見極めが大切です。12

一過性全健忘(TGA)を詳しく見る

突然、数時間だけ新しい記憶が作れず、同じ質問を繰り返す一方、意識は清明で複雑な作業は保たれることが多い病態です。多くは自然に回復し、後遺症も少ないとされますが、当初は脳卒中やてんかんとの鑑別が必要です。12

TESTS

記憶障害の検査方法(問診・検査)

結論問診+簡易認知検査が土台で、必要に応じて採血・MRI・聴力・睡眠、さらにバイオマーカーを検討します。

問診・認知機能・採血・画像検査を詳しく見る
検査目的・分かること実施の目安
問診(本人+ご家族)発症時期・経過・日常生活の支障(IADL/ADL)・服薬歴・睡眠/気分。初診の基本。ご家族の情報が非常に有用です。1
簡易認知検査(Mini-Cog/MoCA/MMSE/長谷川式(HDS-R))スクリーニング・重症度の目安。MoCAは軽い障害に敏感。1314健忘の種類や注意・遂行機能の偏りを把握します。
採血甲状腺機能・ビタミンB12・電解質・炎症反応など。可逆性原因の見落とし防止に。1
頭部MRI血管性変化・萎縮パターン・腫瘍・慢性硬膜下血腫・水頭症などの評価。症状・年齢・経過に応じて選択。1
聴力・睡眠評価聴力低下・睡眠時無呼吸は記憶に影響。補聴器介入で高リスク群の低下を抑制した報告も。6聞き取りにくい/いびき・日中眠気などがある場合。
バイオマーカー(髄液/PET等・血液p-tau217など)アルツハイマー病の病理学的裏付けに有用。近年は血液バイオマーカー(p-tau217等)も登場し精度が高い報告がありますが、現時点では保険適用外であり、検査体制・偽陰性/偽陽性の課題もあります。10専門施設と連携し、適応・リスク・費用をご説明の上で検討します。

まとめこれらをまとめて確認できるのが、当院の認知症・脳卒中ドックです。

PREVENTION

認知症の予防・生活(リスク低減)

結論血圧・聴力・運動・交流・睡眠・禁煙など、できる対策の積み重ねが将来のリスク低減に役立ちます。45

生活で見直せるリスクを詳しく見る

世界的レビューでは、ライフコースにわたる因子の是正(教育・聴力・血圧・糖尿病・喫煙・運動・抑うつ・社会的孤立・睡眠・肥満・飲酒・外傷・大気汚染等)で、将来の認知症の約40〜45%が遅らせられる可能性が示されています。45

  • 血圧管理:高血圧の方では、強化降圧でMCI(軽度認知障害)発症を減らした報告があります。7
  • 聴力対策:高リスク高齢者で補聴器介入が3年で認知低下を約半減(サブグループ)した報告があります。6
  • 運動・認知刺激・社会交流:歩行・筋力トレーニング・読み書き・会話・趣味活動を続けることが大切です。4
  • 薬剤の見直し:抗コリン作用の強い薬は、可能な範囲で主治医と相談しながら見直しを検討します。11
AFTER DIAGNOSIS

原因が確定した後の治療

結論治療が必要な所見が見つかった場合は、原因に応じて保険診療へ切り替えて継続します。

原因が分かった後の治療を詳しく見る

認知機能低下の背景が分かった後は、可逆性原因の治療、血管リスクの管理、必要な薬物療法、生活環境の調整を原因に応じて組み合わせます。

アルツハイマー型認知症ではコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンが症状を緩やかにする効果を目的に使われることがあります。抗アミロイド抗体(レカネマブ/ドナネマブ)は早期アルツハイマー病が対象で、適応と安全性を厳密に判断します。189

FAQ

もの忘れ・記憶障害のよくある質問

どんな採血をしますか?

甲状腺機能・ビタミンB12・電解質など、治療で改善しうる原因を確認します。状況に応じて炎症反応なども組み合わせます。1

血液でアルツハイマー病が分かる?

p-tau217などの血液バイオマーカーは高い診断精度を示す報告があります。ただし検査体制や偽陰性・偽陽性の課題があり、現時点でp-tau217は日常臨床では利用できません。10

家でできる工夫は?

カレンダー・メモ・薬箱・スマホのリマインダーの活用、物の定位置化、十分な睡眠、運動と会話、聴力対策を組み合わせます。46

認知症のリスクを低減する方法は?

高血圧の管理、禁煙、適度な運動、良質な睡眠、社会交流、難聴対策、糖尿病やうつ病の治療、飲酒の見直しなどが役立ちます。5

アルツハイマー型認知症の薬は?

コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンは症状を緩やかにする目的で使われます。抗アミロイド抗体は早期が対象で、適応とリスク(脳浮腫・微小出血など)の評価が必要です。189

もの忘れは何科を受診すればよいですか?

一般的には、もの忘れは脳神経内科(神経内科)や物忘れの相談ができる医療機関が候補になります。当院では、原因を思い込みで決めず、まず認知症・脳卒中ドックで画像・認知機能・採血を客観的に確認します。その結果、治療が必要な所見が見つかった場合は、そのまま保険診療に切り替えて継続します。

REFERENCES

参考文献

参考文献を表示
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