吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
大﨑 雅央
東京大学医学部卒神経内科専門医総合内科専門医
プロフィール
60秒でわかる認知症予防
- 認知症リスクの約40%は、修正できる要因で説明できます(Lancet 2024)。「なってから」ではなく「なる前」に手を打てる余地があります。
- 修正可能な要因は14項目あり、ライフコース別に整理されています。中年期=高血圧・高LDLコレステロール・難聴・糖尿病・喫煙・過量飲酒など、高齢期=社会的孤立・視力の問題など。
- このうち血圧・脂質・血糖・認知機能は、検査で現在地を数値化できます。不整脈は、必要に応じて長期ホルター心電図で確認することも有用です。聴力・視力・社会的つながりなどは、生活や他科での見直しが中心になります。
- 当院では血圧・脂質・血糖・認知機能などを、認知症・脳卒中ドック(自費)で確認できます。治療が必要な所見が見つかった場合は、そのまま保険診療へ切り替えて継続します。
認知症予防は、自分のリスク要因を知ることから始まります。当院のドックでは血圧・脂質・血糖・認知機能を確認します。あわせて、不整脈が疑われる場合は長期ホルター心電図も検討します。必要な所見は保険診療へ切り替えて継続します。
院長・神経内科専門医 大﨑 雅央
認知症の予防とは(Lancet 2024の考え方)
結論2024年のLancet報告は、修正可能な14因子を提示しました。PAF約45%は社会全体の理論上の目安で、個人の将来を断定する値ではありません。対策は早く始めるほど良いものの、いつからでも遅くありません。1
Lancet 2024の考え方を詳しく見る
認知症は高齢化とともに世界で増えており、本人・家族・社会の負担が大きい病気です。Lancet 2024は、過去の報告(2017・2020)の更新として、「生活や医療の工夫で減らせる危険因子」に注目しました。新たに中年期の高LDLと視力の問題(未治療)を追加し、ライフコースの各段階(幼少〜若年・中年・高齢)で取り組める内容に整理しています。1
ここで出てくるPAF(人口寄与割合)は、「もし社会全体からある危険因子を取りのぞけたら、理論上どのくらい患者数が減る可能性があるか」という推定値です。PAFは因果を確定する数値ではなく、観察研究に由来する限界(交絡・測定誤差など)があります。合計約45%は、因子の重なりを調整した概算で、個人の将来を確実に予測する数字ではありません。あくまで社会や医療の方向性を示す目安として活用します。
- 重要な考え方:認知症のリスクへの対策は早く始めて続けるほど効果的ですが、いつからでも遅くありません(特に中年期の対策が有効)。
- 公平性:教育・住環境・大気汚染・医療アクセスなど、個人だけでは変えにくい要因もあるため、地域や政策レベルの取り組みも重要です。
- 研究の根拠:大規模コホートやメタ解析に加え、一部の介入(例:補聴器・血圧管理など)は介入研究やメカニズム研究でも裏づけが進んでいます。
- 含めなかった候補:睡眠不足、特定の食事法、感染症などは検討されましたが、現時点の証拠のまとまりから公式14因子には含めない結論です(今後の研究で変わる可能性あり)。
まとめPAFは個人の将来を当てる数字ではなく、社会と医療がどこに力を入れるべきかを示す目安です。自分に当てはまる要因を知り、変えられるところから始めることが出発点です。
修正可能な14因子(ライフコース別)
結論聴力低下と高LDL(各7%)の寄与が大きく、教育・社会的孤立(各5%)が続きます。合計約45%は理論上の社会的削減幅で、重なりを考慮した概算です。1
14因子とPAF表を詳しく見る
PAFの合計は約45%です。各因子を減らせたときに、社会全体で減らせる可能性のある割合のイメージとしてご覧ください。1
| ライフステージ | 因子 | PAF(%) |
|---|---|---|
| 早期(幼少期〜若年) | 教育年数が少ない | 5 |
| 中年期 | 未治療の聴力低下 | 7 |
| 中年期 | 高LDLコレステロール | 7 |
| 中年期 | うつ | 3 |
| 中年期 | 頭部外傷(TBI) | 3 |
| 中年期 | 身体不活動(運動不足) | 2 |
| 中年期 | 糖尿病 | 2 |
| 中年期 | 喫煙 | 2 |
| 中年期 | 高血圧 | 2 |
| 中年期 | 肥満 | 1 |
| 中年期 | 過量飲酒 | 1 |
| 高齢期 | 社会的孤立 | 5 |
| 高齢期 | 大気汚染 | 3 |
| 高齢期 | 未治療の視覚障害 | 2 |
| 合計(重なり補正後) | 約45 |
次の一歩14因子のうち、血圧・脂質・血糖・認知機能の現在地は検査で数値化できます。不整脈はAdvanced以上の長期ホルター心電図で確認します。
認知症・脳卒中ドックの検査内容
まとめ表の数値は社会全体の理論値です。個人では、当てはまる要因の組み合わせと、実際に変えやすい項目を分けて考えます。
因子別:具体アクション(個人と医療)
結論補聴器・LDL管理・禁煙・運動・血圧/血糖の是正が柱です。できるところから開始し継続することが最大の近道です。1
因子別の対策を詳しく見る
認知症のリスクへの対策のポイントは「早く始めて、続ける」こと。ただし今からでも遅くありません。できるところから一緒に進めましょう。1
- 聴力低下(PAF 7%):聴力検査+補聴器の装用を検討。補聴器は他のリスクを持つ人ほど効果が大きいことが示されています。
- 高LDL(PAF 7%:中年期):食事・運動・薬物療法(例:スタチン)で管理。認知症そのものの一次予防を直接示す長期試験は限られますが、心血管病の予防効果は確立しており、総合的に管理する価値ありです。
脂質異常症の解説 - うつ(PAF 3%):スクリーニング→心理社会的支援/薬物療法。
- 頭部外傷(PAF 3%):ヘルメットの着用、スポーツでの頭部衝突の回避、受傷後の復帰基準の順守。
- 運動不足(PAF 2%):有酸素+筋力+バランス運動を週合計150分を目安に。
- 糖尿病(PAF 2%):早期診断と血糖管理。
糖尿病の解説 - 喫煙(PAF 2%):禁煙補助薬+行動療法で禁煙サポート。
- 高血圧(PAF 2%):家庭血圧も活用し、目標を決めてコントロール。
高血圧症の解説 - 肥満(PAF 1%):栄養・運動・行動療法を組み合わせ、無理なく継続。
- 過量飲酒(PAF 1%):量と頻度を見直し、減酒支援を活用。
- 教育(PAF 5%):若い時期の教育だけでなく、生涯学習もプラスです。
- 社会的孤立(PAF 5%):家族・友人・地域活動・ボランティア等でつながりを増やす。
- 大気汚染(PAF 3%):住環境・通学/通勤ルートを見直し、地域の改善活動にも参加。
- 視覚障害(PAF 2%):眼科受診・矯正・白内障や緑内障、糖尿病網膜症の治療。多くは治療で改善が期待できます。
まとめ検査で数値化できる項目と、生活・耳鼻科・眼科・地域資源で見直す項目を分けると、優先順位が決めやすくなります。
当院での評価とドックでの数値化
結論当院では、修正可能な14因子のうち血圧・脂質・血糖・認知機能を認知症・脳卒中ドック(自費)で確認します。不整脈はAdvanced以上で長期ホルター心電図を追加して確認し、治療が必要な所見があれば保険診療へ切り替えて継続します。
ドックで確認できる項目とドック外の項目を詳しく見る
- ドックで数値化する項目:血圧、脂質(LDLを含む生化学)、血糖・インスリン抵抗性、認知機能(Mini-Cog・TMT A/B)をまとめて確認します。
- コースにより追加する項目:Advanced以上では最長5日ホルター心電図で、通常の心電図では見つかりにくい発作性不整脈を確認します。
- 生活・他科で見直す項目:聴力、視力、社会的孤立、教育、大気汚染、頭部外傷歴、運動量、喫煙・飲酒、うつは、生活の中で見直す要因、または耳鼻科・眼科など他科と連携して確認する要因です。
- 所見があった場合:治療が必要な血圧・脂質・血糖、認知機能低下、不整脈などが見つかった場合は、保険診療へ切り替えて継続します。
- 感覚の最適化:聴力低下が疑われる場合は聴力評価と補聴器の検討、視力の問題がある場合は眼科受診・矯正・白内障などの確認をおすすめします。
まとめドックは14因子すべてを測る検査ではありません。血圧・脂質・血糖・認知機能、不整脈(Advanced以上)を数値化し、聴力・視力・社会的つながりなどは生活や他科で見直す項目として整理します。
認知症の予防のよくある質問
何歳から始めれば?今からでも間に合う?
理想は早く始めて長く続けることですが、いつからでも遅くありません。中年期以降でも、聴力・視力の治療、血圧・血糖・脂質の管理、禁煙、運動量の増加は意味があります。1
優先して取り組むと良いのは?
PAFが大きいのは聴力低下(7%)と高LDLコレステロール(7%)です。次いで教育(5%)、社会的孤立(5%)などが続きます。年齢や体質、生活との両立を考えて、優先順位を一緒に決めていきます。1
食事や睡眠は大切ではない?
健康的な食事や十分な睡眠はとても大切です。ただ、Lancet 2024の「公式14因子」には、現時点の証拠のまとまりの理由から含めていません(今後変わる可能性はあります)。1
スタチンを飲めば認知症を防げる?
中年期の高LDLコレステロールはリスクですが、認知症そのものの一次予防を直接示す長期試験はまだ少ないです。一方で心筋梗塞や脳卒中の予防効果は確立しており、総合的に管理する価値は十分です。1
睡眠時無呼吸を改善するとリスクは下がる?
現時点では、睡眠時無呼吸(OSA)の治療で認知症の発症が長期的に減ると断定できる決定的な証拠は不足しています。一方で、OSAと認知機能低下の関連を示す研究は増えており、治療(例:CPAP)で短期的に注意力や記憶が改善する報告もあります。Lancet 2024ではOSAは公式14因子に含めていませんが、日中の眠気・いびき・高血圧や肥満がある方は評価を受け、睡眠検査・CPAP・体重管理などを検討する価値があります(全身の健康改善と潜在的な認知保護のため)。1