レム睡眠行動障害(RBD)について―原因・症状・診断・治療・パーキンソン病との関連をやさしく解説
レム睡眠行動障害(RBD)は、夢を見る睡眠(レム睡眠)で本来かかるはずの
筋肉のブレーキ(筋弛緩)が外れ、夢の内容に合わせて、叫んだり、手足をバタバタさせたりする病気です。
叫ぶ・手足をふる・起き上がるなどの行動が出るため、本人や同室者の受傷に注意が必要です。
診断は詳しい問診、同室者からの情報、可能であれば睡眠中の動画などを中心に行い、
必要に応じて専門施設での検査(例:睡眠検査)をご提案します。
レム睡眠行動障害(RBD)は将来、パーキンソン病・レビー小体型認知症など
αシヌクレイノパチーに移行することが多く、長期フォローが重要です
治療は寝室の安全対策を土台に、症状や背景に応じてクロナゼパムなどを検討します[3]。
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科(吉祥寺駅徒歩1分)では、神経内科専門医が、丁寧な問診や神経学的検査などで診断を行い、治療につなげます。
目次
- レム睡眠行動障害(RBD)とは
- レム睡眠とノンレム睡眠とは?
- レム睡眠行動障害(RBD)の症状と危険サイン
- レム睡眠行動障害の原因・メカニズム
- レム睡眠行動障害は、誰に多い?
- 診断(問診・同室者情報・動画)
- レム睡眠行動障害の似ている病気との違い
- レム睡眠行動障害を放置するとどうなる?
- レム睡眠行動障害の治療(安全対策・薬物・併存症)
- レム睡眠行動障害の生活の工夫
- 参考文献
レム睡眠行動障害(RBD)とは(基本情報)
レム睡眠行動障害(RBD)は、夢の最中に体が動いてしまい、 夢の内容に合わせて叫ぶ・殴る・蹴る・飛び起きるなどの行動が出る睡眠障害です。 人によってはベッドから落ちる・家具にぶつかるなどのけがが起こります。 レム睡眠行動障害(RBD)は睡眠時随伴症の一種で、レム睡眠中の筋活動増加(RSWA)が背景にあります[4]。
受傷はどの程度?:研究では、約半数(55%)が何らかの受傷を経験し、 約11%は医療介入を要する重症の受傷が報告されています(自傷37.8%、同室者16.7%)[5]。
レム睡眠とノンレム睡眠とは?
人の睡眠は大きくノンレム睡眠(NREM)とレム睡眠(REM)に分かれ、 通常はおよそ90分前後で1サイクルとして一晩に4〜6回くり返されます。前半は深い睡眠が多く、 後半ほどレム睡眠の割合が増えるのが一般的です[6][7]。
- ノンレム睡眠:脳波はゆっくりになり、呼吸・脈拍は安定。筋肉はゆるむものの完全には止まりません。体の回復や記憶の整理に関わると考えられています[6][7]。
- レム睡眠:眼が素早く動き(Rapid Eye Movements:REM(レム))、脳の活動は起きている時に近い一方で、体はほぼ動かないようにする“筋のブレーキ(筋弛緩)”がかかります。鮮明な夢はこの段階で起こりやすいとされます[6][8]。
- レム睡眠行動障害との関係:レム睡眠行動障害は、このレム睡眠の“筋のブレーキ”が弱まる/外れることで、夢の内容に合わせて、叫んだり、手足をバタバタさせたりする行動が出る状態です[4]。
レム睡眠行動障害(RBD)の症状と危険サイン
- 夢の内容に合わせて、叫んだり、手足をバタバタさせたりする動作(例:殴る・蹴る・起き上がる など)
- 発声:寝言、怒鳴り声、笑い声
- 受傷:本人/同室者の打撲・裂創、ベッドからの転落
- 起床後の記憶:夢の内容を覚えていることが多い
※「軽い寝言だけ」「短い発声だけ」は生理的範囲でも見られます。激しい行動・受傷があればご相談ください。
レム睡眠行動障害の原因・メカニズム(なぜ起こる?)
レム睡眠では通常、脳幹(橋/延髄)の回路が働いて全身の筋肉をゆるめるため、夢を見ても体は動きません。 レム睡眠行動障害(RBD)ではこの回路(例:橋背側の核群から前索経路を介する筋弛緩の制御)が障害され、 レム睡眠中に筋活動(RSWA)が増え、夢の動きが体にあらわれます[4]。
また、レム睡眠行動障害(RBD)はαシヌクレインというたんぱく質が関わる神経変性(αシヌクレイノパチー)と深い関連があり、 パーキンソン病・レビー小体型認知症などの前駆症状として現れることが少なくありません[4]。
パーキンソン病の初期症状の解説はこちらレム睡眠行動障害は、誰に多い?(年齢・性別・薬剤など)
- 年齢:中高年に多い
- 性別:男性にやや多いとする報告
- 薬剤:一部の抗うつ薬(SSRI/SNRIなど)で、夢の内容に合わせて叫ぶ・手足をバタバタさせるなどの動作が出やすくなることがあります
- 併存症:閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)はレム睡眠行動障害のような行動を悪化させることがあり、治療で改善する場合があります
- 神経疾患:パーキンソン病・レビー小体型認知症などの経過中に出現することがあります
※上記は疫学的な傾向であり、個人差があります[4]。
レム睡眠行動障害の診断(問診・同室者情報・動画)
当院では、まず詳しい問診、同室者からの情報、可能であれば睡眠中の動画などを基に レム睡眠行動障害(RBD)を評価します。いびき・無呼吸など他の原因が疑われる場合や、 治療方針の検討で客観的所見が必要な場合には、専門施設での精密検査(例:睡眠検査)をご提案します。
| 区分 | 要点 | 備考 |
|---|---|---|
| 中心 | 問診+同室者の情報(受傷・寝言・手足のバタバタの有無、頻度、時間帯) | 記録メモやスマートフォン動画が有用 |
| 鑑別 | 閉塞性睡眠時無呼吸・ノンレム覚醒障害・夜間てんかんなどを除外 | 必要に応じて専門施設へ紹介 |
レム睡眠行動障害と似ている病気との違い(鑑別表)
| 項目 | レム睡眠行動障害(RBD) | ノンレム覚醒障害 | 睡眠時無呼吸(OSA) | 夜間てんかん など |
|---|---|---|---|---|
| 主な睡眠段階 | レム睡眠 | 深いノンレム睡眠(夜前半に多い) | レム/ノンレムいずれも | 睡眠段階を問わず起こることがある |
| 行動 | 夢の内容に合わせて叫ぶ・殴る 等 | 起き上がる・徘徊・錯乱 | いびき・無呼吸、もがくことも | 反復的・短時間の発作様運動 |
| 危険度 | 中〜高(受傷の恐れ) | 中(環境次第) | 中(低酸素は循環器負担) | 中(診断・治療が必要) |
| 主な対応 | 安全対策+薬物療法の検討 | 安全確保・睡眠衛生 | 無呼吸の評価・治療(例:CPAP) | 専門的評価(脳波等) |
レム睡眠行動障害を放置するとどうなる?(受傷リスク・長期予後)
特発性レム睡眠行動障害の方は、長期的にαシヌクレイノパチー(パーキンソン病/レビー小体型認知症など)を発症する割合が高いことがわかっています。 大規模解析では、ポリソムノグラフィーで確定したレム睡眠行動障害の方について、5年で約30%、10年で約60〜80%、15年で約80〜95%が移行したとの報告があり、 年あたりの平均移行率は約6〜7%/年と推定されています[1][2]。
レム睡眠行動障害からの長期的な病気の移行
※幅の主因:診断基準(RSWAの定義やスコア法)、年齢構成、追跡期間、除外基準の差異[1][2]。
レム睡眠行動障害の治療(安全対策・薬物・併存症)
1)まずは「安全対策」
- ベッド周囲の危険物の撤去(尖った家具・ガラス・重い置物など)
- 角の保護・床マットの設置、必要に応じてベッドを低くする
- 同室者の安全な距離(一時的な別室も検討)
- 就寝前の飲酒を避ける、睡眠不足の解消、規則的な睡眠習慣
2)併存症・薬剤の見直し
- 睡眠時無呼吸(OSA)がある場合は、CPAPなどの治療でレム睡眠行動障害(RBD)様行動が軽減することがあります。
- 一部の抗うつ薬などで夢の内容に合わせた叫び・手足のバタバタが増えることがあり、主治医と薬剤調整を検討します。
3)薬物療法(症状緩和目的)
※薬剤選択は個別の病状・年齢・併存症で最適化します。用量調整・相互作用は主治医にご相談ください[3]。
レム睡眠行動障害の生活の工夫
- 就寝環境:ベッド周囲を片づける、角を保護、床にマット
- 生活リズム:規則正しい就寝・起床、カフェイン・アルコールを控えめに
- 家族への共有:受傷予防の工夫を一緒に確認
- 定期フォロー:症状・内服・合併症(無呼吸、パーキンソン症状など)の変化をチェック
よくある質問(FAQ)
Q1. 寝言が多いのですが、レム睡眠行動障害(RBD)でしょうか?
寝言だけではレム睡眠行動障害(RBD)とは限りません。夢の内容に合わせて、叫んだり、手足をバタバタさせたりする動作や受傷がある場合はレム睡眠行動障害が疑われます。まずは問診・同室者からの情報で評価し、必要に応じて専門施設での検査をご提案します。
Q2. レム睡眠行動障害(RBD)があると必ず神経変性疾患になりますか?
必ずではありませんが、長期にパーキンソン病などに移行する人が多いことがわかっています[1][2]。定期フォローをおすすめします。
Q3. 入院での睡眠検査は必要ですか?
当院では入院での睡眠ポリグラフ検査(PSG)は実施していません。問診・同室者情報・動画で評価し、必要時に専門施設をご紹介します。
Q4. どの診療科を受診すれば良いですか?
脳神経内科(神経内科)や睡眠医療の専門医が対応します。当院でも診断から治療、生活支援まで丁寧に対応いたします。
参考文献
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- [1] Postuma RB, et al. Prognosis of PSG‑confirmed idiopathic RBD: multicenter study & meta‑analysis. Brain. 2019;142(3):744–759. PubMed
- [2] Iranzo A, et al. Risk of neurodegeneration in idiopathic RBD: prospective cohort. The Lancet Neurology. 2013;12(5):443–453. PubMed
- [3] American Academy of Sleep Medicine (AASM). Clinical practice guideline for the management of REM sleep behavior disorder. J Clin Sleep Med. 2023. PubMed
- [4] Högl B, Stefani A, Videnovic A. REM sleep behaviour disorder and neurodegeneration. Nat Rev Neurol. 2018;14:40–55. PubMed
- [5] McCarter SJ, et al. Factors associated with injury in RBD. Sleep Med. 2014;15(11):1337–1343. PMC
- [6] Scammell TE, Arrigoni E, Lipton JO. Neural circuitry of wakefulness and sleep. Neuron. 2017;93(4):747–765. PubMed
- [7] Rasch B, Born J. About sleep’s role in memory. Physiol Rev. 2013;93(2):681–766. PubMed
- [8] Hobson JA, Pace‑Schott EF. The cognitive neuroscience of sleep: neuronal systems, consciousness and learning. Nat Rev Neurosci. 2002;3(9):679–693. PubMed
- [9] Mahmood Z, et al. REM sleep behavior disorder in Parkinson’s disease. Behav Neurol. 2020. PMC
- [10] Prasad S, et al. Recent advances in Lewy body dementia(RBD併存率の記述を含むレビュー). 2023. ScienceDirect
- [11] Giannini G, et al. REM Sleep Behaviour Disorder in Multiple System Atrophy(メタ解析:PSG確定88%). Front Neurol. 2021;12:677213. Publisher