慢性虚血性変化(白質高信号)・大脳白質病変|原因・将来リスクと対策

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科吉祥寺駅徒歩1分脳神経内科を専門とする医師(日本神経学会 神経内科専門医)/総合内科専門医の院長が、MRI(FLAIR/T2強調像)で見つかる慢性虚血性変化(白質高信号)を丁寧に評価いたします。

ここでいう慢性虚血性変化は、一般に「大脳白質病変」と呼ばれる所見と大きく重なりますが、免疫の病気による白質病変(多発性硬化症や視神経脊髄炎など)とは異なります

目的は画像上の変化を“消す”ことではなく進行を抑えることです。とくに将来の脳卒中や認知機能低下のリスクを下げるため、血圧管理生活習慣(禁煙・運動・睡眠・食事・減塩)を中心に、必要に応じて薬物治療の最適化を行います。[4][5]

必要に応じて頭部MRI(連携施設)を迅速に手配し、過去画像との比較フォロー間隔のご提案まで一貫してサポートいたします。

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用語について:脳ドックなどで「慢性虚血性変化」と書かれる所見は、報告書によっては「大脳白質病変」と表現されることがあります。ただし、大脳白質病変という言葉には、免疫の病気(多発性硬化症・視神経脊髄炎など)による白質病変も含まれるため、医学的には少し意味が異なります。本ページでは脳の細い血管が原因の慢性虚血性変化(白質高信号)を中心に解説いたします。

診療の進め方:初診では病歴・家庭血圧の確認、脳神経内科の診察、採血(代謝・腎機能など)を行い、必要に応じてMRIを手配いたします。過去画像との比較を踏まえて、生活習慣と薬物治療の計画を個別にご提案いたします。[3]

治療の考え方:慢性虚血性変化(白質高信号)だけを理由に抗血小板薬を新しく始めることは通常は推奨されません。まずは血圧管理・禁煙・運動・睡眠・減塩が基本で、適応があればより厳格な血圧管理も検討いたします。[3][4]

目次

慢性虚血性変化(白質高信号)・大脳白質病変とは

慢性虚血性変化(白質高信号)とは、MRI(FLAIR/T2強調像)で大脳白質に高信号域(白質病変)がみられる状態のことです。背景には、長い期間にわたる細い血管の血流低下などが関係すると考えられ、脳小血管病(SVD)の目じるしとみなされます。日常診療では「大脳白質病変」と説明されることもありますが、免疫の病気による白質病変とは区別して評価いたします。

まとめると:慢性虚血性変化(白質高信号)脳の細い血管が原因のサインで、MRIのFLAIR/T2で白質の信号が上がって見える部分のことです。一般には「大脳白質病変」と言われますが、免疫性の白質病変とは別ものです。

慢性虚血性変化(白質高信号)の原因(血管性か免疫性か)

大脳白質の高信号には、大きく分けて2つのタイプがあります。
1つ目は脳の細い血管が原因で起こるタイプ(本ページの慢性虚血性変化(白質高信号))。
2つ目は免疫の病気で神経を覆う膜(髄鞘)が傷むことで起こるタイプ(脱髄:例として多発性硬化症視神経脊髄炎など)です。
実際の診断は、症状の経過・診察・MRIの見え方・血液や髄液の検査などを総合して行います。

高信号の見え方の違い(一般の方向けの目安)
ポイント 血管性の白質高信号(慢性虚血性変化) 免疫性による白質病変(脱髄)
年齢の傾向 中年〜高齢の方に多いです。 比較的若い世代〜中年にみられることがあります。
できやすい場所 脳の深い部分脳室の近くに多く、脳の表面に近い場所は少なめです。 脳の表面に近い場所脳梁(のうりょう)などに生じやすいことがあります。
形のイメージ 最初は点状で、徐々にまとまりになることがあります。 はっきりした楕円形の病変が複数みられることがあります。
一緒にみられやすい所見 ごく小さな古い脳梗塞の跡や、ごく小さな出血(微小出血)が一緒にみられることがあります。 視力低下や、手足のしびれ・脱力などのはっきりした発作的な症状がきっかけになることがあります。
診断の進め方 血圧や生活習慣の確認が大切です。 神経の炎症がないかを血液や髄液の検査で確かめることがあります。

※上表はあくまで一般的な目安です。自己判断は避けていただき、気になる所見がある場合は脳神経内科でご相談ください。

まとめると:大脳白質の高信号血管性のことも、免疫性のこともあります。場所・形・症状を手がかりに、脳神経内科医が検査を組み合わせて丁寧に見分けます。

原因・関連因子(脳小血管病)

慢性虚血性変化(白質高信号)加齢とともに増えやすく、なかでも高血圧が最も強い関連因子です。ほかに糖尿病・脂質異常症・喫煙・慢性腎臓病などの病気や、運動不足・睡眠の質の低下・過度の飲酒・高塩分食といった生活習慣が関係すると報告されています。[5][6]

主要リスク因子と当院での確認・対応
リスク因子 確認ポイント 当院での対応
高血圧 家庭血圧(朝・就寝前)を1〜2週間記録していただきます。 目標の個別設定、降圧薬の最適化、生活調整をご提案いたします。
糖尿病・脂質異常 HbA1c、LDL/HDL/TG、脂肪肝などを確認いたします。 薬物治療の調整と、栄養・運動を併用して進めます。
喫煙・飲酒 本数・飲酒頻度、禁煙歴を確認いたします。 禁煙支援、減酒を提案します。
生活習慣 運動時間、睡眠の質、食塩摂取を確認いたします。 行動計画(和食ベースの減塩+野菜・魚・大豆製品)を提案します。
まとめると:一番の対策は血圧です。代謝の病気や喫煙・生活習慣も一緒に整えることが大切です。

予後・将来リスク(脳卒中/認知機能)

多くの研究で、慢性虚血性変化(白質高信号)の程度が強いほど、または増え方が速いほど、将来の脳卒中認知症死亡のリスクが高くなる傾向が示されています。認知機能では、とくに実行機能や処理速度への影響が指摘されています。[6][7]

エビデンスの要点

  • 認知症リスク:慢性虚血性変化(白質高信号)の存在・増加は全認知症(アルツハイマー型・血管性)のリスク上昇と関連します。[7]
  • 脳卒中・死亡:いわゆるサイレントSVD(慢性虚血性変化(白質高信号)・ラクナなど)は、将来の脳卒中・要介助・死亡リスクの増加と関連します。[5]
  • 降圧の効果:より厳格な収縮期血圧目標(例:<120mmHg)は、標準治療(<140mmHg)に比べて慢性虚血性変化(白質高信号)の進行抑制が示されました(効果は小さいものの有意)。[4]
まとめると:慢性虚血性変化(白質高信号)重い・増えるほど、将来の脳卒中や認知機能低下のリスクは上がりやすいです。

対策(血圧・運動・禁煙・睡眠・食事)

目的:画像上の変化をなくすことではなく、進行を抑えて将来のイベントを減らすことです。ガイドラインでは、まず血圧管理生活習慣の最適化を重視しています。[3][5]

  • 血圧管理:家庭血圧を朝晩に測り、平均で評価いたします。厳格な降圧慢性虚血性変化(白質高信号)の進行が抑えられる可能性が示されています(適応と副作用に配慮して個別化いたします)。[4]
  • 運動:中等度の有酸素運動を週合計150分程度、加えて筋力トレーニングを取り入れることをおすすめいたします。まずは歩数や時間から無理なく始めます。[10]
  • 禁煙:禁煙支援をご活用ください。受動喫煙もできるだけ避けていただきます。
  • 睡眠:就寝・起床時刻を一定にし、睡眠時無呼吸が疑わしい場合は評価をご提案いたします。
  • 薬剤:慢性虚血性変化(白質高信号)のみを理由に抗血小板薬を新たに始めることは通常は推奨されません(脳梗塞の既往など別の適応がある場合を除きます)。[3]
まとめると:血圧・運動・禁煙・睡眠・食事を土台に、必要なときに薬を最適化します。

食事の実践ガイド(概要)

  • 減塩(数値目安):高血圧の方は6g/日未満(日本高血圧学会)。一般成人は5g/日未満が推奨(WHO)。[11][12]
  • 和の減塩の工夫:だし(かつお・昆布)や酢・柑橘、香味野菜(生姜・大葉・ねぎ)で薄味でも満足スープ類は飲み干さないのがコツです。
  • 主菜は“魚と大豆”中心:青魚は週2〜3回を目安に、豆腐・納豆・厚揚げを日替わりでどうぞ。
  • 野菜350g+きのこ・海藻:お浸し・汁物・具だくさん味噌汁でもう一皿を意識します。
  • 主食は精製度を下げる:麦ごはん・雑穀・胚芽米など未精製穀物を適宜活用します。
  • 控えたいもの:加工肉・揚げ物・砂糖入り飲料・濃い味のつゆ(外食・惣菜は表示の塩分にご注意ください)。
まとめると:基本は減塩+和食ベース(魚・野菜・大豆・海藻・きのこ・未精製穀物)。続けやすさを大切にします。

40代〜60代の方へ(治療の始めどき)

  • 今が始めどき:慢性虚血性変化(白質高信号)が軽いうちから血圧・脂質・血糖を整えると、その後の進み方を抑えやすくなります。
  • 現実的な計画:平日は20〜30分の速歩、就寝前の飲酒は量と頻度を見直し、就床時刻を固定すると続けやすくなります。
  • フォロー:症状とリスクに応じて3〜12か月で外来フォローをご提案いたします。画像の再検査は臨床的な必要性を見て判断いたします。
まとめると:軽いうちからの血圧・代謝管理と生活調整が近道です。無理のない運動・減酒・睡眠習慣の固定を軸に、3〜12か月で計画的にフォローします。

よくある質問(FAQ)

Q1.「慢性虚血性変化」と「大脳白質病変」は同じですか?

A:日常診療では大きく重なる使い方をしますが、医学的には少し意味が異なります。本ページの慢性虚血性変化(白質高信号)は主に脳の細い血管が原因の白質病変を指し、免疫の病気による白質病変とは区別して評価いたします(やさしい解説をご参照ください)。

Q2.慢性虚血性変化(白質高信号)は治りますか?

A:現時点ですでにみられる白質病変を直接消す薬は一般的にありません。目的は進行の抑制と将来リスクの低減で、血圧管理・運動・禁煙・睡眠・食事をお一人おひとりに合わせて調整いたします。

Q3.認知症のリスクはどのくらい上がりますか?

A:メタ解析では、慢性虚血性変化(白質高信号)の量(負荷)が重いほど/進み方が速いほど全認知症(アルツハイマー型・血管性)のリスクが上がると報告されています。[7]

Q4.抗血小板薬(アスピリン)は飲んだほうがよいですか?

A:慢性虚血性変化(白質高信号)のみを理由に定期的な内服を始めることは通常は推奨されません。脳梗塞の既往や冠動脈疾患など、別の適応がある場合に限られます。[3]

Q5.血圧の目標は?

A:年齢・併存症・副作用リスクを踏まえて個別に決めます。研究ではより厳格な降圧慢性虚血性変化(白質高信号)の進行抑制に有効であることが示されました。主治医と相談し、一般的な管理目標に加えて、適応があればより厳格な目標も検討いたします。[4]

Q6.どのくらいの間隔で経過観察しますか?

A:症状とリスクに応じて3〜12か月が目安です。画像の再検査は臨床的必要性に応じて判断いたします。

Q7.MRIで「ラクナ」や「微小出血」もあると言われました

A:これらは脳小血管病のサインです。併存すると将来リスクの評価がより明確になります。生活習慣の見直しと血圧・代謝の最適化がいっそう重要になります。[5]

Q8.慢性虚血性変化でLDLコレステロールを下げるメリットはありますか?

A:直接、白質病変を減らす効果ははっきりしていませんが、脂質異常症がある方や全身の動脈硬化リスクが高い方では、LDLコレステロールを下げることが脳梗塞・心筋梗塞などの予防に役立つと考えられています。まずは食事・運動を整え、適応があればスタチン等の薬物療法を用います。血圧管理が最優先ですが、脂質管理は全身のイベント予防の観点から並行して行う価値があります。目標値は年齢・合併症・全身リスクで個別に設定いたします。[5][8]

この記事の監修者

大﨑 雅央(Masao Osaki)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
日本神経学会 神経内科専門医・指導医/日本内科学会 総合内科専門医

最終更新:

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参考文献

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  • [1] Wardlaw JM, et al. Neuroimaging standards for research into small vessel disease (STRIVE). Lancet Neurol. 2013;12(8):822–838. PubMed
  • [2] Duering M, et al. Neuroimaging standards for research into small vessel disease — advances since 2013. Lancet Neurol. 2023;22(7):602–618. PubMed / Lancet
  • [3] Wardlaw JM, et al. European Stroke Organisation Guideline on covert cerebral small vessel disease. Eur Stroke J. 2021. PMC
  • [4] Nasrallah IM, et al. Intensive vs Standard Blood Pressure Control and White Matter Lesion Progression(SPRINT‑MIND MRI). JAMA. 2019. PMC
  • [5] Smith EE, et al. Prevention of Stroke in Patients With Silent Cerebrovascular Disease. Stroke. 2017. AHA/ASA
  • [6] Debette S, Markus HS. The clinical importance of white matter hyperintensities. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2010. PubMed
  • [7] Guo W, et al. White matter hyperintensities volume and cognition: meta‑analysis. Front Aging Neurosci. 2022. PMC
  • [8] Debette S, et al. Clinical Significance of MRI Markers of Vascular Brain Injury. JAMA Neurol. 2019. JAMA Network
  • [10] World Health Organization. WHO Guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020. WHO
  • [11] Umemura S, et al. The Japanese Society of Hypertension (JSH) 2019 Guidelines for the Management of Hypertension. Hypertens Res. 2019;42(9):1235–1481. Nature
  • [12] World Health Organization. Sodium reduction: Fact sheet. 2025. WHO