レム睡眠行動障害(RBD)について―原因・症状・診断・治療・パーキンソン病との関連をやさしく解説(最新エビデンス付き)

レム睡眠行動障害(RBD)は、夢を見る睡眠(レム睡眠)で本来かかるはずの 筋肉のブレーキ(筋弛緩)が外れ、夢を「演じて」しまう病気です。 叫ぶ・手足をふる・起き上がるなどの行動が出るため、本人や同室者の受傷に注意が必要です。
診断は詳しい問診同室者からの情報、可能であれば睡眠中の動画などを中心に行い、 必要に応じて専門施設での検査(例:睡眠検査)をご提案します。

レム睡眠行動障害(RBD)は将来、パーキンソン病・レビー小体型認知症・多系統萎縮症など αシヌクレイノパチーに移行することが多く、長期フォローが重要です (5年で約30%10年で約60〜80%15年で約80〜95%が発症との報告)[3][4]

治療は寝室の安全対策を土台に、症状や背景に応じてクロナゼパムなどを検討します。 当院では神経内科専門医が、診断・薬物療法・生活指導まで丁寧にサポートいたします[1]

目次

レム睡眠行動障害(RBD)とは(基本情報)

レム睡眠行動障害(RBD)は、夢の最中に体が動いてしまい、 叫ぶ・殴る・蹴る・飛び起きるなどの行動が出る睡眠障害です。 人によってはベッドから落ちる・家具にぶつかるなどのけがが起こります。 レム睡眠行動障害(RBD)はパラソムニア(睡眠時随伴症)の一種で、レム睡眠中の筋活動増加(RSWA)が背景にあります[2]

受傷はどの程度?:研究では、約半数(55%)が何らかの受傷を経験し、 約11%は医療介入を要する重症の受傷が報告されています(自傷37.8%、同室者16.7%)[7]

まとめると:夢と同じ動きをしてしまうのがレム睡眠行動障害(RBD)。受傷リスクが高いため、早めの評価と対策が大切です。

レム睡眠行動障害(RBD)の症状と危険サイン

  • 夢を演じる:叫ぶ、ののしる、殴る/蹴る、手を振り払う、起き上がる
  • 発声:寝言、怒鳴り声、笑い声
  • 受傷:本人/同室者の打撲・裂創、ベッドからの転落
  • 起床後の記憶:夢の内容を覚えていることが多い

※「軽い寝言だけ」「短い発声だけ」は生理的範囲でも見られます。激しい行動・受傷があればご相談ください。

まとめると:激しい夢の演技+受傷は要注意。専門的な評価で確認します。

レム睡眠行動障害の原因・メカニズム(なぜ起こる?)

レム睡眠では通常、脳幹(橋/延髄)の回路が働いて全身の筋肉をゆるめるため、夢を見ても体は動きません。 レム睡眠行動障害(RBD)ではこの回路(例:橋背側の核群から前索経路を介する筋弛緩の制御)が障害され、 レム睡眠中に筋活動(RSWA)が増え、夢の動きが体にあらわれます[2]

また、レム睡眠行動障害(RBD)はαシヌクレインというたんぱく質が関わる神経変性(αシヌクレイノパチー)と深い関連があり、 パーキンソン病・レビー小体型認知症・多系統萎縮症前駆症状として現れることが少なくありません[2]

まとめると:レム睡眠の“筋ブレーキ”の故障で起こり、神経変性疾患の前触れとなることがあります。

レム睡眠行動障害は、誰に多い?(年齢・性別・薬剤など)

  • 年齢:中高年に多い
  • 性別:男性にやや多いとする報告
  • 薬剤:一部の抗うつ薬(SSRI/SNRIなど)で夢の演技が出やすくなることがあります
  • 併存症閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)はRBD様行動を悪化させることがあり、治療で改善する場合があります
  • 神経疾患:パーキンソン病・レビー小体型認知症などの経過中に出現することがあります

※上記は疫学的な傾向であり、個人差があります[2]

レム睡眠行動障害の診断(問診・同室者情報・動画)

当院では、まず詳しい問診同室者からの情報、可能であれば睡眠中の動画などを基に レム睡眠行動障害(RBD)を評価します。いびき・無呼吸など他の原因が疑われる場合や、 治療方針の検討で客観的所見が必要な場合には、専門施設での精密検査(例:睡眠検査)をご提案します。

区分 要点 備考
中心 問診+同室者の情報(受傷・夢の演技の有無、頻度、時間帯) 記録メモやスマートフォン動画が有用
鑑別 閉塞性睡眠時無呼吸・ノンレム覚醒障害・夜間てんかんなどを除外 必要に応じて専門施設へ紹介
参考 自己記入式のスクリーニング(RBDSQ‑J など) 診断の補助として活用[5][6]
まとめると:問診・同室者情報・動画が診断の核。状況に応じて専門施設での検査を検討します。

レム睡眠行動障害のチェックリスト(RBDSQ‑J

日本語版のRBDSQ‑J(REM Sleep Behavior Disorder Screening Questionnaire)は、 10項目(13下位項目)の自己報告式チェックリストです。

判定のめやす:一般に合計5点以上レム睡眠行動障害(RBD)の疑いとされます[5]
一般住民調査では6点の方が特異度のバランスがよいとの報告(感度100%、特異度73%)もあります[6]

No. 質問(要約) チェック
1とてもはっきりした夢を見る
2攻撃的/動きが盛りだくさんの夢をよく見る
3夢の中と同じ動作を睡眠中にしてしまう(夢の演技)
4寝ている時に腕や足を動かす/突然はねることがある
5睡眠中の行動で自分や同室者がけがをした/させたことがある
6‑a睡眠中に話す/大声でどなる/ののしる/笑うなどの発声がある
6‑b睡眠中に突発的な手足の動き(けんかをしているような動作)がある
6‑c睡眠中に複雑な身振り(例:手を振る、挨拶、払いのける、ベッドから落ちる)がある
6‑dベッド周りの物を落とす(電気スタンド・本・眼鏡など)ことがある
7自分の動作で目が覚めることがある
8目が覚めた後、夢の内容をだいたい覚えている
9眠りが妨げられる(中途覚醒など)が多い
10神経疾患の既往(例:脳卒中、頭部外傷、パーキンソン病、むずむず脚症候群、ナルコレプシー、うつ病、てんかん、脳炎 など)

自己評価は目安です。診断は専門医へご相談ください[5][6]

まとめると:RBDSQ‑Jは10項目(13下位項目)合計5点以上で疑い。一般集団では6点カットオフの報告もあります。

レム睡眠行動障害と似ている病気との違い(鑑別表)

項目 レム睡眠行動障害(RBD) ノンレム覚醒障害 睡眠時無呼吸(OSA) 夜間てんかん など
主な睡眠段階 レム睡眠 深いノンレム睡眠(夜前半に多い) レム/ノンレムいずれも 睡眠段階を問わず起こることがある
行動 夢を演じる(叫ぶ・殴る 等) 起き上がる・徘徊・錯乱 いびき・無呼吸、もがくことも 反復的・短時間の発作様運動
危険度 中〜高(受傷の恐れ) 中(環境次第) 中(低酸素は循環器負担) 中(診断・治療が必要)
主な対応 安全対策+薬物療法の検討 安全確保・睡眠衛生 無呼吸の評価・治療(例:CPAP) 専門的評価(脳波等)
まとめると:受傷無呼吸があれば早めに受診を。状況に応じて専門施設と連携します。

レム睡眠行動障害は神経変性疾患でどのくらい見られる?(パーキンソン病などにおける併存率)

レム睡眠行動障害(RBD)は、パーキンソン病(PD)約33〜46%レビー小体型認知症(DLB)約76%多系統萎縮症(MSA)では約88%(PSG確定)と報告されています[8][9][10]。 調査方法(問診・質問票・PSG)や対象背景で幅があります。

パーキンソン病(PD)・レビー小体型認知症(DLB)・多系統萎縮症(MSA)におけるレム睡眠行動障害(RBD)の併存率 縦軸:併存率(%)/横軸:疾患。PD: 約40%(文献33–46%)、DLB: 約76%、MSA: 約88%(PSG確定)。 レム睡眠行動障害の併存率(%) 疾患 0% 20% 40% 60% 80% 100% PD DLB MSA 約40%(33–46%) 約76% 約88%(PSG)

※定義や測定法の違い(質問票/臨床診断/PSG確定)により推定値は変動します[8][9][10]

レム睡眠行動障害を放置するとどうなる?(受傷リスク・長期予後)

特発性RBD(iRBD)の方は、長期的にαシヌクレイノパチー(PD/LBD/MSA)を発症する割合が高いことがわかっています。 大規模解析では、5年で約30%10年で約60〜80%15年で約80〜95%が移行したとの報告があり、 年あたりの平均移行率は約6〜7%/年と推定されています[3][4]

iRBDからの長期的な病気の移行(概念図:PD/LBD/MSA)

iRBDからの長期的な病気の移行 将来、パーキンソン病(PD)・レビー小体型認知症(LBD)・多系統萎縮症(MSA)を発症した人の割合(累積%)。観察年数(年)。代表値 5年33%、10年75%、15年90%(概念図)。 将来発症した人の割合(累積%) 観察年数(年) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0 5 10 15 5年 ≈33% 10年 ≈75%(60–80%) 15年 ≈90%(80–95%)

※幅の主因:診断基準(RSWAの定義やスコア法)、年齢構成追跡期間除外基準の差異[3][4]

まとめると:受傷対策と定期フォローが必須。将来の神経変性疾患を見据えた観察が大切です。

レム睡眠行動障害の治療(安全対策・薬物・併存症)

1)まずは「安全対策」

  • ベッド周囲の危険物の撤去(尖った家具・ガラス・重い置物など)
  • 角の保護床マットの設置、必要に応じてベッドを低くする
  • 同室者の安全な距離(一時的な別室も検討)
  • 就寝前の飲酒を避ける、睡眠不足の解消、規則的な睡眠習慣

2)併存症・薬剤の見直し

  • 睡眠時無呼吸(OSA)がある場合は、CPAPなどの治療でレム睡眠行動障害(RBD)様行動が軽減することがあります。
  • 一部の抗うつ薬などで夢の演技が増えることがあり、主治医と薬剤調整を検討します。

3)薬物療法(症状緩和目的)

薬剤 期待できる効果 主な副作用・注意 位置づけ
クロナゼパム 夢の演技・受傷行動の軽減 日中の眠気、ふらつき、転倒、認知/呼吸抑制に注意(高齢者で慎重) 条件付き推奨(ガイドライン)[1]
その他
(背景疾患に応じた調整)
合併疾患(例:LBD/PD)の症状背景により検討 個別に有害事象へ配慮 限定的エビデンス。専門医で検討[1][2]

※薬剤選択は個別の病状・年齢・併存症で最適化します。用量調整・相互作用は主治医にご相談ください[1]

まとめると:安全対策→併存症/薬剤の見直し→薬物療法の順で進め、受傷ゼロを目標に調整します。

レム睡眠行動障害の生活の工夫

  • 就寝環境:ベッド周囲を片づける、角を保護、床にマット
  • 生活リズム:規則正しい就寝・起床、カフェイン・アルコールを控えめに
  • 家族への共有:受傷予防の工夫を一緒に確認
  • 定期フォロー:症状・内服・合併症(無呼吸、パーキンソン症状など)の変化をチェック
まとめると:日常の小さな工夫で受傷リスクを大幅に低減できます。定期的に見直しましょう。

この記事の監修者

大崎 雅央(Masao Osaki)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
日本神経学会 神経内科専門医・指導医/日本内科学会 総合内科専門医

最終更新:

院長の詳しい紹介はこちら / パーキンソン病の総合ページ

よくある質問(FAQ)

Q1. 寝言が多いのですが、レム睡眠行動障害(RBD)でしょうか?

寝言だけではレム睡眠行動障害(RBD)とは限りません。夢の演技(叫ぶ・殴る等)や受傷がある場合はRBDが疑われます。まずは問診・同室者からの情報で評価し、必要に応じて専門施設での検査をご提案します。

Q2. レム睡眠行動障害(RBD)があると必ず神経変性疾患になりますか?

必ずではありませんが、長期に移行する人が多いことがわかっています(定義:特発性RBD→転帰はPD/LBD/MSA[3][4]。定期フォローをおすすめします。

Q3. 入院での睡眠検査は必要ですか?

当院では入院での睡眠ポリグラフ検査(PSG)は実施していません問診・同室者情報・動画で評価し、必要時のみ専門施設をご紹介します。

Q4. どの診療科を受診すれば良いですか?

脳神経内科(神経内科)睡眠医療の専門医が対応します。当院でも診断から治療、生活支援まで丁寧に対応いたします。

参考文献

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  • [1] American Academy of Sleep Medicine (AASM). Clinical practice guideline for the management of REM sleep behavior disorder. J Clin Sleep Med. 2023. PubMed
  • [2] Högl B, Stefani A, Videnovic A. REM sleep behaviour disorder and neurodegeneration. Nat Rev Neurol. 2018;14:40–55. PubMed
  • [3] Postuma RB, et al. Prognosis of PSG‑confirmed idiopathic RBD: multicenter study & meta‑analysis. Brain. 2019;142(3):744–759. PubMed
  • [4] Iranzo A, et al. Risk of neurodegeneration in idiopathic RBD: prospective cohort. Lancet Neurol. 2013;12(5):443–453. PubMed
  • [5] Miyamoto T, et al. Validation of the Japanese RBDSQ (RBDSQ‑J). Sleep Med. 2009;10(10):1151–1154. Europe PMC
  • [6] Nomura T, et al. Validity of RBDSQ‑J in the general population. Psychiatry Clin Neurosci. 2015;69(8):480–486. PubMed
  • [7] McCarter SJ, et al. Factors associated with injury in RBD. Sleep Med. 2014;15(11):1337–1343. PMC
  • [8] Mahmood Z, et al. REM sleep behavior disorder in Parkinson’s disease. Behav Neurol. 2020. PMC
  • [9] Prasad S, et al. Recent advances in Lewy body dementia(RBD併存率の記述を含むレビュー). 2023. ScienceDirect
  • [10] Giannini G, et al. REM Sleep Behaviour Disorder in Multiple System Atrophy(メタ解析:PSG確定88%). Front Neurol. 2021;12:677213. Publisher
  • [11] Hu MTM, et al. Review: REM sleep behavior disorder. Sleep Med Rev. 2020;50:101247. ScienceDirect