高血圧症について(2025年最新ガイドラインに基づいて)

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科では、高血圧症をはじめ、脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病(CKD)などの生活習慣病の診療を行っています。
高血圧は自覚症状に乏しい一方で、脳卒中や心不全など重大な合併症の原因となり得ます。当院では、最新ガイドラインに基づく評価・治療と、家庭血圧を活用した丁寧なフォローで、患者さまの生活の質(QOL)を守ることを大切にしています。

高血圧症は、血液が血管を流れる際の圧力(血圧)が慢性的に高い状態です。

2025年版 日本高血圧学会ガイドライン(JSH 2025)では、治療目標が原則130/80mmHg未満(家庭血圧は125/75mmHg未満)に統一されました[1][2]

一方、診断の基本は従来どおり、診察室血圧:140/90mmHg以上家庭血圧:135/85mmHg以上です[1]
つまり「診断の閾値」と「治療で目指す目標値」は異なるため、診察室と家庭の双方で正確に測定し、平均値で評価することが大切です[2]

高血圧症の種類と主な原因

大きく「本態性(一次性)」と「二次性」に分けられます。

1. 本態性高血圧(約9割)

  • 遺伝体質生活習慣(塩分過多、運動不足、飲酒、喫煙、睡眠不足・ストレス)
  • 加齢による血管硬化の進行

2. 二次性高血圧(原因が特定可能)

  • 原発性アルドステロン症(ホルモン過剰)
  • 腎実質性/腎血管性(腎臓の病気)
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 薬剤性(NSAIDs、経口避妊薬、ステロイド など)

難治性・若年発症・低カリウム血症・夜間/早朝高血圧などがある場合は、二次性の精査(血液・尿検査、画像検査、睡眠時無呼吸症候群スクリーニングなど)を検討します[1]

白衣高血圧・仮面高血圧の考え方

診察室と院外(家庭)で血圧が乖離する表現型です。家庭血圧(HBPM)の活用が診断・管理の鍵になります[3][4][2]

  • 定義
    白衣高血圧(WCH)診察室は高値(例:≥140/90)、家庭は正常(例:<135/85)。
    仮面高血圧(MH)診察室は正常、家庭は高値(例:≥135/85)。[3]
  • なぜ重要?MH持続性高血圧に近い/同等のリスクWCH正常より高いが持続性高血圧より低いリスク。[8][7]
  • どう確認?家庭血圧を朝夕各2回×7日以上測定(初日除外)して平均を計算。必要に応じABPM[2][3][4]
当院での対応(白衣高血圧(WCH)/仮面高血圧(MH))
  • 院外血圧の確認家庭血圧の測定方法(朝夕各2回×7日以上)をご提案。
  • リスク層別化:臓器障害や合併症、動脈硬化リスクに応じて薬物療法の要否を判断[3]
  • 関連疾患評価睡眠時無呼吸が疑われる場合は自宅睡眠検査→CPAP等を検討。

主な症状と合併症リスク

多くは無症状ですが、未治療だと以下の合併症リスクが上がります。

血圧を厳格に管理すると主要な心血管イベントや死亡が減ることが示されています[1][5]

治療(生活習慣+薬物療法)

1)生活習慣の改善

  • 減塩:味つけは薄めに。加工食品(麺類・ハム・漬物など)は塩分が多めです。できれば1日5〜6g未満を目標にしましょう[1]
  • 体重:体重が落ちると血圧は下がりやすくなります。減量は無理のない範囲でコツコツ続けましょう[1]
  • 運動息が弾む程度のウォーキングなどを1日30分ほど、週合計150分を目安に。続けられる運動ならOKです[1]
  • お酒:毎日飲む方は量を控えると血圧が下がりやすくなります[1]
  • 禁煙:血管を守るためにやめましょう[1]
  • 睡眠:いびき・日中の強い眠気があればご相談ください(睡眠時無呼吸が隠れていることがあります)[1]

2)薬物療法

生活の工夫だけで目標に届かない場合は薬を使います。体質や持病に合わせて1〜2種類から開始し、必要に応じて組み合わせます[1][2]

  • Ca拮抗薬:血管を広げて下げます。足のむくみに注意[1]
  • ARB/ACE阻害薬:血圧を上げるホルモンの働きを抑えます。腎臓を守る目的で選ぶことがあります。
  • サイアザイド系利尿薬:余分な水分と塩分を出して下げます。採血で電解質や尿酸を確認します[1]
  • β遮断薬:心臓の働きをおだやかにします。狭心症や頻脈などに適します[1]
  • MRA(スピロノラクトン等)薬を3種類以上使っても下がりにくい時に特に有効(開始後はカリウムを定期チェック)[9]
  • ARNI(サクビトリル/バルサルタン)主に心不全の治療薬。高血圧単独の第一選択ではありません。ACE阻害薬から切り替える際は36時間空けます[16]

治療の目標130/80mmHg未満(家庭では125/75mmHg未満)。ふらつきなどの症状が出る場合は、無理のない範囲で目標を調整します[1]

当院での対応

  • 正確な評価:診察室/家庭血圧の両面評価、早朝高血圧の確認[2]
  • 生活支援:減塩・運動・減酒・体重管理の実践支援[1]
  • 薬の最適化:併存症(糖尿病・CKD・心疾患 等)と副作用を踏まえた処方をご提案[1]
  • 原因の精査:原発性アルドステロン症・腎疾患・睡眠時無呼吸症候群等のスクリーニング[1]睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、自宅での睡眠検査などでCPAP等を検討。
  • 合併症予防:脳卒中・心不全・腎症・認知症リスクの低減を目標に、家庭血圧中心で継続フォロー[2]

定期的に血圧を測り、目標に届かない、あるいは値が不安定な場合は早めにご相談ください。

家庭血圧の測り方

  • タイミング:起床後1時間以内(排尿後・服薬前・朝食前)、就寝前に各2回[2]
  • 方法:座位1〜2分安静、上腕カフで左右同条件。2回測り平均[2]
  • 記録:7日以上の平均値で評価(初日の値は除外が推奨)[2]
  • 家庭での目標:125/75mmHg未満[2]
  • 診断の目安:135/85mmHg以上は家庭血圧でも高血圧の範囲です[1]

よくある質問(FAQ)

Q1.高血圧の薬は一生飲む必要がありますか?

A:多くの方では長期(しばしば生涯)服薬が必要です。高血圧は慢性疾患で、降圧薬を中止すると再上昇することが一般的です。主要ガイドライン(JSH 2025・ESH 2023・NICE)も、生活習慣の最適化+長期薬物療法を基本戦略としています[1][3][13]。大規模メタ解析では、わずか5mmHgのSBP低下でも主要心血管イベントが約10%減少し、基礎血圧や年齢によらず恩恵が示されます[5]

ただし、厳密に選んだ一部の高齢者の方では、慎重な減薬(減量)が可能な場合もあります。英国の無作為化試験(OPTIMISE)では、80歳以上で比較的良好にコントロールされた方において、短期(12週間)の減薬でも多くが目標内を維持できました(平均SBPはわずかに上昇)[14]。Cochraneレビューでも、減薬は可能だが血圧上昇や再開の必要性が一定程度みられること、長期アウトカムは不確実と結論づけています[15]

結論:多くの方は合併症予防のため継続服薬が基本です。
一方、めまい・低血圧症状体重減少・生活改善で「効きすぎ」が疑われるときは、担当医と相談のうえ減量/減薬の可否を段階的に検討します(自己判断の中止は危険)。

Q2.高血圧は脳血管障害(脳梗塞・脳出血)のリスクをどれくらい上げますか?下げるとどれくらい減りますか?

A:血圧が高いほど脳卒中リスクは段階的に上がり、下げるほど下がります。

  • 観察研究:SBP140–159mmHg<130mmHgに比べ約1.6倍≥180mmHgでは約2.1倍の脳卒中リスクでした(前向きコホート)[12]
  • 介入試験の統合解析:SBPを10mmHg下げると脳卒中リスクが27%低下[6]
  • 同様に5mmHg低下でも主要心血管イベント約10%低下し、年齢や基礎血圧に依らず恩恵がみられます[5]

副作用(ふらつき等)が出ない範囲で、原則130/80mmHg未満(家庭125/75mmHg未満)を目標に、一緒に調整していきます[1][2]

Q3.高血圧は認知症のリスクを上げますか?血圧を下げると予防できますか?

A:観察研究では高血圧は認知症リスク上昇と関連します。無作為化試験のサブ解析(SPRINT MIND)では、SBP<120mmHgを目指す積極降圧により、軽度認知障害(MCI)およびMCI+認知症の複合が有意に低下しました(認知症単独は有意差に至らず)[10]。さらに、個別患者データのメタ解析では降圧治療により認知症リスクが有意に低下することが示されています(効果は小〜中等度)[11]。脳を守る観点でも、適切な血圧管理が重要です。

Q4.診察室で「130/80mmHg」でした。高血圧ですか?

A:診断は原則診察室で140/90mmHg以上、家庭で135/85mmHg以上が目安です。一方、治療の目標130/80mmHg未満(家庭は125/75mmHg未満)です。診断に使う数値と、治療で目指す数値は異なります[1][2]

Q5.薬を3種類使っても下がりにくい時は?

A:MRA(スピロノラクトン等)を追加すると下がりやすいことが分かっています。開始後はカリウム値などを定期的に確認します[9]

Q6.ARNI(サクビトリル/バルサルタン)は使いますか?

A:主に心不全の治療で使う薬です。高血圧だけの第一選択ではありませんが、心不全がある方で使うと血圧も下がることがあります。ACE阻害薬と一緒には使えず、切り替える時は36時間あけてから開始します[16]

この記事の監修者

大﨑 雅央(Masao Osaki)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本神経学会 神経内科専門医・指導医

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参考文献

  • [1] Ohya Y, et al. Key highlights of the JSH 2025 Guidelines. Hypertens Res. 2025. PubMed: 40877471
  • [2] Ohya Y. JSH 2025 guidelines: new viewpoints. Hypertens Res. 2025. PubMed: 40707654
  • [3] Mancia G, et al. 2023 ESH Guidelines for the management of arterial hypertension. J Hypertens. 2023. PubMed: 37345492
  • [4] USPSTF. Screening for Hypertension in Adults: Reaffirmation Recommendation Statement. JAMA. 2021. PubMed: 33904861
  • [5] BPLTTC. Pharmacological blood pressure lowering across different levels of BP. Lancet. 2021. PubMed: 33933205
  • [6] Ettehad D, et al. Blood pressure lowering for prevention of cardiovascular disease. Lancet. 2016. PubMed: 26724178
  • [7] Cohen JB, et al. Cardiovascular Events and Mortality in White Coat Hypertension. Ann Intern Med. 2019. Link
  • [8] Zhang DY, et al. Masked hypertension and CV risk: comparative meta-analysis. J Hypertens. 2019. PubMed: 31219948
  • [9] Williams B, et al. PATHWAY-2: spironolactone for resistant hypertension. Lancet. 2015. PMC: PMC4655321
  • [10] SPRINT MIND Investigators. Intensive vs Standard BP Control and Probable Dementia. JAMA. 2019. PMC: PMC6439590
  • [11] Peters R, et al. Blood pressure lowering and prevention of dementia: IPD meta-analysis. Eur Heart J. 2022. PubMed: 36282295
  • [12] Du X, et al. Association of Blood Pressure With Stroke Risk, Stratified by Age and Stroke Type. Front Neurol. 2019. Link
  • [13] NICE Guideline NG136. Hypertension in adults: diagnosis and management. (2019–update). NICE NG136
  • [14] Sheppard JP, et al. (OPTIMISE Trial). Effect of Antihypertensive Medication Reduction in Older Adults. JAMA. 2020. PubMed: 32250416
  • [15] Reeve E, et al. Withdrawal of antihypertensive drugs in older people. Cochrane Database Syst Rev. 2020. PubMed: 33169832
  • [16] Sauer AJ, et al. Practical guidance on sacubitril/valsartan. ESC Heart Fail. 2018. PMC: PMC6394573