しびれ(感覚異常)について:脳卒中・脊髄症・末梢神経障害(糖尿病性ニューロパチー/手根管症候群ほか)

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科は吉祥寺駅徒歩1分神経内科専門医/総合内科専門医の院長が、「どこが・どの範囲で」「いつから・どう変化しているか」「何で増悪/緩和するか」といった解剖学的アプローチ+時間経過に基づく問診と、丁寧な神経学的診察(触覚・痛覚・温度・振動覚・位置覚、腱反射、筋力、巧緻運動)を重視し、必要に応じて頭部/頸椎/腰椎MRI・採血・神経伝導検査(NCS)を連携実施いたします。[10]

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受診のきっかけ(外来の目安):
突然の片側の顔・腕・脚のしびれ呂律不良視野異常脳卒中を疑うサインです(救急へ)。[1]
両足のしびれ+排尿・排便障害/会陰の感覚低下馬尾症候群が疑われます(緊急MRI)。[3]
首から下の広い範囲のしびれ+手の不器用さ・歩行のふらつきは頸髄症の可能性があります。[5]
足の先から左右対称に広がるしびれ糖尿病性末梢神経障害が代表です。[7][6]

診療の進め方:しびれの分布(片側/両側・手袋/靴下型・神経根/神経領域)時間経過(突発/進行/再発)から病変部位を推定し、見落としたくない緊急疾患(脳卒中・馬尾症候群・ギラン・バレー症候群(GBS)など)を優先的に除外します。[1][4]

目次

【直ちに救急対応が必要な「しびれ」】

  • 突然の片側の顔・腕・脚のしびれ脱力・構音障害・視野異常を伴う(脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)の疑い)。[1][2]
  • 両下肢の強いしびれ/痛み排尿・排便障害会陰(鞍部)感覚低下馬尾症候群:緊急MRI・緊急手術の対象)。[3]
  • 数日で上行するしびれ左右対称の筋力低下呼吸苦を伴う(ギラン・バレー症候群(GBS))。[4]
  • 首から下の広範なしびれ巧緻運動低下ふらつき膀胱直腸障害頸髄症)。[5]

該当時は#7119(救急相談)等で指示を受け、救急受診をご検討ください。

緊急性の高いしびれ(一覧)

緊急性の高いしびれ(超緊急/緊急/準緊急の目安)
緊急度 病名 症状の簡単な解説 主なサイン・状況
超緊急 脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA) 突然の片側の顔・腕・脚のしびれ/脱力、構音障害、視野障害など。 MRI(DWI, MRA)優先で評価。[1][2]
超緊急 馬尾症候群 両下肢しびれ+排尿/排便障害+会陰感覚低下。 腰椎MRIで圧迫確認、緊急減圧術を検討。[3]
緊急 ギラン・バレー症候群(GBS) 数日で足→上体へ広がるしびれ/筋力低下、腱反射低下、呼吸筋麻痺に注意。 入院の上、免疫療法(IVIg/血漿交換)と呼吸管理。[4]
緊急 頸髄症(脊髄圧迫) 首から下の広範なしびれ・巧緻障害・歩行障害・膀胱直腸障害。 頸椎MRIで評価、整形外科と手術含め検討[5]
準緊急 急性/亜急性末梢神経障害 新規の左右対称の足先のしびれ、痛み、感覚低下。 糖尿病・ビタミンB12欠乏・薬剤(メトホルミン等)を検査。[7][9]
まとめると:突然・片側」「排尿/排便障害」「数日で急速進行」は救急レベルのサインです。

しびれの種類(陽性/陰性)と感覚線維

陽性症状(ピリピリ・ジンジン・電撃痛・灼熱感)と、陰性症状(感覚低下・しびれた感じ)は原因の手がかりになります。小径線維(Aδ/C:痛み・温度)と大径線維(Aβ:触・振動・位置)で症状が異なります。[11]

線維 担当する感覚 主な症状の出方
小径線維(Aδ/C) 痛み・温度・一部の自律神経 灼熱痛・ピリピリ・触れただけで痛い(アロディニア)・温度感鈍麻(小径線維ニューロパチー)。[7]
大径線維(Aβ) 触覚・振動覚・位置覚 しびれ感・足がふわふわする・暗所でふらつく(Romberg陽性)など。
まとめると:ピリピリ・灼熱は小径線維、ふらつき・感覚低下は大径線維の障害が示唆されます。

しびれの分布で分かること(解剖アプローチ)

しびれの分布は障害部位の推定に有用です。代表的なパターンを下表にまとめます。

分布 推定部位 代表疾患・補足
片側の顔・腕・脚(同側) 大脳半球 脳卒中など[1][2]
首から下の両側 脊髄 頸髄症・頸椎症性脊髄症(進行時は手術検討)。[5]
片腕(頸〜指先)で一部の指 神経根/末梢神経 頸椎症性神経根症、手根管症候群(正中神経)、肘部管症候群(尺骨神経)。[12][13]
足先から左右対称に上行(手袋靴下型) 多発神経障害 糖尿病性末梢神経障害(DPN)が代表。[7][6]
両下肢+会陰の感覚低下 馬尾 馬尾症候群(膀胱直腸障害を伴えば緊急)。[3]
まとめると:分布(片側/両側・手袋靴下型・神経根/末梢)で病変部位の目星がつきます。

しびれの主な原因

  • 中枢性:脳梗塞/一過性脳虚血発作(TIA)、脳出血、脱髄疾患(多発性硬化症など)。[14]
  • 脊髄性:頸髄症・脊髄炎・脊髄梗塞・頚椎/胸椎の圧迫病変など。[5]
  • 神経根性:頸椎/腰椎椎間板ヘルニアによる神経根障害(頸椎神経根症坐骨神経痛)。[12][15]
  • 末梢神経:糖尿病性末梢神経障害(DPN)、小径線維ニューロパチー、手根管症候群・尺骨神経障害・足根管症候群など。[7][6][13]
  • 代謝/栄養・薬剤:糖代謝異常、ビタミンB12欠乏(メトホルミン長期内服で低下し得ます)、甲状腺/腎機能異常など。[10][9]
まとめると:しびれの背景は中枢〜末梢まで多彩で、代謝・薬剤の影響も見逃せません。

手のしびれ

夜間・明け方に親指〜薬指のしびれが強く、手を振ると軽減する場合は手根管症候群(正中神経の絞扼)が典型です。PhalenテストTinel徴候などの臨床所見と神経伝導検査(NCS)などの総合判断で診断します。[13][17][18][19]

疾患 特徴 検査・治療の目安
手根管症候群 親指〜中指(+薬指橈側)のしびれ、夜間増悪、物を落とす、母指球萎縮。 臨床所見、神経伝導検査で評価。安静・装具(夜間固定)手術の順に検討。[18][13]
頸椎神経根症 頸〜肩〜上肢に放散、頸の動きで増悪、皮膚分節(C6:母指/C7:中指/C8:小指・環指尺側)に一致。 頸椎MRIを考慮。多くは保存療法、進行性麻痺等は手術検討。[12]
尺骨神経障害 小指・環指尺側のしびれ、肘部管/ギヨン管で絞扼。 肘の屈曲回避・保温、神経伝導検査、場合により手術。

手根管症候群の診断・治療の考え方

  1. 症状(夜間に特に強い正中神経領域のしびれ・痛み、巧緻障害)+Phalen徴候/Tinel徴候。[17]
  2. 必要に応じて神経伝導検査で支持所見を確認(重症度分類・手術適応の判断)。[19]
  3. まずは安静・装具(夜間)・活動調整 → 外科的手術を検討。[18][13]
まとめると:夜間に親指〜中指がしびれる」は手根管症候群が典型です。

足先から左右対称に広がるしびれ糖尿病性末梢神経障害(DPN)が代表です。振動覚低下や小径線維障害に伴う灼熱痛を伴うことがあります。足潰瘍の予防のためにフットケアが重要です。[7][6]

疾患 特徴 検査・治療の目安
糖尿病性末梢神経障害 手袋靴下型、痛み(灼熱/電撃)、振動覚低下、足潰瘍リスク。 HbA1c、ビタミンB12、腎/甲状腺等。血糖管理+疼痛対策(デュロキセチン、プレガバリン/ガバペンチン、アミトリプチリン等)。[16][8]
坐骨神経痛(腰椎神経根) 腰→殿→下肢後外側に放散する痛み/しびれ、咳・くしゃみで増悪。 保存療法が基本。プレガバリンの有効性は限定的[15]
足根管症候群 足底内側のしびれ・灼熱痛、長時間歩行で増悪。 足底圧・靴の調整、保存療法〜手術。
まとめると:糖尿病性末梢神経障害では足先からの左右対称に広がることが典型で、血糖管理+疼痛治療+フットケアが基本です。

しびれの検査方法(必要に応じて選択)

検査 目的・分かること 実施の目安
神経学的診察 触覚・痛覚・温度・振動・位置覚、腱反射、筋力、歩行で障害部位を推定。 診察時に実施します。
血液検査 HbA1c/空腹時血糖、ビタミンB12、甲状腺・腎機能など。[10][20] 左右対称の末梢神経障害を疑う際に推奨。
神経伝導検査(NCS)/筋電図(EMG) 絞扼性(手根管など)か多発性か、脱髄/軸索障害の区別、重症度評価。[19] 手根管症候群・多発ニューロパチー・神経根障害の鑑別に有用。
MRI(頭部/頸椎/腰椎) 中枢性(脳)・脊髄圧迫(頸髄症/馬尾)・神経根圧迫(椎間板)の評価。 救急疾患を疑う時や局在が脊髄/神経根で示唆されるとき。
まとめると:神経学的検査+血液検査を基本に、必要な方にMRIや神経伝導検査を提案します。

当院での「しびれ」診療の主な対応

  • 緊急鑑別(脳卒中・馬尾・ギラン・バレー症候群・頸髄症)を念頭に置いた初期評価
  • 神経学的診察分布/時間経過に基づく局在推定
  • 血液検査(HbA1c/B12等)の選択と生活指導
  • MRI・神経伝導検査などの生理検査の連携手配(必要時)
  • 糖尿病性末梢神経障害に対する疼痛薬物療法の提案と副作用説明[16][8]
  • 手根管症候群の装具のご相談、手術が必要な場合は速やかに連携
まとめると:緊急疾患を拾い上げつつ、根拠に基づく検査・治療をわかりやすくご提案します。

【しびれ】よくあるご質問(FAQ)

A. 受診判断・救急

「しびれだけ」でも脳卒中の可能性はありますか?

突然の片側(顔・腕・脚)のしびれは脳卒中のサインの可能性があります。ろれつ不良・視野障害・脱力を伴えば救急です。[1][2]

坐骨神経痛の痛み止めは何が効きますか?

神経根性腰痛(坐骨神経痛)に対するプレガバリンの効果は限定的とする質の高い試験があります。運動療法や時間経過で改善する例も多く、手術は進行性麻痺や難治の痛みで検討されます。[15]

手根管症候群は装具だけで治りますか?

軽〜中等症では夜間装具や活動調整で改善することがあります。重症や萎縮があれば手術が検討されます。[18][13]

この記事の監修者

大崎 雅央(Masao Osaki)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
日本神経学会 神経内科専門医・指導医/日本内科学会 総合内科専門医

最終更新:

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参考文献(エビデンス)

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  1. National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS). Stroke: Know the Signs and Symptoms. 2024–2025. NINDS
  2. Bamford J, et al. 2021 AHA/ASA Guideline for the prevention and evaluation of TIA and minor stroke. Stroke. 2021.(TIAは脳卒中の危険信号)AHA/ASA
  3. Todd NV, et al. Presentation, management and outcomes in cauda equina syndrome. EClinicalMedicine (Lancet). 2023. EClinicalMedicine
  4. Yuki N, Hartung HP. Guillain–Barré Syndrome. N Engl J Med. 2012;366:2294–2304. NEJM
  5. Bartels RHMA, et al. A new dimension in degenerative cervical myelopathy. Lancet Neurol. 2021;20:984–985. Lancet Neurol
  6. Selvarajah D, et al. Diabetic peripheral neuropathy: advances in diagnosis and strategies for screening and early intervention. Lancet Diabetes Endocrinol. 2019;7:938–948. PubMed
  7. Feldman EL, et al. Diabetic neuropathy. Nature Reviews Disease Primers. 2019;5:41. Nature
  8. Tesfaye S, et al. Comparison of amitriptyline, duloxetine, and pregabalin, and combinations, for painful diabetic neuropathy. Lancet. 2022;400:680–690. Lancet
  9. UK MHRA. Metformin and reduced vitamin B12 levels: new advice for monitoring. Drug Safety Update. 2022. MHRA
  10. England JD, et al. Practice Parameter: Evaluation of distal symmetric polyneuropathy: role of laboratory and genetic testing. Neurology. 2009;72:185–192. Neurology
  11. Johnson SA, et al. Small fiber neuropathy: incidence, prevalence and clinical features. Neurology. 2021. Neurology
  12. Carette S, Fehlings MG. Cervical Radiculopathy. N Engl J Med. 2005;353:392–399. NEJM
  13. Padua L, et al. Carpal tunnel syndrome. Lancet Neurol. 2016;15:1273–1284.(+2023更新有) Lancet Neurol
  14. Thompson AJ, et al. Diagnosis of multiple sclerosis: 2017 revisions of the McDonald criteria. Lancet Neurol. 2018;17:162–173. Lancet Neurol
  15. Mathieson S, et al. Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica. N Engl J Med. 2017;376:1111–1120. NEJM
  16. Price R, et al. Oral and Topical Treatment of Painful Diabetic Neuropathy: AAN guideline update. Neurology. 2022. Neurology
  17. D’Arcy CA, McGee S. The Rational Clinical Examination: Does this patient have carpal tunnel syndrome? JAMA. 2000;283:3110–3117. JAMA
  18. American Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS). Management of Carpal Tunnel Syndrome: Clinical Practice Guideline. 2024 update. AAOS
  19. AANEM/AAN/AAPMR. Practice parameter for electrodiagnostic studies in carpal tunnel syndrome. Muscle Nerve. 2002;25:918–922. PubMed
  20. Callaghan BC, et al. The Evaluation of Distal Symmetric Polyneuropathy. Arch Neurol. 2012;69:1410–1417. JAMA Neurol
  21. 追加参考:Lancet Neurol/Brain/Nature Reviews Neurologyの総説(小径線維ニューロパチー・頸髄症の最新知見)およびBMJ Open QualityのCES経路整備報告。