糖尿病|診断基準・HbA1c目標・合併症別治療(SGLT2/GLP‑1)と脳・心・腎を守る実践

糖尿病外来:神経内科専門医/総合内科専門医の院長が、脳・心臓・腎臓まで見据えた全身のリスク管理を行い、生活習慣の最適化+個別化した薬物療法脳卒中、認知症、心血管病、腎不全のリスクの低減を目指します。治療は日本糖尿病学会(JDS)『糖尿病診療ガイドライン2024』HbA1c目標(<6.0/<7.0/<8.0)高齢者のカテゴリー別目標を基本に、米国糖尿病学会(ADA)2025の要点も踏まえて進めます。[1][17]

詳しく見る

糖尿病外来では、JDS 2024の目標設定を基盤に、体重・食事・運動・睡眠の最適化と、メトホルミン/SGLT2阻害薬/GLP‑1受容体作動薬/DPP‑4阻害薬/インスリンなどを個別に組み合わせます(※GLP‑1受容体作動薬とDPP‑4阻害薬の併用は推奨されません)。[20]

とくに動脈硬化性心血管疾患(ASCVD:心筋梗塞・狭心症・脳卒中など)・心不全・慢性腎臓病(CKD)がある/リスクが高い方では、SGLT2阻害薬・GLP‑1受容体作動薬を優先してイベント抑制を図ります(ADA 2025)。二次性の要因(甲状腺・薬剤など)も適宜評価します。[17]

受診のきっかけ:健診で血糖・HbA1c高め口渇・多尿・体重減少・倦怠感がある/アルブミン尿・腎機能低下を指摘/低血糖や副作用が心配/GLP‑1・SGLT2薬の検討をしたい/脂質・血圧も合わせて見直したい──まずはご相談ください。

併存する高血圧・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群・肥満症も含めて、将来のリスクまで見据えた総合管理を行います。

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科は吉祥寺駅徒歩1分

東京都武蔵野市はもちろん三鷹・杉並区などからも通院しやすい環境です。

目次

糖尿病の診断基準と評価のポイント

HbA1cとは、過去2~3か月の平均的な血糖状態を示す数値です。食事直後でも大きく変動しないため、日常のコントロールを俯瞰できます。
診断の目安(ADA 2025)では、次のうちいずれかで糖尿病と診断します:[4]
HbA1c≧6.5%(標準化された方法で測定)/空腹時血糖≧126mg/dL(8時間以上絶食)/75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200mg/dL随時血糖≧200mg/dL+高血糖症状
明らかな高血糖を除き、別日に再検して確定します。貧血や溶血、ヘモグロビン異常があるとHbA1cがずれるので、その場合は空腹時血糖OGTTで評価します。

まとめると:診断はHbA1c/空腹時血糖/OGTT/随時+高血糖症状のいずれかで成立。

糖尿病の主なリスク(脳・心・腎)

糖尿病は血管の内側を傷めやすく、放置すると全身の臓器に影響します。とくに脳(脳卒中)・心臓(心筋梗塞/心不全)・腎臓(腎不全)のリスク管理が重要です。

  • 脳血管:糖尿病は脳卒中の危険を1.5~2倍に高めます。高血圧・脂質異常・喫煙が重なるとさらに上昇します。[5]
  • 心血管薬剤ごとの得意領域が明確になっています。GLP‑1受容体作動薬は大規模試験とメタ解析でMACE(心血管死・心筋梗塞・脳卒中)を低下し、脳卒中低減のシグナルが強い一方、SGLT2阻害薬心不全入院と腎アウトカムの低下で一貫した利益が示されています(MACEは試験により一貫しない)。[7][8][15][6][9][10][17]
  • 腎臓アルブミン尿eGFR(推算糸球体濾過量)低下SGLT2阻害薬は腎機能の悪化と心血管死の抑制に有効です。[9][10]
  • 神経・足:末梢神経障害や足潰瘍の原因に。年1回はモノフィラメント検査などでチェックを。[11]
  • :網膜症の原因に。2型は診断時に眼科受診、以降は年1回(安定時は1~2年ごと)。[11]
まとめると:放置はサイレントに進行SGLT2/GLP‑1などの活用で心腎・脳血管リスクを減らします。

糖尿病による脳卒中・認知症リスクと対策

高血糖が続くと血管が傷み、脳梗塞などのリスクが上がります。また、糖尿病は認知症の発症とも関連します。

  • 発症リスク:糖尿病は脳卒中を1.5~2倍に上げます(女性の相対リスクがやや高い報告も)。[5]
  • 再発予防(脳梗塞/TIAの既往):血圧・脂質・血糖三本柱で総合管理します。米国心臓協会/脳卒中協会のガイドラインでも推奨されています。[12]
  • 認知症との関係:糖尿病は全認知症で約1.5倍血管性認知症では2倍超に関連。さらに、重い低血糖は後の認知症リスク上昇と関連します。[13][14]
  • 実践ポイント血圧はできれば<130/80mmHgLDLコレステロールは十分に低下禁煙・運動・睡眠・口腔ケアを継続。GLP‑1受容体作動薬はMACE低下に加え、脳卒中低減の示唆があります。[17][8][15]
  • 高齢者の考え方:高血糖も低血糖も脳に不利。認知症予防のみを目的とした過度の厳格管理は推奨されません。まず低血糖を避けることを優先し、総合的な血管リスク対策を行います。[2]
まとめると:血圧・脂質・血糖の三本柱生活習慣の徹底。GLP‑1/SGLT2は脳心腎イベント低減に有効です。

糖尿病の治療目標(HbA1c)(若年者・高齢者:日本糖尿病学会(JDS)2024に準拠)

<若年者(成人)のHbA1c目標(日本糖尿病学会(JDS)2024)>
対象(若年者・成人)HbA1c目標対応目安血糖
血糖正常化を目指す場合 <6.0% 空腹時<110mg/dL/食後2時間<140mg/dL
合併症予防(標準) <7.0% 空腹時<130mg/dL/食後2時間<180mg/dL
治療強化が困難(高齢・併存症・低血糖の心配など) <8.0%
若年者の目標は日本糖尿病学会(JDS)『糖尿病診療ガイドライン2024』の「治療目標」に基づきます。[1]
<高齢者(65歳以上)のHbA1c目標(日本糖尿病学会(JDS)2024)>
薬剤(重い低血糖のリスク)カテゴリーカテゴリーの意味(要約)年齢HbA1c目標(範囲/下限)
なし I 認知機能正常ADL自立 <7.0%(下限なし)
II MCIまたはIADL低下基本ADLは自立 <7.0%(下限なし)
III 中等度以上の認知症基本ADL低下など <8.0%(下限なし)
あり
(インスリン/SU/グリニド系など)
I 認知機能正常・ADL自立 65–74歳 <7.5%下限6.5%
I 認知機能正常・ADL自立 75歳以上 <8.0%下限7.0%
II MCIまたはIADL低下(基本ADL自立 <8.0%下限7.0%
III 中等度以上の認知症/基本ADL低下・多併存 <8.5%下限7.5%
高齢者は低血糖回避を重視。カテゴリーと下限はJDS 2024「高齢者」の章に基づきます。[2]
まとめると:若年〜中年は<7.0%が基本、可能なら<6.0%。高齢者は認知機能/ADL/薬の低血糖リスク範囲と下限を決めます。

1)糖尿病治療のための生活習慣:体重・食事・運動・睡眠

生活習慣の改善はすべての治療の土台です。薬を使う場合でも、生活を整えると少ない量で効果が出やすくなります。

  • 体重:まずは3~7%の減量を目標に。可能なら10~15%で大きな改善が期待できます(維持も重要)。[16]
  • 食事野菜・豆・魚・全粒穀物を増やし、砂糖・精製穀物・加工食品は控えめに。ご飯やパンの量は腹八分を目安に。[16]
  • 運動有酸素150分/週(速歩など)+筋トレ(週2~3回)。続けられる強度でOKです。[16]
  • 睡眠・口腔:短すぎる/不規則な睡眠や歯周病は血糖に悪影響。睡眠衛生歯科ケアも大切です。[16]
まとめると:食・動・眠・歯を整えることが薬の効き長期アウトカムを底上げします。

)糖尿病の薬物療法:合併症とHbA1cから選ぶ

薬は合併症リスクHbA1cの状況で選びます。効き方や副作用、体重への影響、費用も一緒に検討し、安全第一で進めます。

  • ASCVD既往/高リスクGLP‑1受容体作動薬(リラグルチド/セマグルチド等)またはSGLT2阻害薬優先GLP‑1RAはMACE(とくに脳卒中)低下SGLT2阻害薬は心不全/腎アウトカム低下が堅固です。[7][8][15][6][17]
  • 心不全SGLT2阻害薬が推奨(HFrEF/HFpEF)。心不全入院および心血管死の複合エンドポイント低下が示されています。[17]
  • 慢性腎臓病(CKD)SGLT2阻害薬eGFRが許す範囲(開始目安:eGFR≧20)で導入し、血糖降下が弱まるeGFR域でも心腎保護は持続します。必要に応じてGLP‑1受容体作動薬を追加(FLOW試験で腎主要転帰と心血管死の低下が示唆)。[18][19]
  • アルブミン尿を伴うCKDでACEi/ARB下でも残余リスクフィネレノン(選択的非ステロイド性MR拮抗薬)を検討。心腎アウトカムの改善エビデンス。[22][23]
  • 注射薬の順番:明らかなインスリン不足がなければ、インスリンの前にGLP‑1受容体作動薬を検討。体重増加や低血糖が少ない点も利点です。[20][17]
  • 併用の注意GLP‑1受容体作動薬とDPP‑4阻害薬の併用は推奨されません(機序重複で追加効果乏しい)。[20]
  • 周術期:予定手術前はSGLT2阻害薬を3–4日前に中止し、術後は全身状態・栄養・腎機能を確認して再開します(正血糖性DKA予防)。[21]
  • 眼に関する注意セマグルチドは開始早期に網膜症悪化のシグナルが報告(SUSTAIN‑6)。既存網膜症がある方は眼科フォローを強化。[8]
  • 安全性の一例SGLT2阻害薬で生殖器真菌感染・脱水・稀に会陰部壊死性筋膜炎など、GLP‑1RAで消化器症状等。低血糖リスクの高い薬(SU/グリニド/インスリン)使用時は目標を慎重に。[20]
  • 並行管理スタチンACE阻害薬/ARBなど心腎保護薬も併用し、血圧<130/80mmHgとLDL低下を一緒に目指します。[17]
まとめると:合併症プロファイルに合わせてGLP‑1(MACE/脳卒中)SGLT2(心不全/腎)を軸に。血圧・脂質薬も同時最適化します。

糖尿病改善のための食事例(和食ベース)

和食の形を活かし、主食:主菜:副菜=3:1:2を意識すると整えやすくなります。

  • 主菜:魚(サバ・サケ・イワシ等)や鶏むね中心。加工肉・揚げ物は回数を減らす。
  • 副菜:野菜・海藻・きのこを毎食。汁物に具を多くして満足感を高める。
  • 主食全粒や雑穀を活用。夜は量を控えめに。
  • 間食:果物は小分け、無塩ナッツ・ヨーグルトへ置き換え。
  • 外食:丼は小盛+汁物/サラダ。麺は野菜トッピング+ご飯は少なめ。
まとめると:全粒×魚×野菜を増やし、砂糖・精製穀物・揚げ物は控えめに──これが血糖・体重に効きます。

よくある質問(FAQ)

Q1.糖尿病の診断は何で決まりますか?

A:HbA1c≧6.5%、空腹時≧126mg/dL、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間≧200mg/dL、または随時≧200mg/dL+症状のいずれか(原則、別日に再確認)です。[4]

Q2.HbA1cの目標はどれくらい?高齢者は?

A:日本糖尿病学会(JDS)2024では、<7.0%(標準)、<6.0%(正常化を目指す場合;対応目安は空腹時<110/食後2時間<140)、<8.0%(治療強化が難しい場合)。65歳以上はカテゴリー(I/II/III)とADL/IADL・認知機能、および低血糖リスク薬の有無目標範囲と下限を決めます(上の表をご覧ください)。[1][2]

Q3.糖尿病だと脳卒中はどのくらい増えますか?

A:およそ1.5~2倍です。再発予防は血圧・脂質・血糖の総合管理が柱です。[5][12]

Q4.糖尿病だと認知症のリスクはどの程度上がりますか?

A:メタ解析では、糖尿病は全認知症で約1.5倍血管性認知症では2倍超に関連します。さらに重い低血糖の既往はその後の認知症リスク上昇と関連します。[13][14]

Q5.厳しく下げれば認知症は減りますか?

A:低血糖を避けることが重要です。厳格化だけで認知機能低下を防げるという明確な証拠は限定的で、高齢者では安全第一の目標が勧められます。[2][13][14]

Q6.手術のとき、SGLT2阻害薬はどうしますか?

A:予定手術の3–4日前に中止し、術後は栄養状態・脱水・腎機能・感染の有無を確認して再開します(正血糖性DKAの予防)。[21]

Q7.GLP‑1受容体作動薬とDPP‑4阻害薬は一緒に使いますか?

A:原則併用しません。作用機序が重複し、追加効果が乏しいためです。[20]

Q8.セマグルチドで網膜症が悪化するって本当?

A:セマグルチド開始初期に網膜症悪化のシグナルが報告されています(SUSTAIN‑6)。既存網膜症の方は眼科フォローを強化します。[8]

この記事の監修者

大崎 雅央(Masao Osaki)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
日本神経学会 神経内科専門医・指導医/日本内科学会 総合内科専門医

最終更新:

院長の詳しい紹介はこちら

参考文献

参考文献を開く/閉じる
  • [1] Japan Diabetes Society (JDS). Clinical Practice Guideline for Diabetes 2024 – Chapter 2: Treatment goals. 2024. PDF: Link
  • [2] JDS. Guideline 2024 – Chapter 19: Older adults. 2024. PDF: Link
  • [3] American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2025 (portal). ADA
  • [4] ADA. Diagnosis and Classification of Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025. Article
  • [5] Mosenzon O, et al. Diabetes and Stroke. J Stroke. 2023;25(1):26–38. PMC: PMC9911852
  • [6] Zinman B, et al. Empagliflozin and CV Outcomes. NEJM. 2015. PubMed
  • [7] Marso SP, et al. LEADER. NEJM. 2016. PubMed
  • [8] Marso SP, et al. SUSTAIN‑6. NEJM. 2016. PubMed
  • [9] Heerspink HJL, et al. DAPA‑CKD. NEJM. 2020. Article
  • [10] EMPA‑KIDNEY Group. Empagliflozin in CKD. NEJM. 2023. Article
  • [11] ADA. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care—2025. Diabetes Care. 2025. Article
  • [12] Kleindorfer DO, et al. 2021 Guideline for Prevention of Stroke in Stroke/TIA. Stroke. 2021. PubMed
  • [13] Chatterjee S, et al. T2D and Dementia: Meta‑analysis. Diabetes Care. 2016. PubMed
  • [14] Whitmer RA, et al. Severe Hypoglycemia and Dementia. JAMA. 2009. Article
  • [15] Sattar N, et al. GLP‑1 RA: CV/Renal Outcomes. Lancet Diabetes Endocrinol. 2021. PubMed
  • [16] ADA. Facilitating Positive Health Behaviors—2025. Diabetes Care. 2025. Article
  • [17] ADA. Cardiovascular Risk Management—2025. Diabetes Care. 2025. PubMed
  • [18] ADA. Chronic Kidney Disease and Risk Management—2025. Diabetes Care. 2025. Article
  • [19] Mann JFE, et al. Semaglutide in Chronic Kidney Disease (FLOW). NEJM. 2024. NEJM
  • [20] ADA. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment—2025. Diabetes Care. 2025. Supplement
  • [21] ADA. Diabetes Care in the Hospital—2025(周術期管理を含む). Diabetes Care. 2025. Supplement
  • [22] Bakris GL, et al. FIDELIO‑DKD. NEJM. 2020. Article
  • [23] Pitt B, et al. FIGARO‑DKD. NEJM. 2021. Article