糖尿病について(脳・心・腎を守るために)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科は吉祥寺駅公園口 徒歩1分。糖尿病(主に2型糖尿病)を、脳卒中・認知症・心血管病・腎不全のリスクを下げる視点で診療します。神経内科専門医/総合内科専門医の院長が、日本糖尿病学会(JDS)『糖尿病診療ガイドライン2024』のHbA1c目標(<6.0/<7.0/<8.0)と高齢者のカテゴリー別目標を基本に、血糖・血圧・脂質を総合的に最適化。薬の選択では米国糖尿病学会(ADA)2025年版の要点も参考にします。[1][2][3]
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診断基準と評価のポイント
HbA1cとは、過去2~3か月の平均的な血糖状態を示す数値です。食事直後でも大きく変動しないため、日常のコントロールを俯瞰できます。
診断の目安(ADA 2025)では、次のうちいずれかで糖尿病と診断します:[4]
・HbA1c≧6.5%(標準化された方法で測定)/空腹時血糖≧126mg/dL(8時間以上絶食)/75gOGTT 2時間値≧200mg/dL/随時血糖≧200mg/dL+高血糖症状。
明らかな高血糖を除き、別日に再検して確定します。貧血や溶血、ヘモグロビン異常があるとHbA1cがずれるので、その場合は空腹時血糖やOGTTで評価します。
糖尿病の主なリスク(脳・心・腎)
糖尿病は血管の内側を傷めやすく、放置すると全身の臓器に影響します。とくに脳(脳卒中)・心臓(心筋梗塞)・腎臓(腎不全)のリスク管理が重要です。
- 脳血管:糖尿病は脳卒中の危険を1.5~2倍に高めます。高血圧・脂質異常・喫煙が重なるとさらに上昇します。[5]
- 心血管:動脈硬化が進みやすくなります。大規模試験で、SGLT2阻害薬やGLP‑1受容体作動薬により主要心血管イベント(MACE)が減ることが示されています。[6][7][8]
- 腎臓:アルブミン尿やeGFR低下(腎機能低下)。SGLT2阻害薬は腎機能の悪化と心血管死の抑制に有効です。[9][10]
- 神経・足:末梢神経障害や足潰瘍の原因に。年1回はモノフィラメント検査などでチェックを。[11]
- 眼:網膜症の原因に。2型は診断時に眼科受診、以降は年1回(安定時は1~2年ごと)。[11]
糖尿病による脳卒中・認知症リスクと対策
高血糖が続くと血管が傷み、脳梗塞などのリスクが上がります。また、糖尿病は認知症の発症とも関連します。
- 発症リスク:糖尿病は脳卒中を1.5~2倍に上げます(女性の相対リスクがやや高い報告も)。[5]
- 再発予防(脳梗塞/TIAの既往):血圧・脂質・血糖の三本柱で総合管理します。米国心臓協会/脳卒中協会のガイドラインでも推奨されています。[12]
- 認知症との関係:糖尿病は全認知症で約1.5倍、血管性認知症では2倍超に関連。さらに、重い低血糖は後の認知症リスク上昇と関連します。[13][14]
- 実践ポイント:血圧はできれば<130/80mmHg、LDLコレステロールは十分に低下、禁煙・運動・睡眠・口腔ケアを継続。GLP‑1受容体作動薬はMACE低下に加え、脳卒中低減の示唆があります。[17][8][15]
- 高齢者の考え方:高血糖も低血糖も脳に不利。認知症予防のみを目的とした過度の厳格管理は推奨されません。まず低血糖を避けることを優先し、総合的な血管リスク対策を行います。[2]
治療(生活+薬:合併症別に最適化)
目標は合併症を減らし、健康寿命を延ばすことです。以下の順で説明します:「HbA1cの目標」「生活習慣」「薬の選び方」。
HbA1c目標(若年者・高齢者:JDS 2024に準拠)
<若年者(成人)のHbA1c目標(JDS 2024)> | ||
---|---|---|
対象(若年者・成人) | HbA1c目標 | 対応目安血糖 |
血糖正常化を目指す場合 | <6.0% | 空腹時<130mg/dL/食後2時間<180mg/dL |
合併症予防(標準) | <7.0% | 空腹時<130mg/dL/食後2時間<180mg/dL |
治療強化が困難(高齢・併存症・低血糖の心配など) | <8.0% | ― |
<高齢者(65歳以上)のHbA1c目標(JDS 2024)> | ||||
---|---|---|---|---|
薬剤(重い低血糖のリスク) | カテゴリー | カテゴリーの意味(要約) | 年齢 | HbA1c目標(範囲/下限) |
なし | I | 認知機能正常・ADL自立 | ― | <7.0%(下限なし) |
II | MCIやIADL低下(基本ADLは自立) | ― | <7.0%(下限なし) | |
III | 中等度以上の認知症/基本ADL低下など | ― | <8.0%(下限なし) | |
あり (インスリン/SU/一部グリニド等) |
I | 認知機能正常・ADL自立 | 65–74歳 | <7.5%(下限6.5%) |
I | 認知機能正常・ADL自立 | 75歳以上 | <8.0%(下限7.0%) | |
II | MCIまたはIADL低下(基本ADL自立) | ― | <8.0%(下限7.0%) | |
III | 中等度以上の認知症/基本ADL低下・多併存 | ― | <8.5%(下限7.5%) |
ポイントのまとめ:若年~中年は合併症予防として<7.0%が基本。安全に達成できる場合は<6.0%を目指します。治療の負担が大きいときは<8.0%へ緩和。高齢者は、認知機能や日常生活(ADL)、そして低血糖を起こしやすい薬の有無で目標範囲と下限を調整します。
1)生活習慣:体重・食事・運動・睡眠
生活習慣の改善はすべての治療の土台です。薬を使う場合でも、生活を整えると少ない量で効果が出やすくなります。
- 体重:まずは3~7%の減量を目標に。可能なら10~15%で大きな改善が期待できます(維持も重要)。[16]
- 食事:野菜・豆・魚・全粒穀物を増やし、砂糖・精製穀物・加工食品は控えめに。ご飯やパンの量は腹八分を目安に。[16]
- 運動:有酸素150分/週(速歩など)+筋トレ(週2~3回)。続けられる強度でOKです。[16]
- 睡眠・口腔:短すぎる/不規則な睡眠や歯周病は血糖に悪影響。睡眠衛生と歯科ケアも大切です。[16]
2)薬物療法:合併症とHbA1cから選ぶ
薬は合併症リスクとHbA1cの状況で選びます。効き方や副作用、体重への影響、費用も一緒に検討し、安全第一で進めます。
- ASCVD(心筋梗塞・脳卒中など)の既往/高リスク:GLP‑1受容体作動薬(リラグルチド/セマグルチド等)またはSGLT2阻害薬を優先。心血管イベントを減らします。[7][8][6]
- 心不全:SGLT2阻害薬が推奨(HFpEF/HFrEFで予後改善のエビデンス)。[17]
- 慢性腎臓病(CKD):SGLT2阻害薬をeGFRが許す範囲で導入し、必要に応じてGLP‑1受容体作動薬を追加。腎機能悪化と心血管死を抑制します。[9][10][18]
- 注射薬の順番:明らかなインスリン不足がなければ、インスリンの前にGLP‑1受容体作動薬を検討。体重増加や低血糖が少ない点も利点です。[17]
- 並行管理:スタチン、ACE阻害薬/ARBなど心腎保護薬も併用し、血圧<130/80mmHgとLDL低下を一緒に目指します。[17]
再診・フォロー(検査間隔)
治療は継続が鍵です。変化を感じたら早めにご相談ください。
- HbA1c:目標に達していれば年2回、調整中は約3か月ごと。[1]
- 腎機能:eGFRと尿アルブミン/Cr比を少なくとも年1回(CKDでは頻回)。[18]
- 眼:2型は診断時に眼科受診、その後年1回(安定時は1~2年ごと)。[11]
- 足:年1回、しびれ・傷・靴擦れをチェック(10gモノフィラメント等)。[11]
食事例(和食ベース)
和食の形を活かし、主食:主菜:副菜=3:1:2を意識すると整えやすくなります。
- 主菜:魚(サバ・サケ・イワシ等)や鶏むね中心。加工肉・揚げ物は回数を減らす。
- 副菜:野菜・海藻・きのこを毎食。汁物に具を多くして満足感を高める。
- 主食:全粒や雑穀を活用。夜は量を控えめに。
- 間食:果物は小分け、無塩ナッツ・ヨーグルトへ置き換え。
- 外食:丼は小盛+汁物/サラダ。麺は野菜トッピング+ご飯は少なめ。
よくある質問(FAQ)
Q1.糖尿病の診断は何で決まりますか?
A:HbA1c≧6.5%、空腹時≧126mg/dL、75gOGTT2時間≧200mg/dL、または随時≧200mg/dL+症状のいずれか(原則、別日に再確認)です。[4]
参考文献
- [1] 日本糖尿病学会(JDS). 糖尿病診療ガイドライン2024:2章 糖尿病治療の目標と指針. 2024. PDF
- [2] 日本糖尿病学会(JDS). 糖尿病診療ガイドライン2024:19章 高齢者の糖尿病(認知症を含む). 2024. PDF
- [3] American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2025(総合ポータル). ADA
- [4] ADA. Diagnosis and Classification of Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025. Article
- [5] Mosenzon O, et al. Diabetes and Stroke. Cardiovasc Diabetol. 2023. PMC
- [6] Zinman B, et al. EMPA‑REG OUTCOME(エンパグリフロジン). N Engl J Med. 2015. NEJM
- [7] Marso SP, et al. LEADER(リラグルチド). N Engl J Med. 2016. PubMed
- [8] Marso SP, et al. SUSTAIN‑6(セマグルチド). N Engl J Med. 2016. NEJM
- [9] Heerspink HJL, et al. DAPA‑CKD(ダパグリフロジン). N Engl J Med. 2020. NEJM
- [10] EMPA‑KIDNEY Collaborative Group. EMPA‑KIDNEY(エンパグリフロジン). N Engl J Med. 2023. NEJM
- [11] ADA. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care—2025. Diabetes Care. 2025. Article
- [12] Kleindorfer DO, et al. 2021 Guideline for the Prevention of Stroke in Patients With Stroke and TIA. Stroke. 2021. PubMed
- [13] Chatterjee S, et al. 2型糖尿病と認知症リスク(メタ解析). Diabetes Care. 2016. PubMed
- [14] Whitmer RA, et al. 重度低血糖と認知症. JAMA. 2009. JAMA
- [15] Sattar N, et al. GLP‑1受容体作動薬の心腎アウトカム(メタ解析). Lancet Diabetes Endocrinol. 2021. PubMed
- [16] ADA. Facilitating Positive Health Behaviors—2025. Diabetes Care. 2025. Article
- [17] ADA. Cardiovascular Disease and Risk Management—2025. Diabetes Care. 2025. PubMed
- [18] ADA. Chronic Kidney Disease and Risk Management—2025. Diabetes Care. 2025. Article