脂質異常症|診断基準・LDL目標・治療(生活習慣+薬)(脳卒中・認知症リスク低減のために)
脂質異常症外来:神経内科専門医/総合内科専門医の院長が、脳・心臓・血管まで見据えた全身のリスク管理を行い、生活習慣の最適化+個別化した脂質低下療法で脳卒中・認知症・心筋梗塞のリスク低減を目指します。[1][2]
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脂質異常症外来では、健診で指摘されたLDL・HDL・中性脂肪や動脈硬化リスクを全身から評価。
管理はJAS 2022・ESC/EAS 2019に準拠してLDL‑C中心に目標設定し、必要に応じてnon‑HDL・ApoB・Lp(a)も確認。生活習慣の最適化+スタチン/エゼチミブ/PCSK9阻害薬などを段階的にご提案します。[1][2]
受診のきっかけ:LDL高値/TG高値/HDL低値/家族性高コレステロール血症の疑い/脳梗塞・心筋梗塞の既往/目標未達/副作用が心配──まずはご相談ください。
高血圧・糖尿病・CKD・喫煙などの危険因子も併せて管理し、将来リスクまで見据えます。
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科は吉祥寺駅(公園口)徒歩1分。
東京都武蔵野市はもちろん三鷹・杉並区からも通院しやすい環境です。
目次
脂質異常症とは
脂質異常症とは、血液中の脂質(LDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪)のバランスが崩れている状態です。とくにLDLコレステロールが高いと動脈が狭くなりやすく、脳梗塞や心筋梗塞につながり、その結果認知機能の低下も起こりやすくなることが示唆されています。[3]
診断基準と評価のポイント
日常診療では次を目安に診断します(JAS 2022)。[1]
※非空腹時の採血でも評価は可能ですが、中性脂肪は空腹時のほうが正確です。中性脂肪が400mg/dL以上のときや食後採血では、non‑HDLコレステロール(詰まりやすいコレステロールの合計)を使います。[1]
脂質異常症のタイプ | 判定基準(成人) |
---|---|
高LDLコレステロール血症 | LDLコレステロールが140mg/dL以上 |
低HDLコレステロール血症 | HDLコレステロールが40mg/dL未満 |
高トリグリセライド(中性脂肪)血症 | 中性脂肪が150mg/dL以上(空腹)または175mg/dL以上(随時) |
LDLコレステロールの目標
・脳梗塞・心筋梗塞など動脈硬化疾患の既往がある方は<100mg/dL、さらに高リスクでは<70mg/dLを目標にします(non‑HDLは目標+30mg/dL)。[1]
・未発症の方は、年齢・合併症・喫煙などの総合リスクに応じて目標設定し、必要に応じて non‑HDL や ApoB も併用します。[2]
脂質異常症の主なリスク
脂質異常症は多くが自覚症状なしで進みますが、放置すると次のリスクが上がります。
- 虚血性脳卒中(動脈のコレステロールのかたまりが原因の脳梗塞)が起こりやすくなります。
- 認知機能低下・認知症の可能性が高まります(2024年Lancet Commissionは高LDLコレステロールを新しい「対策可能な危険因子」に追加)。[3]
- 冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)。
- 末梢動脈疾患、中性脂肪が極端に高いと急性膵炎のリスク上昇。[4]
LDLコレステロールを1.0mmol/L(約39mg/dL)低下させると、心筋梗塞・脳卒中など主要イベントが約20〜22%減少することが大規模解析で示されています。[5] また、脳梗塞・TIA後はLDL<70mg/dLを目指すほうが再発などの重大イベントが少ないことが示されています(Treat Stroke to Target)。[6]
治療(生活習慣+薬の段階的追加)
1)生活習慣の最適化
- 食事:和食ベースで野菜・海藻・きのこ・豆製品・魚を増やし、揚げ物・加工肉・菓子・バターやラードは控えめに。無作為化試験では、野菜・果物・低脂肪乳製品・全粒穀物・魚・豆を増やし、飽和脂肪と砂糖を減らす食事でLDLが低下。[8]
- 体重管理:少しの減量でも、LDLと中性脂肪は下がりやすく。
- 運動:中等度の有酸素運動を週150分(可能なら筋トレも)。
- 飲酒:中性脂肪が高い場合は減酒〜禁酒を検討。
- 二次性の原因チェック:甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、糖尿病、薬(ステロイド等)を確認。[1]
2)薬物療法(必要に応じて追加)
- スタチン:LDL低下の基本薬。必要な低下量に応じて強度を選び、未達なら増量や追加薬。[5]
- エゼチミブ:スタチンに追加してLDLをさらに下げ、イベント減少を示す。[9]
- PCSK9阻害薬(例:エボロクマブ):強力にLDLを下げ、主要イベントを減少。[10]
- 中性脂肪が高い場合:まずLDL管理を優先。TG≧500mg/dLでは膵炎予防で食事・禁酒+フィブラート/高用量EPA等を検討。EPA製剤はイベント減少(REDUCE‑IT)、一方EPA+DHA配合は陰性(STRENGTH)。[4][11][12]
再診・フォロー
- 検査の間隔:開始・用量変更後は数週間〜数か月で再検、その後は定期的に確認(治療強度と目標達成度で調整)。[2]
- 肝機能:スタチン開始前にALT等を確認、以後は臨床的に必要時に測定。[2]
- 筋症状:筋肉痛・脱力があればCKを測定。重い筋障害はまれで、全体として利益が上回る。[5]
- スタチン不耐容:薬の切替・隔日投与・追加療法等で多くは調整可能。[2]
- 妊娠を考えている方:治療計画を個別に相談(原則、妊娠中はスタチンを使用しません)。
食事例(和食ベースの実践ポイント)
- 主菜:魚(サバ・サケ・イワシ等)を週2回以上に。肉は赤身中心、揚げ物は回数を減らす。
- 副菜:野菜・海藻・きのこを毎食。おひたし、酢の物、味噌汁の具などで。
- 豆製品:納豆・豆腐・大豆の煮物を日替わりで。動物性脂肪の置き換えに有効。
- 主食:白米だけでなく、雑穀米・玄米・全粒パンも活用。
- 油:調理油はオリーブ油・菜種油を主体に。使いすぎに注意。
- 間食:菓子・菓子パンは控えめにし、素焼きナッツ・果物(小分け)に置き換え。
- 味つけ:出汁や香味野菜を活用し、塩分・砂糖・マヨネーズは控えめに。
1日の例:
朝:雑穀ごはん・納豆・味噌汁(豆腐/わかめ)・青菜のおひたし/昼:全粒パン・サバ缶トマト煮・サラダ・ヨーグルト/夜:焼き魚・冷ややっこ・野菜たっぷりの汁物・きのこの和え物。
※野菜・果物・低脂肪乳製品・全粒穀物・魚・豆を増やし、飽和脂肪と砂糖を控える食事でLDLが低下します。[8]
よくある質問(FAQ)
Q1.LDLコレステロールはどこまで下げるべきですか?
A:既往ありは<100mg/dL、高リスクでは<70mg/dLを目標。未発症は総合リスクで設定し、non‑HDLやApoBも参考にします。[1][2]
Q2.LDLを下げすぎても大丈夫ですか?(脳出血リスクは?)
A:総合的には極めて低いLDLまで下げても安全性上の大きな問題は示されていません(PCSK9阻害薬やスタチン+エゼチミブの試験で出血性脳卒中の増加は示されず)。[10][19][5] 一方、脳梗塞/TIA既往に高用量スタチン単剤の特定試験(SPARCL)では出血性脳卒中が増加。ただし虚血性イベント抑制の利益が上回ると評価されています。[18]
Q3.脳卒中予防でのLDLの目安はどの程度ですか?
A:脳梗塞/TIA既往ではLDL<70mg/dLが有利(Treat Stroke to Target)。未発症でもLDL低下療法で虚血性脳卒中を含むイベントが減ります。[6][5][20][21]
Q4.認知症リスク低減のためのLDLの目安はどの程度ですか?
A:認知症だけを目的にした明確な目標は未確立ですが、2024年Lancet Commissionは高LDLを対策可能な危険因子に追加。心血管予防に準拠した厳しめの管理が合理的です。[3][2]
Q5.HDL(善玉)が高ければLDL(悪玉)が高くても大丈夫ですか?
A:いいえ。LDLは原因因子で、下げるほどイベントが減ることが一貫。HDLだけを上げる薬はイベント減少につながらず。[5][13][14]
Q6.ApoBとLp(a)は検査する意味がありますか?
A:ApoBは悪玉を運ぶ粒の数、Lp(a)は体質で高くなるLDL様粒子。ApoBは糖尿病・高TG例で有用、Lp(a)高値はまずLDLを十分に下げるのが基本です。[2][7]
Q7.魚油サプリは有効ですか?
A:製剤と用量で結果が異なります。イコサペント酸エチル(EPA)は中性脂肪高値かつ高リスクでイベント減少(REDUCE‑IT)。一方、EPA+DHA配合は陰性(STRENGTH)。まずは食事改善とLDL管理を優先。[11][12][4]
Q8.中性脂肪がとても高い。受診の目安はどの程度ですか?
A:TG≧500mg/dLは膵炎に注意、≧1000mg/dLは緊急対応が必要なことがあります。禁酒・食事調整・原因チェックに加え、薬物療法を検討します。[4]
参考文献
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- [1] Japan Atherosclerosis Society (JAS) 2022. Guidelines for Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Diseases. J Atheroscler Thromb. 2024. J‑STAGE
- [2] Mach F, et al. 2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias. Eur Heart J. 2020;41(1):111‑188. PubMed: 31504418
- [3] Livingston G, et al. Dementia prevention: 2024 report of the Lancet Standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572‑628. PubMed: 39096926
- [4] Virani SS, et al. ACC ECDP on Persistent Hypertriglyceridemia. JACC. 2021. PubMed: 34332805
- [5] CTT Collaboration. Intensive LDL lowering: meta‑analysis of 26 RCTs. Lancet. 2010;376:1670‑1681. PubMed: 21067804
- [6] Amarenco P, et al. Treat Stroke to Target. NEJM. 2020;382:9‑19. PubMed: 31738483
- [7] Kronenberg F, et al. EAS Consensus on Lipoprotein(a). Eur Heart J. 2022. PubMed: 36036785
- [8] Appel LJ, et al. OmniHeart randomized trial. JAMA. 2005;294:2455‑2464. PubMed: 16287956
- [9] Cannon CP, et al. IMPROVE‑IT. NEJM. 2015. PubMed: 26039521
- [10] Sabatine MS, et al. FOURIER(evolocumab). NEJM. 2017. PubMed: 28304224
- [11] Bhatt DL, et al. REDUCE‑IT(icosapent ethyl). NEJM. 2019. PubMed: 30415628
- [12] Nicholls SJ, et al. STRENGTH. JAMA. 2020. PubMed: 33190147
- [13] HPS2‑THRIVE. NEJM. 2014;371:203‑212. PubMed: 25014686
- [14] Voight BF, et al. HDL and MI risk: Mendelian randomization. NEJM. 2012. PubMed: 22607179
- [15] Giral P, et al. Discontinuing statins at 75. Eur Heart J. 2019. PubMed: 31410852
- [16] Ford I, et al. WOSCOPS 20‑year follow‑up. Circulation. 2016. PubMed: 27881565
- [17] Yourman LC, et al. Time to benefit of statins. JAMA Intern Med. 2021. PubMed: 33196766
- [18] Amarenco P, et al. SPARCL. NEJM. 2006. PubMed: 16899775
- [19] Schwartz GG, et al. ODYSSEY OUTCOMES(alirocumab). NEJM. 2018. PubMed: 30403574
- [20] Ridker PM, et al. JUPITER. NEJM. 2008. PubMed: 18997196
- [21] Yusuf S, et al. HOPE‑3. NEJM. 2016. PubMed: 27040132