高血圧症|基準・治療目標と対策(生活習慣+薬物療法)・家庭血圧の測り方
高血圧の診断の目安は診察室 140/90・家庭 135/85、治療の目標は130/80(家庭 125/75)未満です。
慢性的な軽〜中等度の高血圧は頭痛の主因でないことが多い一方、180/120以上などは同日評価が安全です。
家庭では朝・夜 各2回×7日測り平均で判断。生活の見直し+必要なお薬で、脳や心臓のリスクを着実に減らします。
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基準と目標:診断の目安は診察室 140/90 以上・家庭 135/85 以上、治療の目標は130/80 未満(家庭 125/75 未満)です。
白衣・仮面高血圧:病院と家庭で値が異なることがあります。朝夕 各2回×7日測って平均を出すと正確です。必要に応じて24時間測定(ABPM)も行います。
高血圧の治療:減塩(5〜6g/日)・運動(1日30分)・体重管理・飲酒の調整・禁煙を土台に、Ca拮抗薬/ARB・ACE/利尿薬などを体質・持病に合わせて少量から段階的に組み合わせます。
高血圧と頭痛:慢性的な軽〜中等度の高血圧は主因でないことが多い一方、180/120 以上や妊娠後期の強い頭痛は同日受診をおすすめします。
家庭血圧の測り方:起床後1時間以内と就寝前に各2回、上腕で同じ条件で測定し、初日を除いた7日平均で評価します。
よくある質問:薬はいつまで? 脳卒中・認知症のリスクは? 睡眠時無呼吸との関係は?など、要点を短くまとめています。
目次
- 高血圧の基準と治療で目指す目標値
- 高血圧症の種類と主な原因
- 白衣高血圧・仮面高血圧の考え方
- 主な症状と合併症リスク
- 高血圧と頭痛
- 治療(生活習慣+薬物療法)
- 家庭血圧の測り方
- よくあるご質問(FAQ)
- 参考文献
高血圧の基準と治療で目指す目標値
高血圧症は、血液が血管を流れる際の圧力(血圧)が慢性的に高い状態です。
2025年版 日本高血圧学会ガイドライン(JSH 2025)では、治療目標が原則130/80mmHg 未満(家庭血圧は125/75mmHg 未満)に統一されました[1][2]。
一方、診断の基本は従来どおり、診察室血圧:140/90mmHg 以上、家庭血圧:135/85mmHg 以上です[1]。
つまり「診断の閾値」と「治療で目指す目標値」は異なるため、診察室と家庭の双方で正確に測定し、平均値で評価することが大切です[2]。
高血圧症の種類と主な原因
大きく「本態性(一次性)」と「二次性」に分けられます。
1. 本態性高血圧(約9割)
- 遺伝体質と生活習慣(塩分過多、運動不足、飲酒、喫煙、睡眠不足・ストレス)
- 加齢による血管硬化の進行
2. 二次性高血圧(原因が特定可能)
- 原発性アルドステロン症(ホルモン過剰)
- 腎実質性/腎血管性(腎臓の病気)
- 睡眠時無呼吸症候群
- 薬剤性(NSAIDs、経口避妊薬、ステロイド など)
難治性・若年発症・低カリウム血症・夜間/早朝高血圧などがある場合は、二次性の精査(血液・尿検査、画像検査、睡眠時無呼吸症候群スクリーニングなど)を検討します[1]。
白衣高血圧・仮面高血圧の考え方
診察室と院外(家庭)で血圧が乖離する表現型です。家庭血圧(HBPM)の活用が診断・管理の鍵になります[2][3][4]。
- 定義:
・白衣高血圧(WCH):診察室は高値(例:≥140/90)、家庭は正常(例:<135/85)。
・仮面高血圧(MH):診察室は正常、家庭は高値(例:≥135/85)。[3] - なぜ重要ですか?:仮面高血圧(MH)は持続性高血圧に近い/同等のリスク、白衣高血圧(WCH)は正常より高いが持続性高血圧より低いリスク。[5][6]
- どう確認しますか?:家庭血圧を朝夕各2回×7日以上(初日除外)して平均を計算。必要に応じABPM。[2][3][4]
当院での対応(白衣高血圧(WCH)/仮面高血圧(MH))
- 院外血圧の確認:家庭血圧の測定方法(朝夕各2回×7日以上)をご提案。
- リスク層別化:臓器障害や合併症、動脈硬化リスクに応じて薬物療法の要否を判断[3]。
- 関連疾患評価:睡眠時無呼吸が疑われる場合は自宅睡眠検査→CPAP等を検討。
主な症状と合併症リスク
多くは無症状ですが、未治療だと以下の合併症リスクが上がります。
- 脳血管障害:脳梗塞・脳出血
- 認知機能低下・認知症
- 心疾患:心筋梗塞・心不全・心房細動
- 腎臓:慢性腎臓病(CKD)
- 眼:高血圧性網膜症
血圧を厳格に管理すると主要な心血管イベントや死亡が減ることが示されています[1][7]。
高血圧と頭痛
「血圧が高い=頭痛の原因」とは限りません。慢性の軽〜中等度高血圧では、頭痛と血圧の上がり下がりに明確な時間的関連は乏しいことが、24時間血圧測定(ABPM)を用いた研究で示されています[8]。一方で、降圧薬を用いた多数の無作為化試験の統合解析では、降圧治療により頭痛の発生が有意に減少しました(薬剤クラスを問わず)[9]。
例外的に注意が必要なのは、急激かつ著明な血圧上昇を伴う状況です。国際頭痛分類(ICHD-3)は、収縮期 180mmHg 以上または拡張期 120mmHg 以上に達するような急上昇時に生じ、血圧の正常化で軽快する頭痛を「高血圧に起因する頭痛」として定義しています[10]。英国・アイルランド高血圧学会の危機管理レビューやNICEの推奨でも、180/120mmHg 以上は同日評価が必要な基準とされます[11][17]。
- 受診の目安(レッドフラッグ)
・突然発症(雷鳴様)、神経脱落症状(片麻痺・しびれ・言語障害など)、複視/視力障害、発熱や項部硬直、外傷後、50歳以降の新規頭痛は救急受診を含め評価を推奨[12]。
・妊娠20週以降〜産褥期の強い頭痛(視覚症状を伴うことあり)は子癇前症/子癇のサインになり得ます。至急評価が必要です[13]。
・測定時の血圧が180/120mmHg 以上で進行する激しい頭痛がある場合は、同日評価を推奨します[11][17][12]。 - 救急外来の観察:頭痛で受診した方は高血圧を伴うことが多いものの、頭痛の軽快と血圧低下が必ずしも相関しないことが報告されています(片頭痛試験データの解析)[14]。
当院での対応(頭痛を伴う高血圧)
治療(生活習慣+薬物療法)
1)生活習慣の改善
- 減塩:味つけは薄めに。加工食品(麺類・ハム・漬物など)は塩分が多めです。できれば1日5〜6g未満を目標にしましょう[1]。
- 体重:体重が落ちると血圧は下がりやすくなります。減量は無理のない範囲でコツコツ続けましょう[1]。
- 運動:息が弾む程度のウォーキングなどを1日30分、週合計150分を目安に。続けられる運動ならOKです[1]。
- お酒:毎日飲む方は量を控えると血圧が下がりやすくなります[1]。
- 禁煙:血管を守るためにやめましょう[1]。
- 睡眠:いびき・日中の強い眠気があればご相談ください(睡眠時無呼吸が隠れていることがあります)[1]。
2)薬物療法
生活の工夫だけで目標に届かない場合は薬を使います。体質や持病に合わせて1〜2種類から開始し、必要に応じて組み合わせます[1][2]。
- Ca拮抗薬:血管を広げて下げます。足のむくみに注意[1]。
- ARB/ACE阻害薬:血圧を上げるホルモンの働きを抑えます。腎臓を守る目的で選ぶことがあります。
- サイアザイド系利尿薬:余分な水分と塩分を出して下げます。採血で電解質や尿酸を確認します[1]。
- β遮断薬:心臓の働きをおだやかにします。狭心症や頻脈などに適します[1]。
- MRA(スピロノラクトン等):薬を3種類以上使っても下がりにくい時に特に有効(開始後はカリウムを定期チェック)[15]。
- ARNI(サクビトリル/バルサルタン):主に心不全の治療薬。高血圧単独の第一選択ではありません。ACE阻害薬から切り替える際は36時間空けます[16]。
治療の目標は130/80mmHg 未満(家庭では125/75mmHg 未満)。ふらつきなどの症状が出る場合は、無理のない範囲で目標を調整します[1]。
家庭血圧の測り方
- タイミング:起床後1時間以内(排尿後・服薬前・朝食前)、就寝前に各2回[2]。
- 方法:座位1〜2分安静、上腕カフで左右同条件。2回測り平均[2]。
- 記録:7日以上の平均値で評価(初日の値は除外が推奨)[2]。
- 家庭での目標:125/75mmHg 未満[2]。
- 診断の目安:135/85mmHg 以上は家庭血圧でも高血圧の範囲です[1]。
よくある質問(FAQ)
Q1.血圧が高いことが頭痛の原因になりますか?
A:慢性的な軽〜中等度の高血圧は、頭痛の主因ではないことが多いです。24時間血圧測定(ABPM)を用いた研究では、頭痛の出現と血圧変動に明確な時間的関連が乏しいと報告されています[8]。一方、降圧薬を用いた多数試験の統合解析では、降圧治療により頭痛の頻度が減少する傾向が示されています[9]。
ただし、急激で著明な高血圧(例:収縮期180mmHg以上または拡張期120mmHg以上)は頭痛の原因となり得ます(ICHD‑3の定義)。この場合は血圧の是正で改善し、同日評価が推奨されます。妊娠後期〜産褥期の頭痛は子癇前症/子癇の可能性もあり、至急評価が必要です[10][11][13][17]。
受診の目安:雷鳴様頭痛、神経症状(脱力・しびれ・言語障害等)、視覚症状、外傷後、50歳以降の新規頭痛は救急受診を含め評価を検討してください[12]。
Q2.高血圧の薬は一生飲む必要がありますか?
A:多くの方では長期(しばしば生涯)服薬が必要です。高血圧は慢性疾患で、降圧薬を中止すると再上昇することが一般的です。主要ガイドライン(JSH 2025・ESH 2023・NICE)も、生活習慣の最適化+長期薬物療法を基本戦略としています[1][3][17]。大規模メタ解析では、わずか5mmHgのSBP低下でも主要心血管イベントが約10%減少し、基礎血圧や年齢によらず恩恵が示されます[7]。
ただし、厳密に選んだ一部の高齢者の方では、慎重な減薬(減量)が可能な場合もあります。英国の無作為化試験(OPTIMISE)では、80歳以上で比較的良好にコントロールされた方において、短期(12週間)の減薬でも多くが目標内を維持できました(平均SBPはわずかに上昇)[18]。Cochraneレビューでも、減薬は可能だが血圧上昇や再開の必要性が一定程度みられること、長期アウトカムは不確実と結論づけています[19]。
結論:多くの方は合併症予防のため継続服薬が基本です。
一方、めまい・低血圧症状や体重減少・生活改善で「効きすぎ」が疑われるときは、担当医と相談のうえ減量/減薬の可否を段階的に検討します(自己判断の中止は危険)。
Q3.高血圧は脳血管障害(脳梗塞・脳出血)のリスクをどれくらい上げますか?下げるとどれくらい減りますか?
A:血圧が高いほど脳卒中リスクは段階的に上がり、下げるほど下がります。
- 観察研究:SBP140–159mmHgは<130mmHgに比べ約1.6倍、≥180mmHgでは約2.1倍の脳卒中リスクでした(前向きコホート)[20]。
- 介入試験の統合解析:SBPを10mmHg下げると脳卒中リスクが27%低下[21]。
- 同様に5mmHg低下でも主要心血管イベントは約10%低下し、年齢や基礎血圧に依らず恩恵がみられます[7]。
副作用(ふらつき等)が出ない範囲で、原則130/80mmHg 未満(家庭 125/75mmHg 未満)を目標に、一緒に調整していきます[1][2]。
Q4.高血圧は認知症のリスクを上げますか?血圧を下げると予防できますか?
A:観察研究では高血圧は認知症リスク上昇と関連します。無作為化試験のサブ解析(SPRINT MIND)では、SBP<120mmHgを目指す積極降圧により、軽度認知障害(MCI)およびMCI+認知症の複合が有意に低下しました(認知症単独は有意差に至らず)[22]。さらに、個別患者データのメタ解析では降圧治療により認知症リスクが有意に低下することが示されています(効果は小〜中等度)[23]。脳を守る観点でも、適切な血圧管理が重要です。
Q5.診察室で「130/80mmHg」でした。高血圧ですか?
A:診断は原則診察室で140/90mmHg以上、家庭で135/85mmHg以上が目安です。一方、治療の目標は130/80mmHg未満(家庭は125/75mmHg未満)です。診断に使う数値と、治療で目指す数値は異なります[1][2]。
Q6.薬を3種類使っても下がりにくい時は?
A:MRA(スピロノラクトン等)を追加すると下がりやすいことが分かっています。開始後はカリウム値などを定期的に確認します[15]。
Q7.ARNI(サクビトリル/バルサルタン)は使いますか?
A:主に心不全の治療で使う薬です。高血圧だけの第一選択ではありませんが、心不全がある方で使うと血圧も下がることがあります。ACE阻害薬と一緒には使えず、切り替える時は36時間あけてから開始します[16]。
参考文献
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- [1] Ohya Y, et al. Key highlights of the JSH 2025 Guidelines. Hypertens Res. 2025. PubMed: 40877471
- [2] Ohya Y. JSH 2025 guidelines: new viewpoints. Hypertens Res. 2025. PubMed: 40707654
- [3] Mancia G, et al. 2023 ESH Guidelines for the management of arterial hypertension. J Hypertens. 2023. PubMed: 37345492
- [4] USPSTF. Screening for Hypertension in Adults: Reaffirmation Recommendation Statement. JAMA. 2021. PubMed: 33904861
- [5] Zhang DY, et al. Masked hypertension and cardiovascular risk: comparative meta-analysis. J Hypertens. 2019. PubMed: 31219948
- [6] Cohen JB, et al. Cardiovascular Events and Mortality in White Coat Hypertension. Ann Intern Med. 2019. Link
- [7] BPLTTC. Pharmacological blood pressure lowering across different levels of BP. Lancet. 2021. PubMed: 33933205
- [8] Gus M, et al. Behavior of Ambulatory Blood Pressure Surrounding Episodes of Headache in Mildly Hypertensive Patients. Arch Intern Med. 2001. PubMed: 11176740
- [9] Law M, et al. Headaches and the treatment of blood pressure: meta-analysis of 94 randomized placebo-controlled trials. Circulation. 2005. PubMed: 16216977
- [10] International Headache Society. 10.3 Headache attributed to arterial hypertension(ICHD-3). Web
- [11] Kulkarni S, et al. Management of hypertensive crisis: British and Irish Hypertension Society position document. J Hum Hypertens. 2023. Web
- [12] Godwin SA, et al. Clinical Policy: Critical Issues in the Evaluation and Management of Adult Patients Presenting to the Emergency Department With Acute Headache. Ann Emerg Med. 2019. PubMed: 31543134
- [13] ACOG Practice Bulletin No. 222. Gestational Hypertension and Preeclampsia. Obstet Gynecol. 2020. Web
- [14] Friedman BW, et al. The association between headache and elevated blood pressure among patients presenting to an ED. Am J Emerg Med. 2014. PubMed: 24993684
- [15] Williams B, et al. PATHWAY-2: spironolactone for resistant hypertension. Lancet. 2015. PMC: PMC4655321
- [16] Sauer AJ, et al. Practical guidance on sacubitril/valsartan. ESC Heart Fail. 2018. PMC: PMC6394573
- [17] NICE Guideline NG136. Hypertension in adults: diagnosis and management. (2019–update). NICE NG136
- [18] Sheppard JP, et al. (OPTIMISE Trial). Effect of Antihypertensive Medication Reduction in Older Adults. JAMA. 2020. PubMed: 32250416
- [19] Reeve E, et al. Withdrawal of antihypertensive drugs in older people. Cochrane Database Syst Rev. 2020. PubMed: 33169832
- [20] Du X, et al. Association of Blood Pressure With Stroke Risk, Stratified by Age and Stroke Type. Front Neurol. 2019. Web
- [21] Ettehad D, et al. Blood pressure lowering for prevention of cardiovascular disease. Lancet. 2016. PubMed: 26724178
- [22] SPRINT MIND Investigators. Intensive vs Standard BP Control and Probable Dementia. JAMA. 2019. PMC: PMC6439590
- [23] Peters R, et al. Blood pressure lowering and prevention of dementia: IPD meta-analysis. Eur Heart J. 2022. PubMed: 36282295