筋ジストロフィーとミオパチー(炎症性・先天性・ミトコンドリア)— 診断・治療と最新エビデンス

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科吉祥寺駅徒歩1分

当院では、筋ジストロフィーミオパチー(炎症性/先天性/ミトコンドリアなど)を分けて評価します。問診・診察に加え、血液検査(CKなど)筋MRI・筋電図、必要に応じて筋生検・遺伝学的検査を組み合わせ、診断します[1][2]

レッドフラッグ(緊急評価):①息苦しさ・むせが増えた(呼吸/飲み込みの筋肉の障害)、②濃い褐色尿(筋肉の壊れが強い疑い)、③数日〜数週で急に悪化、④とても高いCK心電図の異常がある場合。早い治療ほど回復しやすいため、迷ったらご相談ください[1]

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初診で確認すること:いつから・どの筋が弱いか、階段や立ち上がり、つまずき、飲み込み、息切れ、皮疹、関節症状、薬の服用歴(コレステロール薬など)、家族歴。
検査の例:CK/AST/ALT/LDH、ミオグロビン、甲状腺・電解質、自己抗体(血液の『目印』)、筋MRI・筋電図、必要に応じて筋生検・遺伝子検査[1][3][4]
治療の考え方:筋ジストロフィーリハビリ・呼吸/心臓・栄養の総合管理が基本で、病型によりステロイド(デュシェンヌ型など)や遺伝子治療を検討します[9][11][12]炎症性筋疾患飲み薬のステロイドが最初の治療で、必要に応じて免疫の薬(点滴や内服)を追加します。静脈注射の免疫グロブリンは、ステロイドで十分な効果が得られない場合に検討されます[5][6][18]

目次

筋ジストロフィーとは

筋ジストロフィーは、筋肉の細胞がこわれやすくなる遺伝性の病気の総称です。代表はデュシェンヌ型・ベッカー型(いずれもDMD遺伝子の変化で「ジストロフィン」というたんぱく質が不足)や、肢体型筋ジストロフィー顔面肩甲上腕型眼咽頭筋型筋強直性ジストロフィーなどです[9][11][12][13][14][15]

まとめると:筋ジストロフィーは遺伝子の変化が原因。病型によって症状の出方や進み方、合併症(心臓・呼吸・飲み込みなど)が異なります。

筋ジストロフィー:原因・遺伝・種類と症状

  • よくある症状:階段や立ち上がりの困難、つまずきやすい、腕を上げ続けにくい、肩甲骨の翼状、ふくらはぎが固い/太い、表情が乏しい、口笛が難しい、飲み込みにくい、動悸や息切れ。
  • 原因・遺伝:遺伝子の変化により筋肉の構造や修復がうまくいかず、ゆっくり進みます。常染色体優性/劣性X連鎖で遺伝しますが、家族にいなくても新しく起こる変化で発症することがあります[9][14]
疾患 好発年齢 代表的症状・手がかり 自然歴 原因遺伝子/遺伝形式
デュシェンヌ型筋ジストロフィー 幼児期(2〜5歳) 太もも・骨盤周りの筋力低下、転びやすい、ふくらはぎの仮性肥大CKが高い、心筋の障害・呼吸筋の低下[9][11][12] ゆっくり進行。思春期ごろに歩行を失うことが多いが、ステロイドと総合的ケアで歩行期間がのびます[11][12] DMD(ジストロフィン)/X連鎖
ベッカー型筋ジストロフィー 思春期〜成人 近位筋の弱さ、運動で疲れやすい、ふくらはぎが太い、CK高値。ときに心筋症が先に目立つ[9] ゆっくり進行。成人期まで歩ける方が多いが、心筋症が経過に影響します[9] DMD(ジストロフィンが一部残る変化)/X連鎖
肢体型筋ジストロフィー 学童〜成人 肩・骨盤帯の筋力低下、階段がつらい。筋MRIの分布と遺伝子検査が手がかり[14] 幅がある(タイプにより重さや心肺の合併の頻度が異なる)[14] CAPN3DYSF、サルコグリカン遺伝子群ほか/常染色体(優性/劣性)[14]
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー 思春期〜成人 口笛が吹きにくい・目を強く閉じにくいなど顔の筋力低下、肩甲骨の翼状化、左右差が目立つ[13] ゆっくり進行。命に関わることは少ないが、腕を上げ続ける・歩くなどに支障が残り得る[13] 4q35のD4Z4反復短小化DUX4発現/常染色体優性[13]
眼咽頭筋型筋ジストロフィー 40〜60代 眼瞼下垂飲み込みにくさが中心。構音障害。近位筋は軽いことが多い ゆっくり進行。飲み込みの問題は少しずつ強くなり、むせ・体重減少に注意 PABPN1 GCN反復延長/常染色体優性(まれに劣性)
筋強直性ジストロフィー1型 出生〜成人(表現型は多様) 筋強直(力を抜きにくい)、遠位筋の弱さ、白内障、心臓の伝導異常、内分泌の合併など[15] ゆっくり進行。いろいろな臓器に症状がたまっていく。心臓のリズム異常の管理が大切。世代が下がるほど重くなりやすい[15] DMPK(CTG反復拡大)/常染色体優性[15]
筋強直性ジストロフィー2型 成人(30〜60歳) 近位筋の筋痛・こわばり、筋強直は軽め、白内障、内分泌異常[15] ゆっくり進行。1型より心臓・呼吸の問題は軽い傾向だが個人差あり[15] CNBP(CCTG反復拡大)/常染色体優性[15]
まとめると:病名・年齢・症状の分布遺伝情報を合わせて全体像をつかみます。

ミオパチー顔貌とは

ミオパチー顔貌は、顔の筋肉が弱いことで表情が乏しく見えたり、口が少し開きがち、口笛が吹きにくい、といった所見を指します。
顔面肩甲上腕型では目を強く閉じにくい・口笛が難しい眼咽頭筋型ではまぶたが下がる・飲み込みにくい筋強直性ジストロフィーでは「こわばって力が抜けにくい(筋強直)」や特徴的な表情がみられます[13][15]

まとめると:顔の筋力低下は重要な手がかり顔面肩甲上腕型・眼咽頭筋型・筋強直性ジストロフィーで目立ちます。

大人になってからの筋ジストロフィー

成人発症の筋ジストロフィーもあります。顔面肩甲上腕型眼咽頭筋型筋強直性ジストロフィー(特に2型)、一部の肢体型ベッカー型は大人になってから気づかれます。「最近、肩が上がらない」「飲み込みづらい」などの変化がヒントです[13][14][15]

まとめると:大人でも起こるタイプがあります。日常の小さな変化を手がかりに、早めの評価が大切です。

ミオパチー:定義と主な種類(炎症性/先天性/ミトコンドリア)

地域で言葉の使い方に差はありますが、本ページでは筋ジストロフィーを除いた筋肉の病気を便宜上ミオパチーと呼び、①炎症性筋疾患②先天性ミオパチー③ミトコンドリアミオパチーに分けて整理します[1][16][17]

カテゴリー 主な病型・自己抗体/遺伝子(例) 代表的な症状・合併症
炎症性筋疾患
(自己免疫が関わるタイプ)
皮膚筋炎(抗MDA5, 抗Mi‑2 など)/抗合成酵素症候群(抗ARS)/免疫介在性壊死性ミオパチー(抗SRP, 抗HMGCR)/封入体筋炎 など[1][5][8] 太もも・肩など体幹に近い筋肉の弱さ、皮疹、咳や息切れが続く肺の病気、関節の痛み。封入体筋炎は手の指を曲げる筋・太ももの前側の左右差のある弱さや飲み込みづらさが目立ちます[1][8]
先天性ミオパチー 中核(central core:RYR1)/ネマリン(NEB, ACTA1)/中心核(MTM1, DNM2, BIN1)など[17] 乳児〜小児期からの筋力・筋緊張の弱さ、顔や眼の筋の関与、背骨や関節の変形。タイプにより進み方や合併が異なります[17]
ミトコンドリアミオパチー MELAS(mtDNA m.3243A>G など)/MERRF/CPEO(mtDNA欠失、POLGなど)[16] 運動すると強い疲れや痛み、まぶたが下がる・目が動きにくい、頭痛やけいれん、聴こえにくさ、糖尿病など全身の症状が組み合わさります[16]
まとめると:炎症性は体の免疫が筋肉を攻撃、先天性は生まれつきの筋の設計図の違い、ミトコンドリアは細胞の発電所の不調が中心です。

炎症性筋疾患の種類(詳細)

2017年のACR/EULAR分類基準に沿って、主な病型のポイントをまとめました[2][1]

病型 特徴 治療の考え方
皮膚筋炎 太もも・肩の筋力低下に、手や顔の特徴的な皮疹が加わる。
一部で肺に炎症が広がりやすいタイプがあり、咳や息切れに注意[5]
最初は飲み薬のステロイドが基本。十分な効果が得られない場合、静脈注射の免疫グロブリン(海外試験で有効性が示されています[6])を検討します。日本の保険でも、原則ステロイドで効果不十分な場合に使える選択肢です[18]
抗合成酵素症候群 筋炎にせき・息切れが続く肺の病気、関節の痛み、手のひらのひどいひび割れ(機械工の手のような所見)が合わさる[1] ステロイドを中心に、必要に応じて免疫の薬を追加して体全体(肺・関節・皮膚)を同時に治療します[1]
免疫介在性壊死性ミオパチー 比較的急に筋力が落ち、CKがとても高くなる。
コレステロールの薬(スタチン)に関連するタイプが知られています[3][4]
高用量のステロイドを早めに開始し、必要に応じて免疫の薬や免疫グロブリンの静脈注射を組み合わせます[3]。スタチンが関わる場合は中止が原則です[4]
封入体筋炎 手の指を曲げる筋・太ももの前側が片側優位に弱くなることが多い。
飲み込みづらさも出やすく、薬による改善が乏しいのが特徴[8]
むせ・転倒を防ぐ工夫、歩行補助具、嚥下リハ、家の環境整備など生活を守る治療が中心です[8]
まとめると:炎症性筋疾患はまずステロイド、効きが不十分なら点滴などの免疫療法を追加。合併する肺・関節・皮膚の症状にも同時に対応します。

診断の流れ(検査)

  • 血液検査:CK・AST/ALT・LDH、ミオグロビン、甲状腺・電解質、自己抗体(血液の『目印』)など。薬の服用歴(スタチンなど)も確認します[1][4]
  • 筋MRI:炎症や脂肪の置き換わりの分布が分かり、生検部位の選択にも役立ちます[1]
  • 筋電図(EMG):筋原性の変化や炎症のサインを確認します。
  • 筋生検:筋肉の一部を手術で採取し、顕微鏡で観察することで診断します。
  • 遺伝学的検査:筋ジストロフィーや先天性/ミトコンドリアミオパチーの確定に有用。遺伝カウンセリングも重要です[9][14][16][17]
まとめると:血液→画像→電気生理→筋生検/遺伝子検査を用いて診断します。症状の出方と検査結果を組み合わせて、無理のない範囲で確定診断に近づきます。

治療(筋ジストロフィー/炎症性筋疾患)

目標:筋力・日常生活機能を保ち、合併症を予防することです。

領域 主な治療 根拠・補足
筋ジストロフィー リハビリ(柔軟性・転倒予防)/呼吸リハ・咳の補助/心臓・呼吸の管理/栄養支援
(病型により)ステロイド(デュシェンヌ型)、遺伝子治療、装具・手術(肩甲骨固定など)
国際指針に基づく包括的管理(呼吸・心臓・栄養・リハ)とステロイド[11][12]。新しい治療は適応と安全性を個別に検討されます[9]
炎症性筋疾患 最初はステロイド内服が基本。状況に応じて免疫の薬(内服や点滴)を追加。
静脈注射の免疫グロブリンは、ステロイドで不十分な場合の選択肢です
筋炎では免疫グロブリンの静注の有効性を国際試験が示しています[6]。国内ではステロイド効果不十分が保険の前提です[18]
壊死性のタイプ(スタチン関連を含む)
=免疫介在性壊死性ミオパチー
高用量のステロイドを早めに開始し、必要に応じて免疫の薬免疫グロブリン静注を併用。
スタチンが関わる場合は中止
自己抗体や筋生検所見を手掛かりに、早期の集中的治療で機能回復を目指します[3][4]
封入体筋炎 安全な範囲の運動療法/嚥下・栄養・歩行補助/住宅の段差解消・転倒対策 薬の効果は限定的で、支持療法(生活を守る治療)が中心です[8]

注意:薬の種類・量・保険適用は個別に確認します。免疫グロブリン静注は血栓や腎機能などに配慮が必要です(点滴速度・補液・既往歴の確認)[6]

まとめると:筋ジストロフィー長期のサポート+合併症管理炎症性筋疾患ステロイド開始→必要なら追加の免疫療法が基本です。

日常生活とリハビリのコツ

  • 安全第一:転倒予防(段差・手すり・滑り止め)、浴室や玄関の環境調整。
  • 呼吸を守る:夜間の息苦しさやいびき・無呼吸が疑われたら、睡眠検査や呼吸リハを検討。
  • 筋力維持:痛みが強くならない範囲での低〜中等度の反復運動とストレッチ。過度の無理は避ける。
  • 嚥下・栄養:むせ・体重減少があれば嚥下評価。食形態の工夫や栄養補助を早めに。
まとめると:転倒・むせ・呼吸を守る工夫と、無理のない運動が基本。症状に合わせた多職種連携で生活を支えます。

よくある質問(FAQ)

Q1.「筋肉が衰える病気」には何がありますか?

A:大きく筋ジストロフィー(遺伝性)とミオパチー(炎症性・先天性・ミトコンドリア など)に分けて考えます。ほかに内分泌・代謝の異常でも筋力低下が起こります[1][4]

Q2.筋ジストロフィーは遺伝ですか? 家族にいなくても発症しますか?

A:多くは遺伝性ですが、新しく起こる遺伝子変化で家族歴がなくても発症します。遺伝形式によって家族への遺伝確率が変わるため、遺伝カウンセリングが役立ちます[9][14]

Q3.大人になってからの筋ジストロフィーはありますか?

A:はい。顔面肩甲上腕型眼咽頭筋型筋強直性ジストロフィー(特に2型)、一部の肢体型ベッカー型は成人で気づかれます[13][14][15]

Q4.どんなときにすぐ受診・救急が必要ですか?

A:息切れ・会話がつらい・むせが増えた濃い褐色尿(筋肉が強く壊れているサイン)、数日〜数週で急に悪化強い飲み込みの障害発熱を伴う息苦しさは緊急評価が必要です[1]

Q5.治療で筋力は回復しますか?

A:炎症性ミオパチーは早めのステロイド治療で改善が期待できます。皮膚筋炎では、ステロイドで十分な効果が得られない場合免疫グロブリンの静脈注射が選択肢となり、海外試験で有効性が示されています[6][18]。筋ジストロフィーは進行を遅らせる・合併症を防ぐ治療が中心ですが、病型により新しい治療の選択肢が広がっています[9][11]

この記事の監修者

大﨑 雅央(Masao Osaki)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科 院長
日本神経学会 神経内科専門医・指導医/日本内科学会 総合内科専門医

最終更新:

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参考文献

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  • [1] Lundberg IE, de Visser M, Werth VP. Idiopathic inflammatory myopathies. Nat Rev Dis Primers. 2021. PubMed
  • [2] Lundberg IE, et al. 2017 EULAR/ACR Classification Criteria for Adult and Juvenile IIM. Arthritis Rheumatol. 2017. PubMed
  • [3] Allenbach Y, Mammen AL, Benveniste O, Stenzel W. Immune-mediated necrotizing myopathies. Nat Rev Rheumatol. 2020. PubMed
  • [4] Mammen AL. Statin-Associated Autoimmune Myopathy. N Engl J Med. 2016. PubMed
  • [5] Dalakas MC. Dermatomyositis. N Engl J Med. 2020. PubMed
  • [6] Aggarwal R, et al. Trial of Intravenous Immune Globulin in Dermatomyositis (ProDERM). N Engl J Med. 2022. PubMed
  • [7] Oddis CV, et al. Rituximab in Refractory Myositis (RIM trial). Arthritis Rheum. 2013. PubMed / PMC
  • [8] Needham M, Mastaglia FL. Sporadic inclusion body myositis. Lancet Neurol. 2015. PubMed
  • [9] Duan D. Duchenne muscular dystrophy. Nat Rev Dis Primers. 2021. PubMed
  • [11] Birnkrant DJ, et al. DMD diagnosis and management, Part 1. Lancet Neurol. 2018. PubMed
  • [12] Birnkrant DJ, et al. DMD diagnosis and management, Part 2. Lancet Neurol. 2018. PubMed
  • [13] Statland JM, Tawil R. Facioscapulohumeral muscular dystrophy. Nat Rev Neurol. 2023. PubMed
  • [14] Straub V, et al. 2018 classification of limb-girdle muscular dystrophies. Neuromuscul Disord. 2018. PubMed
  • [15] Udd B, Krahe R. The myotonic dystrophies. Lancet. 2012. PubMed
  • [16] Gorman GS, et al. Mitochondrial diseases. Nat Rev Dis Primers. 2016. PubMed
  • [17] North KN, Ryan MM, Laing NG. Congenital myopathies. Nat Rev Neurol. 2014. PubMed
  • [18] 医療用医薬品「献血ヴェノグロブリン(静注用人免疫グロブリン)」添付文書(多発性筋炎・皮膚筋炎:ステロイド剤で効果不十分な場合に限る適応を記載)。JAPIC/KEGG医薬品データベース。リンク