脳ドックの「異常・所見」を、総合内科×脳神経内科の視点で安全に評価・予防へ

脳ドックで未破裂脳動脈瘤白質病変・無症候性脳梗塞(慢性虚血性変化)脳微小出血(CMB)脳萎縮頭蓋内・頸動脈狭窄・プラークなどを指摘された方へ。
当院では、所見の意味をわかりやすくご説明し、必要十分な追加検査生活習慣・薬物治療による全身リスク管理、必要時の専門連携まで丁寧に行います。

目次

脳ドックの異常所見のポイント

所見 初診での評価 対応・連携・フォロー
未破裂脳動脈瘤 画像のサイズ・部位・形状破裂リスク因子(年齢・高血圧・喫煙・家族歴など)を確認します。必要なら追加画像を連携施設に依頼します。
  • 基本:血圧管理・禁煙を徹底します。小さな動脈瘤は経過観察が中心です。
  • 連携:大きさや部位から治療が必要と考えられる場合は脳神経外科に迅速に相談します。
  • フォロー:目安は6〜12か月で画像を再確認します(個別調整)。
無症候性脳梗塞/白質病変(慢性虚血性変化) 血圧・脂質・血糖・喫煙・体重などの危険因子と症状の有無を確認します。必要に応じて頸動脈・頭蓋内血管も評価します。
  • 基本:血圧・脂質・血糖・体重の総合管理と禁煙を行います。抗血小板薬は個別判断です。
  • 連携:TIA(軽い脳卒中の前触れ)や症候性、高度狭窄が疑われる場合は専門科に相談します。
  • フォロー:生活・数値を定期確認し、画像は必要時に行います。
脳微小出血(CMB) 出血の部位・数・分布と、抗血小板薬・抗凝固薬などの服薬状況を確認します。
  • 基本:血圧管理を最優先します。抗血栓薬は慎重に判断します。
  • 連携:繰り返す出血や神経症状がある場合は専門科と協議します。
  • フォロー:生活指導を継続し、画像は症例に応じて再評価します。
脳萎縮 萎縮の分布・程度(海馬や側頭葉など)と年齢相応かを確認します。物忘れなどの症状の有無や、睡眠・うつ・薬剤・栄養・甲状腺など二次性要因も評価します。
  • 基本:血圧・脂質・血糖管理、運動・禁煙などの危険因子最適化を行います。
  • 連携:軽度認知障害や認知症が疑われる場合は記憶外来へご紹介します。
  • フォロー:症状や所見に応じて6〜12か月を目安に経過を確認します。
頭蓋内・頸動脈の狭窄/プラーク 狭窄の程度やプラークの性状をレポートで確認し、必要に応じてMRAや頸動脈エコーを追加します。
  • 基本:生活習慣の改善とスタチン等の薬物療法を行います。抗血小板薬は個別判断です。
  • 連携:症候性/高度狭窄や不安定プラークでは血管内治療・外科へ迅速に紹介します。
  • フォロー:6〜12か月を目安に画像フォローを行います(個別調整)。
まとめると:多くの方は緊急手術不要です。まず血圧を中心に全身リスクを整えること、そして6〜12か月を目安に画像や数値を見直すことが基本です。

※上記は無症候を前提にした一般的な流れです。実際の方針は年齢・併存症・所見の性状で個別に調整します。

脳ドックでの各異常所見について

未破裂脳動脈瘤

  • 概要:脳の動脈の一部がふくらんだ状態です。多くは無症状ですが、破裂するとくも膜下出血になります。
  • 起こりやすい症状:通常はありません。大きさや場所によっては物が二重に見えるなどの神経症状が出ることがあります。
  • 将来リスク:全体の破裂は約0.5〜1%/年です。7mm以上前交通・後交通・後方循環などの部位、とげ(daughter sac)がある場合は高くなります1,2
  • 対策(当院):まず血圧を下げる・禁煙を徹底します。低リスクは経過観察、高リスクは脳神経外科と相談します。画像の再確認は6〜12か月が目安です3
  • 関連:脳卒中(くも膜下出血)と強く関係します。認知症との直接の関係は限定的です。
まとめると:小さく低リスクの動脈瘤は経過観察が基本。血圧管理・禁煙が破裂リスク低減の土台で、高リスクは外科と連携します。

慢性虚血性変化(白質病変・無症候性脳梗塞)

  • 概要:MRIで見える白質高信号(WMH)や、症状のない小さな梗塞の跡です。脳の細い血管の弱りを示します。
  • 起こりやすい症状:多くは無症状ですが、歩く速度の低下や注意力の低下と関係することがあります。
  • 将来リスク:脳卒中(約2〜3倍)や認知症(約1.5〜2倍)の危険が上がります4,6。無症候性脳梗塞も同様にリスク上昇と関連します5,6
  • 対策(当院):血圧を最優先で整え、脂質・血糖・体重・禁煙・運動を総合的に改善します。抗血小板薬は一律ではなく、個別に判断します6
  • 関連:脳卒中認知症の両方と関係が強い所見です。
まとめると:脳小血管病のサインなので、まずは血圧、次に脂質・血糖・禁煙・運動抗血小板薬は所見だけを理由に一律開始しません

脳微小出血(CMB)

  • 概要:MRI(T2*・SWI)で見える点状の小さな出血の跡です。高血圧性小血管病アミロイド血管症の手がかりになります。
  • 起こりやすい症状:通常はありません。分布や数で原因の推定ができます。
  • 将来リスク:脳出血の危険が数倍に高まり、虚血性脳卒中の危険も上がります。多数ある方が抗血栓薬内服中だと出血の危険がさらに高まります6,7,8
  • 対策(当院):まず血圧管理です。血液をサラサラにする薬(抗血小板・抗凝固薬)は、出血と梗塞のバランスを見て個別に判断します6,7
  • 関連:脳卒中(特に脳出血)との関係が強い所見です。認知症との関連は報告がありますが、個人差が大きいと考えられています6
まとめると:最優先は血圧。抗血栓薬は数・分布・併存疾患で出血と梗塞のリスクを秤にかけ、個別判断します。

脳萎縮

  • 概要:脳全体や海馬などの体積が小さく見える状態です。年齢による変化もありますが、海馬の萎縮や進み方が速い場合は注意が必要です13,14,15,16
  • 起こりやすい症状:初期は無症状のこともありますが、物忘れや注意力の低下がみられることがあります。
  • 将来リスク:海馬の体積が小さい、または萎縮が速いほど、将来の認知症や機能低下と関連します13,14,15
  • 対策(当院):睡眠・うつ・薬剤・栄養(B12)・甲状腺などの二次性要因を見直し、血圧・脂質・血糖管理と運動・禁煙などを整えます。必要に応じて記憶外来と連携します16
  • 関連:認知症との関係が強い所見です。脳卒中とは、共有する血管危険因子(高血圧など)を介して関係します6
まとめると:年齢相応かどうかを見極め、二次性要因の点検+血圧・脂質・血糖管理を優先。必要に応じて記憶外来へ。

頭蓋内・頸動脈狭窄/プラーク

  • 概要:動脈硬化で血管の内腔が狭くなる状態です。症状がある方高度の狭窄では脳梗塞の危険が高くなります。
  • 起こりやすい症状:無症状で見つかることもありますが、TIA(短時間の麻痺や言葉のもつれ)や脳梗塞の既往がある場合は注意が必要です。
  • 将来リスク:頭蓋内狭窄集中的内科治療がステントより優れる成績です9頸動脈の症候性高度狭窄では内膜剥離術(CEA)が有効です10ステント(CAS)とCEAは長期成績はほぼ同等ですが、周術期の合併症が異なります11無症候ではまず厳格な内科治療を行い、条件を満たせば介入を検討します12
  • 対策(当院):禁煙・食事・運動とスタチン等の薬を組み合わせ、血圧や血糖も整えます。必要に応じて血管内治療・外科に迅速にご紹介します。
  • 関連:脳卒中との関係が最も強い所見です。認知機能との関連も報告されていますが、まずは脳梗塞の予防を優先します。
まとめると:第一選択は厳格な内科治療症候性・高度狭窄・不安定プラークでは速やかに専門へ連携し、再発予防を最優先します。

当院の対応内容(診療・検査・連携体制)

  • 画像とレポートの再確認:サイズ・部位・形状・狭窄率・プラーク性状/萎縮の分布などを丁寧に確認します。
  • 全身リスクの層別化:血圧・脂質・血糖・喫煙・体重・家族歴などを総合的に評価します。
  • 必要十分な追加検査:連携施設でのMRAや頸動脈エコーなどを適切に選択します。
  • 内科的管理:生活習慣の最適化と、スタチンなどの薬物療法を組み合わせます。
  • 迅速な専門連携:治療適応が疑われる場合、脳神経外科・血管内治療・記憶外来へ速やかにご紹介します。
まとめると:画像の読み直し+リスク層別化を起点に、生活×薬物療法地域の専門連携を一体化して進めます。

よくあるご質問(FAQ)

Q1.未破裂脳動脈瘤はどのくらい破裂しますか?

A:全体の目安は約0.5〜1%/年です。ただし、7mm以上前交通・後交通・後方循環などの部位、とげ(daughter sac)の有無で変わります。5年リスクはPHASESスコアで推定できます。1,2,3

Q2.白質病変や無症候性脳梗塞があると、認知症や脳卒中の危険は高いですか?

A:白質病変は将来の脳卒中(約2〜3倍)と認知症(約1.5〜2倍)の危険上昇と関連します。無症候性脳梗塞認知症・脳卒中の危険上昇と関連します。危険因子を総合的に整えることが大切です。4,5,6

Q3.脳微小出血があります。抗血小板薬や抗凝固薬は使えませんか?

A:一律の中止ではありません。脳出血の危険は上がりますが、同時に虚血性脳卒中の危険も上がります。数と分布、ほかの病気やお薬を踏まえて、出血と梗塞のバランスで個別に判断します(心房細動では一般にDOACの方がVKAより出血が少ない傾向があります)。6,7,8

Q4.頸動脈や頭蓋内の狭窄が見つかった場合、手術やステントは必要ですか?

A:症候性の高度狭窄では再血行再建(頸動脈はCEAが有効)が検討されます。頭蓋内狭窄は原則集中的内科治療が第一選択です。無症候はまず厳格な内科治療で、条件が合えば介入を検討します。9,10,11,12

Q5.脳萎縮は加齢でも起こりますか?病的な萎縮との違いと対策は?

A:加齢でも徐々に体積は減りますが、海馬の萎縮が目立つ、または進み方が速い場合は将来の認知症の危険と関連します。構造MRIは診療に役立つ指標です。睡眠・うつ・薬剤・栄養・甲状腺などを点検し、血圧・脂質・血糖管理や運動・禁煙を整えることが大切です。13,14,15,16

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この記事の監修者

院長 大﨑 雅央(Masao Osaki)

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科
日本神経学会 神経内科専門医/日本内科学会 総合内科専門医

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引用文献

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  1. Morita A, et al. The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort (UCAS Japan). N Engl J Med. 2012;366:2474–2482.
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