脱力(力が入らない)について:脳卒中・ギラン・バレー症候群(GBS)・重症筋無力症(MG)・脊髄障害

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科は吉祥寺駅徒歩1分です。武蔵野市、三鷹市、杉並区などの方も通いやすいクリニックです。
院長(神経内科専門医/総合内科専門医)が、脱力の「いつ始まり」「どのくらいの速さで進み」「体のどこに出ているか」をていねいにお聞きし、筋力・腱反射・感覚などを確認いたします。必要に応じて頭部/脊髄MRI・採血・神経伝導検査/針筋電図をご提案します。[1]

まず疑うべき代表的な病気のサイン(一例):

  • 急に片側の手足に力が入らない脳卒中を疑います。[2]
  • 数日で左右対称に足から上へ弱るギラン・バレー症候群(GBS)の可能性があります。[3]
  • 夕方に悪化・休むと少し良い、まぶたが下がる・ものが二重に見える → 重症筋無力症(MG)の特徴です。[4]
  • 背中の強い痛み+両脚の脱力やしびれ+尿が出にくい脊髄の障害などを疑います。[6]

目次

【今すぐ救急受診をおすすめする「脱力」】

  • 突然の片側の脱力・しびれ+ろれつが回らない/言葉が出ない脳卒中の疑い)[2]
  • 背中の痛み(帯状の痛み)+両脚の脱力・しびれ+尿や便が出にくい脊髄障害の疑い)[6]
  • 数日で左右対称に進む脱力、息苦しさ・飲み込みにくさ(ギラン・バレー症候群の疑い)[3]

当てはまる場合は#7119(救急相談センター)に相談し、指示に従って救急受診をお願いいたします。[2][3][6]

緊急性の高い「脱力」

緊急度ごとの目安
緊急度 病気 主な症状 ポイント
超緊急 脳卒中 突然の片側の脱力、言葉の障害・ろれつ不良・視野の異常など。 静注の治療は発症~4.5時間血管内治療は画像で選んで6~24時間で検討します。[2][7][8]
超緊急 脊髄の障害(圧迫・梗塞など) 背中の痛みのあとに両脚の脱力・しびれ、尿や便の異常。 緊急MRIで確認し、圧迫が原因ならできるだけ早い減圧が回復に関係します。[6][9]
緊急 ギラン・バレー症候群(GBS) 数日~2週間で進む左右対称の脱力、腱反射が弱い/消える。 入院で呼吸・飲み込みの見守りIVIgまたは血漿交換が有効です。[3][10]
準緊急 重症筋無力症(MG)悪化 まぶたが下がる・二重に見える・むせやすい・呼吸が苦しい。 呼吸の評価を優先し、入院のうえ免疫療法などを検討します。[4][11]
まとめ:突然の片側」「背中の痛み+両脚+排尿の異常」「数日で進む+呼吸や飲み込みの不調」は救急のサインです。

脱力のパターンと主な原因

脱力の出方(どこに・どんな速さで)を見ると、原因の場所が推測しやすくなります。

パターン/障害部位 代表的な病気 手がかり(目安)
片側(顔/手/足)/脳 脳卒中 など 突然の発症、言葉や視野の異常を伴うことがあります。[2]
左右対称・足から上へ/末梢神経 ギラン・バレー症候群 数日で進行、腱反射が弱くなります。[3]
夕方に悪化・休むと回復/神経筋接合部 重症筋無力症 まぶたが下がる、二重に見える、むせやすい等。[4]
胸から下など一定より下が弱い/脊髄 脊髄障害(圧迫・梗塞 など) 背中の痛み、尿や便の異常、感覚の境目が出ることがあります。[6]
数時間~数日の発作的脱力/電解質・内分泌 甲状腺機能亢進症に伴う周期性四肢麻痺 など 低カリウム血症、甲状腺ホルモンの異常で起こります。[5][12][20]
まとめ:時間の流れ(突然・数日で進む・発作的)と広がり方(片側・左右対称・胸から下)を手がかりに原因を考えます。

顔面麻痺とは・ベル麻痺とは

顔面麻痺は、顔の筋肉に力が入りにくくなる状態です。脳の障害では下顔面中心に出て額は動くことが多いのに対し、顔面神経そのものの障害(末梢)では額もしわ寄せが難しいのが目安です。

ベル麻痺(末梢性顔面神経麻痺)は、発症72時間以内のステロイドで回復率が上がります。抗ウイルス薬の単独効果ははっきりせず、併用の追加効果も限定的です。[14][15][16]

  • 受診の目安:顔以外の麻痺や言葉の障害を伴うときは脳卒中の確認を優先します。耳の強い痛みや水疱があるときはラムゼイ・ハント症候群の可能性があり耳鼻科と連携します。
  • ケア:まぶたが閉じにくいときは、目の保護(人工涙液・眼帯)が大切です。[16]
まとめ:額が動くかどうかで脳か神経かの見当がつきます。ベル麻痺は早期のステロイド+目の保護が基本です。

用語の意味(球麻痺・片麻痺・対麻痺)

用語 意味・主な症状 主な原因 ポイント
球麻痺 むせる・鼻声・飲み込みにくい・舌がやせる等。 ALS、GBSの一部、重症筋無力症など。 誤嚥と呼吸の安全確保を最優先にします。[17][11]
片麻痺 体の片側の筋力低下。言葉・感覚・視野の異常を伴うことがあります。 脳卒中が最多。 発症時刻の確認が重要で、再開通治療を検討します。[2][7][8]
対麻痺 両脚の筋力低下。感覚の境目や排尿の異常を伴うことが多いです。 脊髄障害(圧迫・梗塞など)、脊髄炎。 背中の痛み+排尿の異常は緊急MRIのサインです。[6][9]
まとめ:症状の出る部位(延髄/脳/脊髄)を意識して、呼吸・飲み込みの安全時間依存の治療を逃さないことが大切です。

脳卒中(急性片麻痺)

どんな病気ですか? 脳の血管が詰まる/破れることで、突然の片側の麻痺や言葉の障害が出ます。静注の治療は発症から4.5時間以内、画像で条件を満たせば血管内治療は6~24時間で検討されます。[2][7][8]

診断と治療: 直ちに救急搬送し、CT/CT灌流やMRIで評価します。高血圧・糖尿病・不整脈(心房細動)などの背景も一緒に整えます。

まとめ:発症時刻がとても重要です。あてはまる方はためらわず救急要請をお願いいたします。

脊髄障害(圧迫・梗塞など)

どんな病気ですか? 腫瘍・膿瘍・椎間板などによる圧迫や、血流の問題による脊髄梗塞で、両脚の脱力感覚の境目排尿/排便の異常が起こります。[6]

なぜ急ぐのですか? 進むと後遺症が残るため、緊急MRIが重要です。圧迫が原因なら、可能であれば早い減圧が回復に関係します。[6][9]

まとめ:背中の痛み+両脚の脱力+排尿の異常は赤信号です。すぐに評価が必要です。

ギラン・バレー症候群(Guillain‑Barré syndrome:GBS)

特徴: 多くは感染のあとに発症し、数日~2週間で進む左右対称の脱力腱反射の低下がみられます。重い例では人工呼吸が必要になることがあります。[3]

診断 病歴と診察にくわえ、髄液(たんぱくが上がる・細胞は少ない)や神経伝導検査で確認します。[3]
治療 IVIg(静注免疫グロブリン)または血漿交換が有効です。ステロイド単独は効果がありません[10]
注意 呼吸筋力や飲み込み、自律神経(不整脈・血圧変動)をしっかり見守ります。[3]
まとめ:進行する左右対称の脱力には入院治療が必要です。IVIg/血漿交換呼吸管理がポイントです。

重症筋無力症(Myasthenia Gravis:MG)

特徴: 日内で変動する易疲労性(夕方に悪化しやすい)があり、まぶたが下がる・二重に見える・鼻声・飲み込みにくいなどが出ます。抗AChR抗体/抗MuSK抗体、反復刺激試験・単線維筋電図が診断に役立ちます。[4]

急性期 呼吸・飲み込みの安全を最優先し、状況に応じてIVIg/血漿交換を行います。[11]
維持療法 抗コリンエステラーゼ薬、ステロイド、免疫抑制薬にくわえ、補体阻害薬(例:エクリズマブ/ラブリズマブ)やFcRn阻害薬(エフガルチギモド)などの新しい選択肢も、条件により使用します。[11][18][19]
まとめ:易疲労性+日内変動が特徴です。治療の選択肢が増えており、症状や生活に合わせて調整いたします。

薬剤性・内分泌性ミオパチー

スタチン関連自己免疫性ミオパチー(抗HMG‑CoA還元酵素抗体)は、薬をやめるだけでは改善せず、免疫療法が必要なことがあります。ステロイド筋症は痛みが少ない近位筋の脱力がゆっくり出るのが典型で、減量で改善することが多いです。[13]

まとめ:服用中のお薬やサプリの確認はとても重要です。受診時にお知らせください。

脱力の検査方法(必要に応じて選びます)

検査 分かること 行う場面の目安
診察(筋力・腱反射・感覚) 脳・脊髄・末梢神経・神経筋接合部・筋のどこに問題がありそうか見当をつけます。 すべての方でまず行います。[1]
頭部/脊髄MRI 脳卒中・腫瘍・脱髄、脊髄の圧迫や梗塞の有無を確認します。 片麻痺・対麻痺・背中の痛み+排尿の異常があるとき。[2][6]
採血(K, Mg, P, TSH, FT4, CK など) 電解質や甲状腺、筋の炎症の有無などを調べます。 発作的な脱力や全身のだるさ・心拍の異常を伴うとき。[1][5][12]
神経伝導検査/針筋電図 神経や筋のはたらきを電気で評価します。 GBS・末梢神経障害・筋疾患の見分けに役立ちます。[3]
抗体検査(抗AChR/抗MuSK/抗HMGCR など) MGやスタチン関連自己免疫性ミオパチーの診断の助けになります。 易疲労・むせ、スタチン使用歴があるときに検討します。[4][13]
呼吸の評価 呼吸筋の強さをチェックします。 むせや息切れがあるGBS/MGで重要です。[3][11]
まとめ:診察で方向性を決め、MRI・採血・電気生理・抗体・呼吸などを組み合わせて調べます。

当院での「脱力」診療の主な対応

  • 神経内科専門医による診察(筋力・反射・感覚の系統的チェック)
  • 頭部/脊髄MRI・採血・電気生理検査の迅速な手配
  • GBS・MGなどが疑われる場合の初期対応と、適切な医療機関への連携
  • 再発予防(血圧・血糖・脂質・甲状腺の管理、薬の見直し)
まとめ:緊急性の見きわめを最優先に、わかりやすく検査と治療の選択肢をご提案いたします。

【脱力】よくあるご質問(FAQ)

A. 受診の判断・緊急時の対応

片側の手足に急に力が入らなくなりました。どうすればよいですか?

脳卒中の可能性があります。直ちに救急要請し、発症時刻を確認してください。条件に合えば静注治療(~4.5時間)血管内治療(6~24時間)が検討されます。[2][7][8]

数日の経過で両脚が弱り、立ち上がれません。しびれもあります。

ギラン・バレー症候群などの可能性があり、救急での評価・入院治療が必要になることがあります。IVIgまたは血漿交換が有効で、呼吸・飲み込みの見守りが重要です。[3][10]

顔がゆがみました。脳卒中でしょうか?ベル麻痺でしょうか?

額が動く/動かないが目安です。ベル麻痺なら72時間以内のステロイドが推奨です。手足の麻痺や言葉の障害を伴えば脳卒中の評価を優先します。[14][15]

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この記事の監修者

院長 大﨑 雅央(Masao Osaki)

吉祥寺おおさき内科・脳神経内科
日本神経学会 神経内科専門医/日本内科学会 総合内科専門医

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参考文献(エビデンス)

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  1. Nayak R, et al. Practical approach to the patient with acute neuromuscular weakness. J Clin Neuromuscul Dis. 2017. PMC
  2. Powers WJ, et al. 2019 Update to the 2018 AHA/ASA Guidelines for the Early Management of Acute Ischemic Stroke. Stroke. 2019. Stroke
  3. Willison HJ, Jacobs BC, van Doorn PA. Guillain‑Barré syndrome. Lancet. 2016;388:717‑727. PubMed
  4. Gilhus NE, et al. Myasthenia Gravis. N Engl J Med. 2016;375:2570‑2581. NEJM
  5. Kung AWC. Thyrotoxic Periodic Paralysis: A Diagnostic Challenge. J Clin Endocrinol Metab. 2006;91:2490‑2495. JCEM
  6. Ropper AE, et al. Acute Spinal Cord Compression. N Engl J Med. 2017. NEJM
  7. Albers GW, et al. Thrombectomy for Stroke at 6 to 16 Hours with Selection by Perfusion Imaging (DEFUSE 3). N Engl J Med. 2018;378:708‑718. NEJM
  8. Nogueira RG, et al. Thrombectomy 6 to 24 Hours after Stroke with a Mismatch between Deficit and Infarct (DAWN). N Engl J Med. 2018;378:11‑21. NEJM
  9. Badhiwala JH, et al. The influence of timing of surgical decompression for acute spinal cord injury. 2021. PubMed
  10. Doets AY, et al. Pharmacological treatment other than corticosteroids, IVIg and plasma exchange for GBS. Cochrane. 2020. Cochrane
  11. Narayanaswami P, et al. International consensus guidance for management of myasthenia gravis: 2021 update. Neurology. 2021;96:114–122. PubMed
  12. Manoukian MA, et al. Clinical and Metabolic Features of Thyrotoxic Periodic Paralysis. JAMA Intern Med. 1999;159:601‑606. JAMA IM
  13. Mammen AL. Statin‑Associated Autoimmune Myopathy. N Engl J Med. 2016;374:664‑669. NEJM
  14. Sullivan FM, et al. Early Treatment with Prednisolone or Acyclovir in Bell’s Palsy. N Engl J Med. 2007;357:1598‑1607. NEJM
  15. Gronseth GS, et al. Evidence‑based guideline update: Steroids and antivirals for Bell palsy. Neurology. 2012. Neurology
  16. Baugh RF, et al. Clinical Practice Guideline: Bell’s Palsy. Otolaryngol Head Neck Surg. 2013. AAO‑HNSF
  17. Hardiman O, et al. Amyotrophic lateral sclerosis. Lancet. 2017;390:2084‑2098. (球麻痺の背景疾患として)
  18. Howard JF Jr., et al. Efgartigimod in generalised myasthenia gravis (ADAPT). Lancet Neurol. 2021. Lancet Neurol
  19. Vu T, et al. Ravulizumab in generalized myasthenia gravis. NEJM Evidence. 2022. NEJM Evidence
  20. Statland JM, et al. Review of the diagnosis and treatment of periodic paralysis. Muscle & Nerve. 2018. Muscle & Nerve