記憶障害について:もの忘れ・軽度認知障害(MCI)・認知症・せん妄・一過性全健忘(TGA)
吉祥寺おおさき内科・脳神経内科は吉祥寺駅徒歩1分。武蔵野市、三鷹市、杉並区などの方も通いやすいクリニックです。
神経内科専門医/総合内科専門医の院長が、「いつから・どのくらい続くか」「生活に支障が出ているか」を重視した問診と、ご家族からの聞き取り、簡易認知検査(ミニメンタルステート検査(MMSE)/モントリオール認知評価(MoCA))、必要に応じて採血(甲状腺・ビタミンB12等)・頭部MRIを行い、脳卒中などの緊急疾患を見落とさない診療を心がけます.[1]
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受診のきっかけ(外来の目安):
・ものの置き場所を繰り返し忘れる/同じ質問を何度もする
・家事・金銭管理・服薬などの日常生活(IADL/ADL)に支障が出はじめた
・急に数時間〜1日のあいだだけ今いる場所・日付が分からない(一過性全健忘(TGA))[10]
・発熱・けいれん・頭痛を伴う(脳炎・脳卒中などの可能性)
診療の進め方:初診では病歴聴取(本人+ご家族)・身体/神経診察・認知検査を行い、必要に応じて採血・画像を加えます。
目次
- 緊急性の高い『記憶障害・意識の変化』
- もの忘れと認知症の違い
- 記憶の仕組みとタイプ
- 記憶障害の主な原因と代表疾患
- 一過性全健忘(TGA)
- 記憶障害の検査方法
- 認知症の予防・生活(リスク低減)
- 治療と支援(薬物・非薬物)
- 当院での対応
- よくあるご質問(FAQ)
- 参考文献
緊急性の高い『記憶障害・意識の変化』
「急に様子がおかしい」「時間や場所が全く分からない」「呼びかけに反応が薄い」などは、脳卒中・感染症・代謝異常などが原因の可能性があり、早急な評価が必要です。[3]
| 緊急度 | 病態 | 症状の特徴 | 対応のポイント |
|---|---|---|---|
| 超緊急 | 脳卒中・けいれん後状態 | 言葉が出ない/麻痺・けいれん後のもうろう・頭痛などを伴う。 | 救急要請。けいれんは二次予防も考慮。 |
| 緊急 | 代謝・内科的異常 | 低血糖・低ナトリウム血症・低酸素血症・肝腎不全など。 | 採血・血糖・SpO2などを迅速に評価・是正。 |
| 緊急 | 中枢神経感染症(髄膜炎・脳炎) | 発熱・頭痛・項部硬直・意識障害。進行が速い。 | 救急での抗菌薬/抗ウイルス薬の早期投与が鍵。 |
| 超緊急 | せん妄(Delirium) | 数時間〜数日の急性発症。注意散漫・見当識障害(日時/場所)・睡眠覚醒の乱れ・意識レベルの揺れが特徴。 | 原因検索(感染・薬剤・脱水・低酸素・電解質異常など)を優先。[3] |
| 準緊急 | 一過性全健忘(TGA) | 数時間、新しいことを覚えられず同じ質問を繰り返す。意識は清明で神経脱落症状は乏しい。多くは自然回復。[10] | 脳卒中などとの鑑別を行い、必要に応じてMRIを検討。 |
迷ったら:急に進行する混乱・発熱・強い頭痛・けいれん・麻痺などを伴う場合は#7119(救急相談)や救急受診をご検討ください。
もの忘れと認知症の違い
「もの忘れ」は年齢とともに誰にでも起こり得ます。一方、認知症は、複数の認知領域(記憶・注意・言語・視空間・遂行機能など)の障害により、日常生活に支障(服薬・買い物・金銭管理・運転 等)が出ている状態を指します。中間に位置するのが軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)で、客観的な認知低下はあるものの、基本的な日常生活は自立している状態です。[1]
| 特徴 | 正常加齢の物忘れ | 軽度認知障害(MCI)/認知症 |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れるが、手がかりで思い出せることが多い。 | 体験全体を忘れる/手がかりでも思い出せないことが増える。 |
| 日常生活 | 生活の自立は保たれる。 | MCI:自立は概ね保たれる/認知症:支障が目立つ(金銭・服薬・運転 等)。 |
| ご本人の自覚 | 自覚あり・相談可能。 | MCIでは自覚があることが多い/認知症では自覚が乏しい場合がある。 |
| 経過の目安 | ゆるやか。日常に工夫で対応可能。 | MCIは2年で約15%が認知症へ進行する報告。[2] |
記憶の仕組みと「記憶障害」のタイプ
- 記銘・保持・想起の3段階のどこでつまずくかで、忘れ方が変わります(注意散漫=記銘低下/アルツハイマー病=保持障害など)。[1]
- 健忘型(新しいことを覚えにくい)/注意・遂行機能型(段取り・二つのことを同時に行うのが苦手)/言語・視空間型など。
- うつ病や不眠・不安、薬の副作用(抗コリン薬など)でも記憶が落ちることがあります。[11]
記憶障害の主な原因と代表疾患
| カテゴリー | 代表疾患 | ポイント |
|---|---|---|
| 変性疾患 | アルツハイマー病(AD)/レビー小体型認知症(DLB)/前頭側頭型認知症(FTD) | ADは記憶障害が中心、DLBは幻視・動作緩慢・寝言で暴れるなど、FTDは性格変化・脱抑制が目立つことがあります。[1] |
| 血管性 | 血管性認知症 | 脳梗塞の多発/歩行障害・注意障害が目立つことがあります。[1] |
| 可逆性 | 甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏、うつ病、睡眠時無呼吸、薬剤性(抗コリン薬・ベンゾジアゼピン等) | 採血・薬剤見直し・睡眠評価が有用です。[1][11] |
| その他 | 正常圧水頭症(NPH)、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、アルコール関連障害 など | 歩行障害+尿失禁+認知低下(NPHの三徴)などは画像で評価します。[1] |
一過性全健忘(TGA)
突然、数時間だけ新しい記憶が作れず、同じ質問を繰り返す一方、意識は清明で複雑な作業は保たれることが多い病態です。多くは自然に回復し、後遺症も少ないとされますが、当初は脳卒中やてんかんとの鑑別が必要です。[10]
記憶障害の検査方法(問診・検査)
| 検査 | 目的・分かること | 実施の目安 |
|---|---|---|
| 問診(本人+ご家族) | 発症時期・経過・日常生活の支障(IADL/ADL)・服薬歴・睡眠/気分。 | 初診の基本。ご家族の情報が非常に有用です。[1] |
| 簡易認知検査(Mini‑Cog/MoCA/MMSE/長谷川式(HDS‑R)) | スクリーニング・重症度の目安。MoCAは軽い障害に敏感。[12][13] | 健忘の種類や注意・遂行機能の偏りを把握します。 |
| 採血 | 甲状腺機能・ビタミンB12・電解質・炎症反応など。 | 可逆性原因の見落とし防止に。[1] |
| 頭部MRI | 血管性変化・萎縮パターン・腫瘍・慢性硬膜下血腫・水頭症などの評価。 | 症状・年齢・経過に応じて選択。[1] |
| 聴力・睡眠評価 | 聴力低下・睡眠時無呼吸は記憶に影響。補聴器介入で高リスク群の低下を抑制したRCTも。[6] | 聞き取りにくい/いびき・日中眠気などがある場合。 |
| バイオマーカー(髄液/PET等・血液p‑tau217など) | アルツハイマー病の病理学的裏付けに有用。近年は血液バイオマーカー(p‑tau217等)も登場し精度が高い報告がありますが、現時点では保険適用外であり、検査体制・偽陰性/偽陽性の課題もあります。[9] | 専門施設と連携し、適応・リスク・費用をご説明の上で検討します。 |
認知症の予防・生活(リスク低減)
世界的レビューでは、ライフコースにわたる因子の是正(教育・聴力・血圧・糖尿病・喫煙・運動・抑うつ・社会的孤立・睡眠・肥満・飲酒・外傷・大気汚染 等)で、将来の認知症の約40〜45%が遅らせられる可能性が示されています。[4][5]
治療と支援(薬物・非薬物)
当院での主な対応
- 本人+家族からの丁寧な問診と簡易認知検査(MMSE/MoCA)
- 採血(甲状腺・B12等)・頭部MRIの必要性判断と実施
- 薬剤性やうつ・睡眠障害・聴力低下などの可逆性因子の是正
- 必要時は専門施設(高度検査・治療)へご紹介(髄液/PET、抗アミロイド抗体など)
【記憶障害】よくあるご質問(FAQ)
A. 受診判断・検査
脳ドックは受けたほうが良いですか?
当院では認知症・脳卒中に特化したドック(認知症・脳卒中ドック)を行っています。ご家族に軽いもの忘れを指摘された方、高血圧・糖尿病・不整脈などのリスクがある方、運転やお仕事で記憶力が気になる方におすすめです。
内容・料金・項目の詳細は当院の脳ドックページをご覧ください。
どんな採血をしますか?
甲状腺・ビタミンB12・電解質など、可逆性原因の確認を行います。状況に応じて炎症反応等も追加します。[1]
血液でアルツハイマー病が分かるって本当ですか?
はい、可能性があります。近年、p‑tau217などの血液バイオマーカーが高い診断精度を示し、臨床導入が進んでいます。ただし、検査体制や偽陰性/偽陽性の課題があり、現時点でp‑tau217は日常臨床では利用できません。[9]
認知症のリスクを低減する方法はありますか?
あります。高血圧の管理、禁煙、適度な運動、バランスの良い食事、良質な睡眠、社会交流、難聴対策(補聴器など)、糖尿病やうつ病の治療、飲酒の見直しが役立ちます。科学的な根拠に基づく具体的な方法は、認知症リスク低減ページにまとめています。
B. 病気・治療
参考文献(エビデンス)
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- Arvanitakis Z, Shah RC, Bennett DA. Diagnosis and Management of Dementia. JAMA. 2019;322:1589–1599. JAMA
- Petersen RC, et al. Practice guideline update summary: Mild cognitive impairment. Neurology. 2018.(MCIの定義・進行率の報告)
- Marcantonio ER. Delirium in Hospitalized Older Adults. N Engl J Med. 2017;377:1456–1466. NEJM
- Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report. Lancet. 2020;396:413–446. Lancet
- Livingston G, et al. 2024 report update. Lancet. 2024.(修正可能因子14項目・理論上45%)
- Lin FR, et al. Hearing intervention vs health education to slow cognitive decline (ACHIEVE). Lancet. 2023;402:786–797. Lancet
- Williamson JD, et al. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Mild Cognitive Impairment. JAMA. 2019;321:553–561. JAMA
- van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;388:9–21. NEJM
- Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease. JAMA. 2023;330(12):1005–1015. JAMA
- Palmqvist S, et al. Blood Biomarkers to Detect Alzheimer Disease in Primary and Secondary Care. JAMA. 2024;332:(online). JAMA
- Coupland CAC, et al. Anticholinergic Drug Exposure and Risk of Dementia. JAMA Intern Med. 2019;179:1084–1093. JAMA Intern Med
- Ropper AH. Transient Global Amnesia. N Engl J Med. 2023;388:1227–1232. NEJM
- Nasreddine ZS, et al. The Montreal Cognitive Assessment (MoCA). J Am Geriatr Soc. 2005;53:695–699.
- Borson S, et al. Improving identification of cognitive impairment in primary care (Mini‑Cog). J Am Geriatr Soc. 2000;48: (suppl) S166–S170.